サムスンが繰り出した「指輪型デバイス」の正体

Galaxy Ring

日本ではまだ発売が決まっていないサムスンのGalaxy Ring(筆者撮影)

最近、スマートフォンと接続できる指輪型デバイスが続々と登場している。おサイフ代わりの支払い用途に使える製品もあるが、種類が多いのが日々の運動量や心拍数を測定でき、睡眠状態も記録できるヘルスケア機能を搭載したものだ。

スマートリングとも呼ばれるこの指輪型デバイスはこれからメジャーな製品になっていくのだろうか?実は真打ちとも呼べそうな製品が今年(2024年)7月に海外で発売になっている。

【写真】指輪型デバイスであるサムスンのGalaxy Ringは、内側のセンサーで生体データを取得。透明な充電ケースもスタイリッシュだ

スマートウォッチの違いとは?

Apple Watchに代表されるスマートウォッチは、今や多くの人が手首に装着して日々の運動量の計測に使っているだろう。

スマートウォッチはそれだけの用途ではなく、スマートフォンからの通知を受けたり、また支払いにも利用できるおサイフ代わりのデバイスとして人気だ。腕時計と変わらぬ大きさながら1日の運動量からカロリー消費量を計測してくれたり、睡眠中の体の動きを検知して、快適な睡眠が取れたかどうかを記録してくれる。スマートウォッチは健康管理のためになくてはならないデバイスだろう。

しかしスマートウォッチには弱点がある。夜に帰宅してシャワーを浴びたあと、スマートウォッチを着け忘れて眠ってしまうと睡眠データを取得できない。夏の暑い日に1日外を歩き回っていれば、手首に汗をかいてスマートウォッチを外すこともあるだろう。ポケットに入れておいても歩数はカウントされるが、心拍数など直接手首から取得するデータは取れなくなってしまう。

筆者はスマートウォッチを10年以上使っているが、上記の理由などで腕から外すことが多く、たまたま昼寝してしまった時に装着しておらず、睡眠時間の計測ができていないことが多々あった。せっかくスマートウォッチを装着しているに睡眠管理は使い物にならず、時計と通知でしか活用していなかった。

だが、スマートリングの登場で筆者の健康管理に対する意識は180度変わった。スマートリングを人生初、指に装着して、たった一晩でだ。本稿執筆時では2週間が過ぎたが、指から外したのは最初に装着してから8日目、充電のためのたった2時間だけだ。24時間、常に指にはめているため、着け忘れによる睡眠データの取得漏れもなく、夏の屋外での移動中に外したことはないし、おかげで心拍数や血中酸素濃度をきちんと記録できている。

スマートリングで健康管理の意識が大きく変わった(筆者撮影)

24時間装着可能なGalaxy Ring

筆者が購入したスマートリング「Galaxy Ring」はスマートフォンメーカーのサムスン電子が発売した製品だ。重量は3グラム弱。指輪の幅は7ミリと、ちょっと太めのファッションリングのような大きさだ。カラーバリエーションはマットな仕上げのブラック、シルバー、さらに煌びやかな外観のゴールドの3色がある。指の太さのサイズに合わせて5号から13号まで9サイズあるため、ほとんどの人の指に合うだろう。

では、Galaxy Ringで何ができるのか? 搭載するセンサーの役割はスマートウォッチと同じで、運動量や生体データを取得できる。もちろん「歩数」もカウントするし、ランニング時の計測も可能だ。一方、スマートウォッチが対応する数々のスポーツアクティビティー、たとえばゴルフやスイミングなどの運動データ取得には対応しない。運動に関しては日常的な生活レベルでの「歩く、走る」という動きを記録できる。

Galaxy Ringの内側の指に当たる部分にセンサーがあり、ここから心拍数、血中酸素濃度、皮膚温度の計測を常に行っている。さらに身体の動きから睡眠状態も記録できる。

そして、Galaxy Ringから取得した運動や生体データはスマートフォンの専用アプリに記録され、アプリ側で消費カロリーの算出や、データに基づいた睡眠スコアの算出などが行われる。アプリでは睡眠状態を動物で表現したり、運動量と合わせた身体の状態をエナジースコアという数値で表示してくれる。このあたりはスマートウォッチでも似たような機能を持つ製品が多いが、Galaxy Ringなら睡眠記録の取りこぼしもなく、より正確に健康状態を把握できる。

Galaxy Ringは内側のセンサーで生体データを取得する(筆者撮影)

Galaxy Ringで変わった健康意識

機能の大半はスマートウォッチでもカバーできる。つまり、スマートウォッチがあればスマートリングは不要と考える人もいるだろう。だが、筆者が実際にGalaxy Ringを2週間使って感じたのは「装着することを意識せず生体データを取れること」の重要性だ。

前述したようにGalaxy Ringの充電頻度は1週間に1回程度、充電時間は約2時間。指から外さなければならない機会は非常に少ない。シャワー中もそのままだ。湯船に浸かる際は、さすがにGalaxy Ringをはめた手はお湯に入れないようにしているが、洗顔なども外さず行っている。それゆえ、就寝時に装着し忘れることがないのだ。

その結果、睡眠データを毎日見ることが習慣になった。スマートウォッチだけを使っていた時は、お酒を飲んで帰宅後、着替えながらウォッチを外し、気が付けばそのまま寝落ちし、翌朝起床してから昨晩スマートウォッチを外したままだったことに気付くことがよくあった。飲み会の後の睡眠データこそ確認したいのに、この調子で健康管理への関心が薄れてしまった。

よく運動をする人なら、運動後にスマートウォッチのアプリを見て「今日はどれくらい活動したか」などと結果を見るのは楽しみだろう。同様に、Galaxy Ringなら毎日確実に睡眠量を記録できるので、目覚めた時「昨晩どれくらい眠れたかな」と毎日必ず確認するのが楽しみだ。その体験を毎日続けていけば、健康に対する意識が自然と高まる。実際に筆者はこの2週間で毎日の就寝時間に気を付けるようになり、睡眠が短い時は昼寝をするなど、生活スタイルの改善を意識するようになった。

睡眠データの確実な記録が可能(筆者撮影)

スマホメーカーならではの強み

健康データを取得できるスマートリングは、ほかのメーカーからもすでに販売されている。機能はGalaxy Ringと同等であり、少しずつユーザーを増やしている。だが、それらの多くはフル機能を使うために月額料の支払いが必要となっている。それに対しGalaxy Ringは月額不要、本体を買うだけでフル機能を使えるのは大きな差だ。

また、Galaxy Ringはサムスン製品であることから、サムスンのほかのスマートウォッチやスマートフォンの健康・生体データと合わせての活用が可能だ。例えばス運動データはスマートウォッチ「Galaxy Watch」でデータを取り、睡眠データはGalaxy Ringを使うということもできる。それらはすべてサムスンのアプリで単一管理できるため、複数のアプリを使い分ける必要がない。

Galaxy Ringの機能はベーシックながら、ほかの製品との組み合わせで、より完璧なユーザー体験を生み出せるのが、スマートフォンメーカーが手掛けるスマートリング最大のメリットだろう。

なお、スマートフォンとの連携機能として、Galaxy Ringをはめたまま指先をつまむように素早く動かすと「カメラのシャッター」「アラームをOFF」という機能も搭載している。単純な機能だが、カメラ使用時にリモコンが不要だし、朝の起床時に起きたくない時、指先操作でアラーム音を消せるのは便利だ。

ところで最近、日本では支払い機能に使えるスマートリングがにわかに注目されている。Galaxy Ringには支払い機能はなく、それに対して5万円を超える価格(アメリカでは399ドル)は高いという声もある。しかし、健康管理の機能は、それを補うほど格上だ。今後、生命保険会社との連携など、ビジネスの拡大も期待できるだろう。

アップルはApple Watch、グーグルはPixel Watchで自社プラットフォーム内でデジタルヘルスを積極展開している。サムスンはスマートウォッチの欠点を補うスマートリングを投入したことで、デジタルヘルス市場における優位性を高めたと筆者は考える。

透明な充電ケースもスタイリッシュだ(筆者撮影)

(山根 康宏 : 携帯電話研究家・ジャーナリスト)

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