過去の「ジェットコースター相場」意外な"その後"

8月6日の電子証券ボード(© 2024 Bloomberg Finance LP)

7月半ばからの株式市場は急落や急騰を繰り返したことから「ジェットコースター相場」とも呼ばれています。海外の投機的な投資家が株価の急変動を主導したと見られますが、個人投資家のなかには冷静に対応した方も少なくなかったようです。

とはいえ、今後も株価が大きく変動して不透明な相場が続くなら「株式投資はよくわからない」と思ってしまう方も少なくないかもしれません。そこで過去を振り返って、今回と同じように株価変動が大きかった後の相場がどのように推移してきたかを調べてみました。

ジェットコースター相場を振り返る

まずは、今回のジェットコースター相場について振り返ってみましょう。
下図は日経平均株価と円ドルレートの為替の動きを並べたものです。円ドルレート(青線)は上昇すると円安、下落が円高を表していますが、日経平均株価(赤線)もこれに連動していることがわかります。つまり「円安で株価は上昇、円高で株価は下落」の関係です。

なぜ、このような関係があるのでしょうか。日本で輸入品を買う際、円安だと、その安くなった分の「円」が余計に必要になります。必要な「円」が増えることは、輸入品の値段が上がることです。近年のわが国の物価高には、このような円安が背景にあります。

ところが輸出をメインとする自動車や電気機器などの企業にとって円安はプラスに働きます。円安により円ベースでのモノの値段が上がるということは、裏を返せばドルベースではモノの値段が下がることになるからです。

輸出企業は自社製品(モノ)をドルベースで海外に安く売れるため、より多くの製品が売れるようになります。あくまでもドルベースでの値下げによるものですので、円ベースでの値下げになりません。ですから、単純により売れた分、売り上げの金額が増大します。専門的にはこれを「円安による価格競争力が上昇した」と言います。

日本企業全体で見ると、業績面で輸出企業の影響が大きいわけですから、円安場面では、円安メリットを受ける輸出企業が株式市場を牽引して上昇する傾向があるのです。反対の円高場面では株式市場は下落します。

今回のジェットコースター相場の起点は7月12日です。同日の日本株の下げはアメリカで物価高への懸念が後退するなか、景気への配慮から金利引き下げへの見通しが強まり、円高となったためです。

金利が下がるとその国の通貨は安くなります。人々は金利が高くて、たくさんの利息がもらえる国にお金を預けたいと考えるのが自然だからです。お金の流れは「金利が低い国(あるいは下がる国)→金利が高い国(あるいは上がる国)」へと向かうため、金利が下がる国の通貨が売られて(通貨安)、金利が上がる国の通貨が買われます(通貨高)。これが7月12日のアメリカの利下げ観測でドル安・円高となった理由です。

株安となった大きな要因

日本国内に関して見ると、日本銀行が7月31日に利上げを実施しました。さらに植田和男日銀総裁は今後数回の利上げに前向きな姿勢をにじませたことから、年内の追加利上げの見方が強まりました。これも円高理由です。

こうした、アメリカの金利低下と日本の金利上昇観測により引き起こされた円高が8月5日までの株安の大きな要因となっています。その後、日銀の内田眞一副総裁が8月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」と発言したことから安心感が高まり、円安・株高となり相場も反騰しました。

もちろん、9月27日の自民党総裁選、11月5日のアメリカ大統領選といった政治面での不透明感も株価の大きな変動に寄与しています。ただ、上図から足元までの相場の根底には金利見通しを背景とした円ドルレートがあることが確認できます。

このような相場環境のなかで、8月5日に日経平均株価が4451円下げ、下落率にして12.3%と史上第2位の下げを記録したことが、大きな話題となりました。また、翌日(6日)は、そのリバウンドで過去第4位となる10.2%上昇しました。

そこで過去、このように株価が大きく下落や上昇した後に相場がどのように推移したかを調べてみました。

第2次世界大戦後、東証が再開したのは、1949年5月16日です。直近の8月21日まで通算すると1万9656日の立会日を経験しましたが、日経平均株価の1日の騰落率が10%を上回ったのは、今回を除くと、下落と上昇、それぞれで3回ずつでした。そこで、当時を振り返って、その後の日経平均株価の騰落率をまとめてみました。

上段表は「1日の下落が10%を超えた日」、下段表が「1日の上昇が10%を超えた日」です。その後の20立会日(約1カ月)後までと40立会日(約2カ月)後までを見ると、特徴的な傾向が見られました。

上段の1日の下落が10%を超えた日の後の相場は上昇する傾向、1日の上昇が10%を超えた日の後の相場は下落する傾向がありました。大きな下落を経験した後は、その反動からその後の株価は上昇します。逆に、大きな上昇を経験した後は、その反動で下落する傾向です。

ジェットコースター相場後は、堅調な相場が期待

ところで今年8月は、5日に大幅下落、6日が大幅上昇と、下落と上昇を共に経験しました。このため上表の結果では、その後、下落と上昇のどちらの影響が強いのかがわかりません。

そこで、次表の分析を行いました。「月内において、1日の日経平均株価の騰落率が5%を超えて、上昇と下落の“両方経験”した月の翌月以降の騰落率」を見たものです。

対象となった月は今回を除いて32カ月ありました。上表からその後の平均騰落率を見ると上昇しています。また、対象月のうちその後に上昇した月の割合を見た「勝率」についても、6カ月後までで75%と高い割合となるなど、その後の上昇傾向の強さが見られます。

過去の傾向から見ると、ジェットコースター相場後は、堅調な相場が期待されます。

(吉野 貴晶 : ニッセイアセットマネジメント 投資工学開発センター長)

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