ビットフライヤーが宣言「暗号資産で世界再挑戦」

「グローバルへの再挑戦」を宣言したビットフライヤーの加納裕三社長は

ビットフライヤーの加納裕三社長は、創業10周年パーティーで「グローバルへの再挑戦」を宣言した(編集部撮影)

「グローバル・ナンバーワンはちょっと難しいかもしれないが、アジア・ナンバーワンを目指してがんばっていきたい」

暗号資産(仮想通貨)交換所のビットフライヤーが8月27日に都内で開いた創業10周年パーティー。その場で共同創業者の1人である加納裕三社長が口にしたのは、世界市場での復権に向けた宣言だった。

ビットフライヤーは国内トップ級の交換所で、顧客預かり資産の額は9000億円超と群を抜く。ただ2017年の「仮想通貨バブル」の頃は取引量で交換所世界1位だったが、現在は各国のライバルに大きく水をあけられている。

再挑戦に向けた布石が、今年7月に買収したFTXジャパンだ。2022年に破綻したアメリカFTXの日本法人で、アメリカの裁判所の資料によると取得価格は45億円。ビットフライヤー傘下で、従来の交換所から暗号資産カストディー(資産管理)を中核事業とする会社に衣替えする。社名も「保管」と「お金」の意味を込めた造語の「Custodiem」(カストディエム)に改めた。

買収の狙いはストック型ビジネス

FTXジャパンの買収により、ビットフライヤーはストック型ビジネスの確立を目指す。現状、国内交換所の利益は、顧客の暗号資産の売買を仲介することで手数料を稼ぐフロー型のビジネス。暗号資産の相場が低迷すると赤字に陥ってしまう。その点、カストディーなら預かっている暗号資産の額に応じて報酬が発生するので、相場に左右されにくい。

加納社長の発言から判断すると、強固なセキュリティーを売りにしていくようだ。「自分のウォレットや他社に送りたいときはカストディーの中で移転する。ブロックチェーンを触らない形にしたい」と将来像を語った。

FTXジャパンの買収は、日本での暗号資産現物ETF(上場投資信託)の解禁を見据えた動きでもある。今年1月、アメリカでビットコイン現物ETFが承認された。ETFであれば、個別株と同じように売買できて、ビットコイン現物を自ら持たなくてもビットコインへの投資効果を得られる。

ETFを組成する際には、裏付け資産となるビットコイン現物を預かる会社が必要になる。そこでカストディーの出番になるというわけだ。

一方、国内の暗号資産市場に目を向けると、取引額は停滞している。

レバレッジをかけることができ、売り建てもできる証拠金取引は、近年の規制強化で往時の勢いを失った。現物取引も前回の暗号資産ブーム時の2021年には及ばない。今年4月に口座開設数が1000万を突破したとはいえ、国内の暗号資産の流動性は低いのが実態だ。

国内交換所における取引額の推移

世界では、暗号資産の新規発行がスタートアップ企業などの資金調達手段としても活用されているが、日本ではいま一つ。世界最大手級の交換所の日本法人であるバイナンスジャパンの千野剛司代表は次のように明かす。

「流動性が薄く買い手もいないと、発行した暗号資産の価格が崩れる。日本では暗号資産を活用したプロジェクトをやりづらい。そのため企業は、海外で展開しようとバイナンスに相談がくる」。

コインチェック事件で国内失速

流動性が低い原因として、暗号資産売買の利益が総合課税の対象となり最大55%の税率が課されることや、個人は2倍までとなっている証拠金取引のレバレッジ倍率規制が影響していると考えられる。暗号資産の業界団体は金融庁などに規制緩和を要望しているが、実現への道は険しい。

国内交換所の凋落の始まりは2018年のコインチェック事件だった。巨額の暗号資産が盗難された同事件を機に、人や金を内部管理体制の強化に振り向けざるをえなかった。そんな日本勢を尻目に、技術やサービスの開発を進めてきた海外勢が世界上位の座を奪った。

千野代表は、現状の日本勢について「世界で戦えるレベルにはないと思う」と手厳しい。ただ、交換所ビジネスをめぐる制度が整備されたことで、「大企業や金融機関を招き入れる素地が整った」とも話す。外資の手に渡っていた国内交換所を昨年買収したソニーグループなどは、世界と伍する可能性がある。

今年はアメリカでのビットコイン現物ETF承認だけでなく、ビットコイン価格の1000万円到達、2014年に破綻した交換所マウントゴックスの債権者に対する弁済開始など、時代の節目を感じさせる出来事が続いている。

国内交換所大手では、ビットバンクが時期などは未定としつつも東京証券取引所への上場に向けて準備していることが、同社に出資するミクシィから公表された。ビットバンクもビットフライヤー同様、今年で創業10年だ。

日本勢の復権はそう簡単ではないだろう。だが、これまでの守勢一辺倒から攻めに転じたことの意味は大きいはずだ。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)

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