ついに到来!電子部品に訪れた「AIブーム」の濃淡

村田製作所のAIサーバー向け積層セラミックコンデンサーは米粒ほどの大きさ(写真左)、日東電工のCISは世界シェア100%だ(写真右、提供:村田製作所、日東電工)

「AIサーバー1基当たりで、1万から2万個ぐらいのMLCCの数量(が必要)になる」

村田製作所の中島規巨社長は、7月30日の決算説明会でこう言及した。MLCCとは、同社が主力とする積層セラミックコンデンサーのこと。従来型のサーバーと比べて5~10倍に搭載数が増加するという。

同日に発表された村田製作所の今2025年3月期第1四半期(4~6月)決算では、AIサーバー向け部品を含むコンピューター関連の売上高が658億円(前年同期比45.6%増)と急成長。こうした追い風もあり、本業のもうけとなる営業利益は663億円(同32.5%増)で着地した。

村田製作所は7月、新型MLCCの量産開始を発表。大きさは据え置きのまま、既存品と比べて約2倍の静電容量があり、AIサーバーでの使用を念頭に開発したという。

世界のデータセンター市場のうち、AIサーバー関連は現状で約10%を占めるとされ、その割合は高まっていくとみられる。同社のIR担当者は「コンピューター用途に計上しているもの以外に、代理店経由やHDD関連での取り込みもある」と恩恵の大きさを明かす。

需要の取り込みで明暗も

電子部品メーカーの好決算が相次いでいる。牽引するのは、急速に立ち上がったデータセンター関連の部品需要だ。生成AIの爆発的な普及に伴い、高機能AIサーバーへの投資が急増。大量のデータを取り扱うため、それを保存するためのHDD(ハードディスクドライブ)にも影響が波及する。

AIサーバーの特徴は、エヌビディアが圧倒的なシェアを握るGPU(画像処理装置)を搭載していることだ。頭脳の役割を果たすCPU(中央演算処理装置)を助けて、深層・機械学習などのアルゴリズム(計算手順)を効率化できる。一方で消費電力が劇的に増加するため、周辺に大量のコンデンサーを使用する必要がある。

MLCC大手の太陽誘電も、今2025年3月期第1四半期(4~6月)決算の営業利益は26億円(前年同期は約6億円の赤字)と急改善した。牽引したのはAIサーバー関連で、これを含む「情報インフラ・産業機器」用途が全体の売上高に占める割合は20%となっている。同社の福田智光・経営企画本部長は「AI向けデータセンター需要は、今後さらに拡大する」と見通す。

NVIDIAのGPUを搭載したAIサーバーが、世界中のAIデータセンターに設置されている(写真:NVIDIA)

追い風を受けるのは、MLCCだけではない。モーター世界大手のニデックは、AIサーバー向けの水冷モジュール装置が絶好調だ。期初計画では今2025年3月期の部門売上高200億円を見込んでいたが、足元の需要を受けて倍増を見込む。

一方で、活況に乗り遅れた企業もある。セラミック部品大手の京セラは、今2025年3月期第1四半期(4~6月)決算で営業利益210億円(前年同期比18.4%減)に沈んだ。主力のコアコンポーネント事業の落ち込みがその一因で、半導体関連部品は営業利益64億円(同18.1%減)にとどまった。

京セラの谷本秀夫社長は「有機パッケージ製品のGPU向け需要の取り込みが遅れた」と決算説明会で語った。これはエヌビディアに入り込めていない現状を指すとみられる。2番手以下の半導体メーカーでの認証作業を急いでいるものの、同社担当者は「本格的な業績への貢献は来期からになるだろう」と語る。

従来型データセンターも投資増加

好調なのはAI関連のデータセンターにとどまらない。従来型のデータセンターも、前期まで低調だったHDDへの設備投資を増やしている。

HDD用ヘッドとサスペンション大手のTDKは「AIが処理するデータ量の増加に伴い、既存データセンターの保存容量が足りなくなっている。高性能なHDD向け部品の需要が高まった」(担当者)と語る。これらを含む「磁気応用製品」セグメントは前2024年3月期に356億円、前々2023年3月期は564億円と2期連続で巨額の営業損失を計上しており、今期も赤字が残ると見込まれていた。

ところが今期第1四半期(4~6月)決算で、売上高550億円(前年同期比43.9%増)、営業利益8億円へ急浮上。TDKは「まだ需要動向に不透明な部分がある」と慎重だが、この調子が継続すれば通期黒字化も期待できそうだ。

総合材料メーカーの日東電工は、CIS(Circuit Integrated Suspension)という小さな製品を扱う。HDDに内蔵する記録用ディスクと接触して情報の読み書きを担う部品で、世界シェア100%とされる。

円安やこの高収益品の出荷数量が大幅に増えたことを受け、今2025年3月期の営業利益予想を当初見込みから400億円引き上げ、1800億円に修正。HDDの高容量化で搭載ディスク数が増え、1台当たりの使用量が伸びたのも後押しした。

総合部品大手のミネベアミツミも、HDD向け部品の旺盛な需要などを背景に、業績予想を上方修正。今2025年3月期の売上高は期初から600億円増の1兆5600億円、営業利益は同30億円増の1030億円を見込む。

同社はHDD関連で小型ベアリング、スピンドルモーターなど部品4種を供給する。貝沼由久会長は「(上方修正の額は)為替の不安定さもあり第1四半期の上振れ分のみにとどめたが、第2四半期も非常に強い手応えを感じている」と決算説明会で自信を見せた。

今後も投資の活況は続く

AI需要を背景としたデータセンター関連の投資は、しばらく活況が続くとみられる。国内では、シャープが大阪府堺市に所有するテレビ向け液晶パネル工場の跡地で、ソフトバンクやKDDIなどがAIデータセンターに転用する方向で検討が進んでいる。

アメリカのアマゾンも2023〜2027年にかけて、日本に約2.3兆円を投資すると明らかにしている。データセンター建設や運営体制の強化に充てるという。マイクロソフトも4月、日本へのAI関連設備などに今後2年間で約4400億円を投じると公表した。

こうした動きと比例し、関連部品の引き合いはさらに強まりそうだ。先端品を得意とする日本の電子部品メーカー各社にとっては絶好の商機。今後はAI投資のビッグウェーブに乗れるかが、成長の明暗を分けることになりそうだ。

(石川 陽一 : 東洋経済 記者)

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