生鮮品の「ネットスーパー」使ってみてわかった壁

生鮮品のネットスーパー、使っていて感じたカベとはーー(GettyImages:gahsoon)

あらゆるものがネットで買える時代だ。洋服からデジタル用品、ニッチな趣味のものまでがネット通販で揃う。

しかし、ネットジャンキーでもなかなか手を出しにくいジャンルがある。食品、とくに生鮮食品だ。

砂糖やコーヒー豆といった保存食ならともかく、 肉・魚に野菜、卵に豆腐――日々の食卓に上る食材は鮮度が気になる。なるべくリアルの店舗でこの目で見て買いたい人が少なくないのではないだろうか。

しかし、合計金額を見ながら注文できるネットスーパーを使えば、「予算オーバー」と思えばカートから外すのも簡単、食費節約に役立つのではという声もある。

ネットスーパーであれば買い物総額の調整も簡単(写真:イトーヨーカドーネットスーパー公式サイトより)

炎天下や悪天候の日に、わざわざ食材の買い出しに出かけずに済む。筆者もそうしたネットスーパーのメリットは理解していたつもりだが、最近、足を怪我して外出不能になったのを機に、数カ所のネットスーパーを実際に利用してみた。

リアルスーパーとネットスーパー、どちらが食費節約に向いているだろうか。実際に試してみると、そこからは意外な盲点も見えてきた。

1回2000円以上という「送料の壁」

日本におけるネットスーパーは、2000年に西友が開始した「西友ネットスーパー」が草分け的存在という。その後、イオンやイトーヨーカドーなど大手が追随し、今ではどこでも当たり前の存在になった。

ネットEC大手のAmazonがこのジャンルに参入したのが2017年。Amazonフレッシュとして首都圏エリア限定でスタートした。現在では「ライフ」「成城石井」「バロー」「アークス」等のスーパーとも提携、利用対象エリアを拡大中だ。

首都圏で展開されているAmazonフレッシュ(画像:公式サイトより)

今回は、そのAmazonフレッシュを含む3カ所の大手ネットスーパーを利用してみた。節約の検証のため、プライベートブランドが人気のスーパーも使ってみた。

どのネットスーパーも、通常のネットショッピングのように商品を選んでカートに入れていく方式なので、合計額を見ればいくら買っているかはすぐにわかる。セール品のコーナーはあるが、リアルスーパーのように「よりどり3品で1000円」といったまとめ買いのポップに惑わされることもない。

今日は疲れたから出来合いの総菜で済まそうかと思っても、そんな商品の扱いはないので衝動買いも控えられる。これはいい調子だ――と思ったところに、ある落とし穴があった。

ネットスーパーの存在は知っていても利用しないという人が気にするのが、送料だろう。一定の金額以上買わないと無料にならず、安くても4000~5000円以上だったりする。

わが家では1回で5000円もの食品を買うことはまずないので、今回は300~400円の送料を払うのは仕方ないと納得したのだが、もっと手前にハードルがあったのだ。送料を払うとしても、商品代金のみで2000円以上買わないと、そもそも届けてもらうことができない(最低利用金額はスーパーによって異なるが、今回使ってみた3社はどこも2000円だった)。

これは、現在の物流問題を考えれば当然だろう。モヤシ1袋を家まで届けてください、はいわかりました送料400円です、とはいかない。それではビジネスとしてうまみがないからだ。

単価の安い食品だとハードルが高くなる

通常のネット通販でも事情は同じとはいえ、そこにスーパーならではの盲点があった。スーパーの食品は生活必需品のため、たいてい単価が安い。日々の食費を抑えようとやりくりしている庶民は、1円でも安いものを探して買おうとするのが性だからだ。

デパ地下の食材なら容易に2000円を超えるかもしれないが、いつもの調子でモヤシや納豆、豆腐にちくわに――と100円以下の節約食材をどれだけ買っても、なかなか2000円に届かない。まとめ買いしようと思っても、鮮度がすぐに落ちるモヤシのような生鮮食品をどっさり買うのはムダになりそうだ。なるべく安く買いたいという節約精神の持ち主にとって、2000円の壁は案外高いと痛感した。

加えて送料が別途400円ほどかかるわけで、その金額があれば刺身の1パックも買えるのでは……と思うと、ちょっと泣けてくる。ちなみに筆者は魚好きなのだが、鮮度が命の生魚の切り身や刺身は苦手なジャンルらしく、ネットスーパーでは種類が少ないうえに、高い。ここが改善されれば2000円の壁も低くなるのだが――。

リアルスーパーには「提案型」の誘惑がいっぱい

「2000円買うのが大変だった」と言っても、リアルなスーパーではうっかりオーバーすることもある。この差は何だろう。

何度かネットスーパーを利用したのちにリアルスーパーに行って、その理由に気づくことができた。「指名買い」と「提案買い」の違いがあるのだと。

これを買おうとの目的が先にある指名買いがネットスーパーだとすれば、「日曜日は家族で手巻き寿司を」「旬のサンマが入荷しました」「消費期限が間近のため、おつとめ価格です」と、売り場からどんどんアピールを発しているのがリアルスーパーだ。提案されれば、「では買っておこうか」とついカートに入れてしまう。

ネットスーパーでは「必要なものを買う」という事務的な購買行動になるが、リアルでは「これが欲しい」という物欲をあおられてのイレギュラー買いをしてしまうというわけか。

節約になるかという視点では、普段の買い物で一度に2000円も買わないという人にはメリットは少ないだろう。日常から週末に5000円以上まとめ買いをして、肉も魚も大量パックで冷凍保存する家庭なら効果があるといえそうだ。子ども連れで行くとお菓子をねだられたり、余計なものをついで買いして後悔しがちな人にも有効だろう。家まで届けてくれるので、車を使う人ならガソリン代の節約になるし、むろん時短にもなる。

ただし、前にも書いたようにモヤシや葉物野菜は日持ちしないので、買いだめには向かない。魚介類は干物や冷凍もの・調理済み商品が主になる。作り立てのお総菜も買えない。ネットスーパーだけですべてを補うのはなかなか難しい。

Amazonはやる気満々?

それでも、実際には一定の需要はあるのだろう。それは、首都圏限定でスタートしたAmazonが、その後対象エリアを拡大していることからもうかがえる。

なお、Amazonらしく、プライム会員だと配送料が200円ほど安くなる。しかし、送料無料になるには8000~1万円以上買わなくてはならない(プライム会員の場合)。

なお、今回利用したネットスーパーでは注文当日の配達に時間制限があったが、Amazonは「ご注文から最短2時間」とある。せっかくなので頼もうとしたが、追加料金がかかるとわかり断念した。なんと合計で1000円近い配送料を払うことになりそうだったのだ。

ネットスーパーが食費節約の助けになるかどうかは、今後の物流費次第ともいえる。しかも、Amazonの他の通販と違い、「置き配」の対応はない。配達時間帯に在宅して受け取らないとキャンセルになってしまったりする。置き配や再配達に慣れっこになっている現代人にとって、それもハードルだろう。

とはいえ、都市部に居住していても、体力や健康上の理由で徒歩5分先のスーパーに行くのも難しいというシニアも増えてくるだろう。そういう層にとって、ありがたい存在になることは間違いない。

ネットならではの「提案型スーパー」に期待

食費節約のポイントは、「適量を買って使い切ること」だと言うのが筆者の持論だ。その意味では、ネットスーパーは余計な「提案型」セールスに惑わされずに済むし、冷蔵庫の在庫を見ながら事務的に注文できるので、まだ残っている食材をうっかり買ってしまうこともない。

ただ、個人的には買い物の楽しさは味わえなかった。 筆者は料理を作るのが好きで、店頭で食材を見ながらあれこれメニューを考えたいほうだ。並ぶ野菜から季節を感じたり、米がそんなに品薄なのかと驚いたり、買い物をしながら学ぶことも多い。消費者の財布のひもを緩めるのは、そんなワクワク感なのだ。

ネットスーパーは今後どんな風に進化するだろうか? 家族人数と予算を入力するとぴったり収まる組み合わせを提示したり、AIがおすすめメニューとともに食材提案をしてきたり、できることはありそうだ。ネットスーパーならではのワクワク感を、ぜひ体験してみたい。

(松崎 のり子 : 消費経済ジャーナリスト)

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