祇園祭の「ごみゼロ大作戦」に参加して感じたこと

祇園祭でのゴミの整理

祇園祭で設置された「エコステーション」内で、ストックされたごみを整理するボランティアのリーダーたち(写真:筆者撮影)

花火大会や祭りでにぎわった夏が過ぎ去ろうとしている。これから秋にかけても各地で祭りが予定されているが、祭りのごみは、誰が、どのように処理しているか、考えたことはあるだろうか。

昨年の記事で祭り後のごみ収集について述べたが、その後、京都市の清掃職員の皆さんが祇園祭でのボランティア活動「祇園祭ごみゼロ大作戦」に参加していると知り、筆者も仲間に加えていただいた。

今年の祇園祭の宵々山でこの活動に参加した経験を通し、ごみ収集の視点からの祭りの見物に行く際の心得について述べてみたい。

清掃関係者がごみ収集のボランティアに参加

祭りで生じるごみは「事業ごみ」として扱われ、主催者が処理・処分しなければならない。そのため祇園祭のごみは、市内の家庭ごみ収集を担う京都市清掃職員の方々の直接的な業務ではない。

しかし地域貢献の一環として、職場の労働組合(自治労京都市職員労働組合清掃支部)を通じて祇園祭のごみ回収に協力している。

ボランティアに参加した人たち

清掃支部長の中川純氏がリーダーとなり、清掃職員や清掃部署に勤務する事務職の方などに声をかけたところ、約50人が宵々山(7月15日)のボランティアに参加した(出所:自治労京都市職員労働組合清掃支部提供)

宵々山の7月15日は祝日だがごみ収集は行われており、清掃職員の皆さんや6つの「まち美化事務所」の職員の方々が業務終了後、自発的に参加していた。

挨拶する松井市長

当日は夕方から不安定な天気で一時、激しい雨に見舞われた。仮設テントでボランティア用の青色のTシャツに着替えた頃には雨が収まり、松井孝治市長(中央)や環境政策局長の激励を受けボランティアが始まった(写真:筆者撮影)
【写真】「祇園祭ごみゼロ大作戦」に参加した様子など(12枚)

日本三大祭りのひとつである祇園祭は京都の八坂神社の祭礼であり、毎年7月に1カ月間にわたって開催される。期間中にさまざまな祭事があるが、ハイライトとなる山鉾巡行が前祭(さきまつり)と後祭(あとまつり)で2回実施される。

前祭の山鉾巡行は7月17日で、その前々日の「宵々山」と前日の「宵山」では、夕暮れとともに山鉾に釣られた「駒形提灯」が灯る。四条烏丸周辺や河原町通の周辺の道路は18時から23時まで歩行者天国になり、多くの屋台が立ち並ぶ。

国内外から多くの見物客が押し寄せ、そこで購入した飲食物を片手に、「コンチキチン」の祇園囃子が響く中でライトアップされた幻想的な山鉾を見て回る。

駒形提灯が灯った鉾

駒形提灯が灯った鉾(写真:筆者撮影)

烏丸通に立ち並んだ夜店や屋台

烏丸通に立ち並んだ屋台(写真:筆者撮影)

宵々山と宵山での屋台から排出される使用済み容器等のごみは来場者の増加とともに年々、増え続けた。しかし、屋台からのごみが周辺地区へポイ捨てされ、地域住民の間では大きな問題となっていた。

そのため山鉾を保存する「祇園祭山鉾連合会」が、屋台の撤収後に徹夜でごみを拾って清掃する取り組みが長年続けられてきた。

「祇園祭ごみゼロ大作戦」とは何か

一方、多様な主体が参画し、地域ぐるみで地球温暖化防止策を推進する「京のアジェンダ21フォーラム」が始まり、2001年に分科会として「えこまつりワーキンググループ(WG)」が設置された。

このWGでは、祇園祭でのごみ削減を目指し、リデュース、リサイクルに重点をおいた仕組みづくりを検討。その中核にいたのが、のちに「NPO法人地域環境デザイン研究所ecotone」(以下、エコトーン)となる環境保護団体だ。

エコトーンはリユース食器の使用でイベントごみの減量をはかる取り組みを事業化した。2011年から2013年の祇園祭でリユース食器を使う「エコ屋台」を出店し実績を重ねていった。

その後、露天商組合とつながりができて協力が得られるようになり、祇園祭でのごみ削減を目指し、リユース食器の利用が進められていった。

このような経緯を経て、2014年からはエコトーンが核となり、他のNPO法人、行政(京都市の各部署、警察)、地域団体(山鉾連合会)、企業(事業ごみ収集業者、露天商組合、スポンサー企業等)、大学といった多数の主体が連携したプロジェクトとなる「祇園祭ごみゼロ大作戦」が始まった。

屋台の協力を得て使い捨て容器をリユース食器に置き換え、それらとともにごみを回収する拠点である「エコステーション」を23の山鉾が設置された山鉾町界隈に設置し、ごみ減量を実現する取り組みが特徴となっている。

リユース食器

祇園祭の宵々山・宵山の屋台で導入されたリユース食器。リユース食器はエコステーションへ返却する仕組みで、2023年の実績ではリユース食器導入量18万9200(個・枚)のうち紛失・破損は8703(個・枚)で、食器紛失・破損率は4.6%だった(画像:祇園祭ごみゼロ大作戦HPより)

2014年に始まって本年で11回目を迎える取り組みで、例年、2日間で延べ2400名を超えるボランティアを動員して行われている。

その活動としては、①リユース食器の露店への貸し出し、②食器回収等のオペレーション、③エコステーションでのリユース食器の回収とごみの分別回収の呼びかけ、④散乱ごみの清掃活動、がある。

筆者は今年、京都市の清掃職員の方々とともに、③の業務に携わらせていただいた。

システマティックな運営体制

「祇園祭ごみゼロ大作戦」のボランティアは、決められた時間に現場に行ってただ単に労力を提供するという形でなく、事前に研修を受けて取り組みへの理解を深めた上で当日参加する形となっている。団体で申し込んだ場合はオンラインでの説明動画を視聴して本番に臨む。

また、一般ボランティア(青色のシャツを着用)の指示を含む現場の運営や不測の事態への対応のためにリーダー(赤色のシャツを着用)が150名程度配置されており、こちらは5回にわたる事前研修を受ける。

延べ人数2400人のボランティアの力を結集できるように、それぞれのシフトや役割が決められ、システマティックな運営体制が構築されている。「大作戦」と言うだけの壮大な環境保全プロジェクトとなっている。

分別の声掛けとごみ・資源物の回収

18時から四条通と烏丸通が歩行者天国になり、車道に「エコステーション」が設置される。そこでは、リユース食器の回収とともに、燃やすごみ、缶、ペットボトル、ビン、箸・くし、飲み残し・食べ残し、が回収される。

筆者に割り与えられたシフトは19時30分からであったが、到着した時にはすでに多くのごみや資源物が回収されていた。

エコステーション

通行人をかき分けてエコステーションに到着(写真:筆者撮影)

ゴミ回収の様子

既に多くのごみが回収されていた(写真:筆者撮影)

エコステーションでは、次から次へと湧いてくる人に向けて、「ごみの分別へのご協力をお願いします」、「ごみ、分別してます。ご協力ください」と繰り返して声掛けしていく。分別して所定のごみ箱・回収箱に入れてもらえると、「ありがとうございます」と御礼を述べていく。

声かけする筆者など

エコステーションでの分別の声掛け。手前から書記長大久保氏、筆者、清掃支部長中川氏(写真:自治労京都市職員労働組合清掃支部提供)

リユース食器は、大カップ、小カップ、Sトレー、Mトレーの4種類が使用されているが、筆者のところにはそれほど持ち込まれなかった。燃やすごみ、缶、ペットボトル、ビン、箸・くしが多かった。

集積所に運び込む様子

集積所に運び込む様子(写真:筆者撮影)

集積所に集められたごみ

集積所に集められたごみ(写真:筆者撮影)

持ち込まれたごみや資源は、いったんステーションの中に置いておき、22時以降に設けられる集積所に移動させていく。そして、交通規制解除後に事業ごみ収集業者が収集して回る仕組みとなっていた。

祭り見物でのエチケット

「祇園祭ごみゼロ大作戦」のHPによると、取り組み開始前の2013年、ごみの廃棄物量は約57トン。取り組み10年目となった2023年、ごみの廃棄物量は約63トンと増えているが、来場者数も約12万人増えたので、1人あたりのごみ量としては減っている。

また、2023年におけるごみの資源化率は2013年比で7.3倍になっており、資源の分別活動が効果を挙げている。

一方、筆者がボランティアに参加し、気になったことがある。

筆者がステーションで分別を呼びかけていると、ごみ箱・回収箱に丁寧に入れて軽くお辞儀をしていく人もいれば、乱暴に投げ入れ、そそくさと去っていく人もいた。

子どもならまだしも、いい大人にこのような対応をされると、普段もごみ収集に携わる人へも同じような態度で接しているのではないかと思えてしまい、残念な気持ちになった。

また、相変わらず地べたには飲食容器や串がパラパラ落ちていたが、取り組みのおかげか、この規模の祭りにしてはかなり少ないという印象だった。

それでもポイ捨てされたゴミはゼロではなく、一部の人たちの軽率で心無い行動が垣間見られた。

路上にポイ捨てされた割りばし

路上にポイ捨てされた割り箸(写真:筆者撮影)

「祭り見物で飲食をするならば、その後のごみに責任を持つ」。

ごみの向こうの見えないところで尽力している多くの人々を想像しながら、求められる分別方法に従って排出するのが最低限のエチケットとなる。これが祭り見物者の心得として広く浸透していくように、本稿の趣旨をご理解いただける読者の皆さんとともに実践していきたく思っている。

【写真】「祇園祭ごみゼロ大作戦」に参加した様子など(12枚)

【参考文献】内田香奈「パートナーシップの進化プロセス : 祇園祭ごみゼロ大作戦を事例に」『龍谷大学大学院政策学研究』第7号、2018年、1-18頁。

(藤井 誠一郎 : 立教大学コミュニティ福祉学部准教授)

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