新OSアップデートでガラリ変わる「iPad」の機能

11インチのiPad Pro

パブリックベータ版をインストールした11インチのiPad Pro。計算機をついに搭載した(筆者撮影)

新しいiPadOSの注目ポイント

アップルは、9月9日(現地時間)に新型iPhoneを発表する予定だ。名称は確定していないが、これまでのパターンを踏襲すればiPhone 16になるとみられる。iPhoneやiPadなどの端末を発売直後に購入するのは熱心なファンに限られるものの、例年どおりだとすれば、この発表から発売までの間に、最新OSの配信も始まる。現ユーザーがアップデートするという意味では、むしろこちらのほうが影響は大きい。

特にiPadは、最上位モデルのiPad Proが5月に発売されたばかりで、性能でこれを上回るようなハードウェアが登場する可能性は限りなく低い。その処理能力を生かしたOSバージョンアップを、待ち望んでいる人も少なくないはずだろう。Macと同じMシリーズのチップセットを備えた機種も増えており、AIなどの処理に力を発揮することが期待される。

前回の記事(「iPad」久々の新モデル、買い替えるべきか否か)で取り上げたように、iOSは画面のカスタマイズが大きなアップデートの1つ。これは、OSのベースが共通しているiPadOSでも同じだ。ブラウザーのSafariの新機能や、計算機など、ほかにも共通点は多い。一方で、Apple Pencilを生かしたアップデートは、むしろiPadOS向き。先に挙げた計算機も、iPadでは初めて登場したアプリになる。配信を間近に控えた今、一般公開されているパブリックベータ版を元に、新しいiPadOSの注目ポイントを予習していきたい。

ついにiPadに搭載された「計算機」

OSアップデートとともに、iPadOSに新たなアプリが加わる。電卓として使える計算機も、そんなアプリの1つだ。「え、電卓なかったの?」と思われる向きもありそうだが、実は初代iPadから、同シリーズには1回も計算機が搭載されたことはない。登場時から今に至るまで、ずっと搭載し続けてきたiPhoneとは対照的だ。

公に理由は語られていないが、各種メディアでは、iPadを開発した際に、故スティーブ・ジョブズ氏が“ボツ”にしたといわれている。単にiPhoneの計算機を引き延ばしただけで体験が変わらないのは、美しくないというのが主な理由だという。そんな因縁めいたエピソードまである計算機が、iPadOS 18でついに搭載されることになった。

といっても、起動直後の計算機はiPhone向けのそれを単純にiPadの画面サイズに合わせて引き伸ばしただけのように見える。ジョブズが怒りのあまり墓場から出てくる……新機種やアプリのデザインが期待外れだったときにSNSでしばしばつぶやかれるフレーズだが、これだとなぜiPad向けに搭載したかがよくわからない。

Apple Pencilを使ったメモ

Apple Pencilを使えば、数式もスムーズに書ける。大画面とペン対応のiPadに向けた機能といえそうだ(筆者撮影)

一方で、1回ボタンをタップするとiPadの広い画面を生かした機能を呼び出すことができる。他のアプリと同様、計算機にも画面を分割して2行表示する機能があり、左側に計算の履歴を表示しつつ、右側で実際の計算をすることが可能。計算した結果を次の計算に使いたいときなどには、履歴をすぐに参照できて便利だ。

また、iPadOSの計算機にも、「計算メモ」と呼ばれる新機能が搭載されている。メモという名のとおり、これは手書きを認識する。認識した計算式に基づき、自動的にその結果がはじき出される。同じ機能はiOS 18にも搭載されていたが、iPhoneの場合、横幅が短いため、少々式が書きづらかった。横位置で使うことも多いiPad向きの機能といえるだろう。

さらに、iPadであれば、現行モデルの全機種がApple Pencilに対応している。指で計算式を書くしかないiOSの計算メモに比べ、細かな文字を書きやすいのがiPadならではのメリットだ。計算のプロセスが複雑になるようなときには、電卓で1つ1つ文字を入力していくよりも操作が簡単で、入力ミスなども防ぎやすい。共通の新機能ながら、iPadでこそ活躍するといえそうだ。

手書き文字を見やすく編集できるスマートスクリプト

Apple Pencilで手書きできることを生かした新機能は、ほかにもある。メモアプリの「スマートスクリプト」が、それだ。これは、ユーザーの手書き文字を生かしつつ、より読みやすくするためのもの。英語しか認識しないようなものもあるが、日本語を書いたときに利用できる機能も用意されている。

元々メモアプリには、手書き文字を認識し、フォントに置き換える機能はあったが、これだとキーボードで打つのと変わりがなくなってしまう。手書き文字の“味”のようなものを残しつつ、より見やすく、キレイに手書きを整えてくれるというのがスマートスクリプトを使うメリットだ。

日本語にも対応している機能として、文字の傾き補正がある。筆者もそうだが、罫線がない白紙の上に文字を書いていくと、どうしても文字が右上がりになってしまう。スマートスクリプトを使うと、これを一発で補正してくれる。デジタルでの補正だが、筆者の筆跡はきちんと残されている。

スマートスクリプト

手書き文字に修正を加えられるスマートスクリプトも便利だ。英語のみだが、スペルミスを修正する機能も搭載されている(筆者撮影)

おもしろいのは、英語だとテキストとしてキーボードで入力した文字をコピーし、Apple Pencilで操作してペーストすると、それが手書きの文字になるという機能だ。手書き文字を認識してフォントにするのは比較的よくあるが、その逆をやっているということ。しかもペーストした文字は、自分の書いた文字にどことなく近く、自然だ。

例えば手書きの文字を使ってチラシなどを作りたいときに、この機能が生かせる。すべてを本当に手書きすると時間がかかるうえに、修正も面倒だが、これならキーボードでサクサク文字を打っていき、ペーストするだけでいい。

また、英語の場合、手書きでもスペルミスがきちんと指摘される。下線が点線で引かれ、その上に本来書きたかったであろうスペルが表示される。ここをタップすると、スペルミスが修正されるのだが、ここで修正された文字も手書きだ。筆者もあえて「commercial」というスペルを間違え、「m」を1つ書き忘れてみたが、この機能を使うと、あたかも自分が書いた文字のように修正された。

おそらく、周囲の文字を学習し、筆跡を近づけるようにしているのだろう。ただし、残念ながら手書きのペーストやスペルの修正は英語のみ。文字種が圧倒的に多い日本語にいつ対応できるかが未知数なのは不安要素だ。一方で、日本にいても、英文や英単語を使う機会はある。機能を体感するために、まずは英語で使い始めてみるといいだろう。

ホーム画面のカスタマイズ機能も搭載

先に述べたとおり、iPadOSはiOSをベースに開発されたOSで、iPadの画面サイズやApple Pencilなどの機能を加えたものだ。そのため、iOS 18とiPadOS 18では、共通の新機能も多い。計算機の計算メモは、その1つだ。iOS 18の売りである、ホーム画面の自由なカスタマイズもiPadOS 18に対応している。

iOS 18では、iPhone登場以降続いてきた左上から並ぶアイコンの自動整列がなくなり、アイコンをある程度自由に配置できるようになった。位置は整列されるため、完全に自由というわけではないものの、これまで不可能だった画面上部にアイコンを置かず、空白にしておくといったレイアウトも実現できる。

片手で持って親指で画面をタップすることが多いiPhoneとは異なり、iPadでアイコンを画面下部に集中させるメリットは少ないが、壁紙がよく見えるよう、被写体を避けて配置するといったことには使える。パソコンのように、アイコンを画面左右のどちらかに集中させてもいい(ホーム画面はファイルを置けるデスクトップではないので、あまりメリットはないが……)。

アイコン配置の例

アイコン配置の自由度が増し、左上からの自動整列がなくなった。色味を統一することも可能だ(筆者撮影)

また、アイコンの色調をダークモードに合わせて色を変えたり、1色に統一して、画面全体の雰囲気をより落ち着いたものにするといったことも可能だ。アイコンを1色で統一してしまうと、似た図版を用いたアプリの区別がしづらくなるデメリットはあるが、iPadがよりスタイリッシュな印象になる。

ホーム画面のカスタマイズに加え、コントロールセンターもより柔軟にそれぞれのボタンを配置できるようになった。サイズ変更や縦スクロールが取り入れられているため、よく使う機能のボタンを大きくしたり、音楽コントロールを1画面ぶんに広げてより操作しやすくしたりと、ユーザーの用途に合わせた変更が可能になっている。

このようにデザイン面では大きな変更のあるiPadOS 18だが、先に挙げたスマートスクリプトだけでなく、AIを使ったボイスメモの文字起こしなど、一部の機能は英語のみの対応になるのが少々残念だ。AI、特に言語が絡むとどうしても英語が優先になり、他の言語が二の次になる。AIを活用した新機能は待ち望んでいるユーザーも多いだけに、早期の多言語対応がアップルにとっての課題といえそうだ。

(石野 純也 : ケータイジャーナリスト)

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