統廃合から「軽量化」へと変わる3メガの店舗戦略

みずほ銀行が池袋に開業した口座開設専門の「池袋口座開設ショップ」。

みずほ銀行が池袋に開業した「池袋口座開設ショップ」。店内はほぼペーパーレスだ(撮影:今井康一)

東京北西部の玄関口「池袋」。みずほ銀行は今年、池袋駅西口に「口座開設」専門の店舗を開業した。文字通り、銀行口座の開設業務のみを担い、振込業務など「現金」の取り扱いは行わない。“キャッシュレス”ゆえ、店内は銀行店舗とは思えないほど簡素だ。

「池袋を通勤ルートとするビジネスパーソンや、周辺の大学、専門学校に通う学生など特に10代、20代の来店が多い」。池袋口座開設ショップの吉田さゆり所長は話す。運転免許証やマイナンバーカードを持たない人はインターネットでの口座開設が難しく、今も実店舗の需要は根強くあるという。

「軽量店」がじわり登場

みずほ銀行を含む3メガバンクは、経費削減策の一環として店舗統廃合を推進してきた。江戸川大学の杉山敏啓教授の調査によれば、ピーク時の2010年代に各メガバンクで700~1000店超あった店舗は、2023年時点で300店台にまで減少した。

3メガバンクの店舗数の推移

だが、足もとでは近隣店舗の集約による削減にも限界が見えてきた。そこで各行は、これまでの削減から、機能を絞り込んだ「軽量店」の展開に舵を切る。住宅ローンや金融商品の販売などに特化した「個人店」はもともと存在していたが、提供するサービスをさらに限定することで店舗の維持費を抑制する狙いだ。

池袋口座開設ショップはその一例で、通常の個人店と比較すると、年間の店舗維持コストは数千万円から1億円程度削減される。加えて、既存の個人店である「ライフデザインプラザ」全129店舗も、順次軽量化を進める。これはみずほ銀行が抱える店舗の約4割に相当する。

みずほ銀行以外のメガバンクも軽量店の展開に着手する。「従来の銀行店舗のように、取引をするためにわざわざ行く場所ではない。日常的に使うスマートフォンで銀行サービスが利用できる」。三井住友フィナンシャルグループ(FG)の中島達社長は力を込める。

同社は昨年3月、銀行、証券、カード、保険などの個人向け金融取引を集約したスーパーアプリ「オリーブ」を開始した。オリーブの拡販を掲げる同社は、約400存在する店舗の6割程度をアプリ利用の相談や手続きに特化した軽量店への転換を進める。

店舗戦略は「量」から「質」へ

さらに傘下の三井住友銀行は5月、スターバックスコーヒーとシェアラウンジを併設した店舗「オリーブラウンジ渋谷」を開業した。渋谷支店を大幅に改装し、1階の大半は共用エリアに、2階はシェアラウンジに生まれ変わった。銀行窓口は1階の隅で細々と営業するのみだ。東京・下高井戸や大阪・香里にも、同様のラウンジを設ける予定だ。

三菱UFJFGも軽量店の展開を模索する。「店舗統廃合にはめどがついた。今後は商業施設などに出店して利便性を図る」。6月27日の株主総会で亀澤宏規社長はこう述べた。昨年にはJR東日本と連携し、首都圏のターミナル駅に設置された個室ブース型シェアオフィスで資産運用のオンライン相談に乗るサービスを試験的に行った。

メスを入れる対象が「量」から「質」へと移りつつある、3メガバンクの店舗戦略。むろん、店舗の削減や軽量化によって利便性が損なわれれば、個人顧客の離反を招くリスクもはらむ。これからの個人向け店舗網をどう構築しようとしているのか、みずほ銀行の加藤勝彦頭取を直撃した。

――みずほの店舗戦略は。

リアル、デジタル、リモートの三位一体だ。これからの時代は、銀行の手続きはできるだけアプリで行い、相談にはコンタクトセンター(コールセンター)が対応する。ただ、デジタルが怖い、顔を見たいという理由で店舗に来る顧客は一定数いる。

これからの店舗の役割は、事務をこなすことよりも個人顧客の相談を受けることが重要になる。われわれが「ライフデザインプラザ」と呼ぶ個人店は全国に129あるが、今年から相談業務に特化した試行店を出店する。通常の銀行店舗よりも気軽に入れて相談しやすい仕様にし、数年以内に全店舗に展開したい。

立地や来店する顧客属性を踏まえて、店舗の構造や提供するサービス内容も変わるだろうが、われわれは(軽量店であっても)デジタルアプリの操作支援だけでなく、相談業務も行う。セルフ端末にはなるが、簡単な事務も行えるようにしたい。

それでも運営に必要な人員やスペースは減るため、出店先は路面店というよりも、利便性の高いショッピングモールへと移っていくだろう。

「存在意義がなければ地方も見直す」

――ライフデザインプラザとは別に、池袋に口座開設専門の店舗を開業しました。

時間のかかる口座開設を20分で済ませるコンセプトが上手くいくか、試行で始めた。池袋駅西口は大学が集まっているうえ、埼玉県からの玄関口でもある。ニーズは高いと考えて、あくまで口座開設という銀行サービスの入り口に特化した。職員の数やオペレーションなどを検証して、順次ほかの拠点でも展開していきたい。

――「ライフデザインプラザ」以外の店舗網の再編は。

3年前に首都圏を中心に総合店舗を個人・法人それぞれの特化型に分け、前者をライフデザインプラザとした。残る総合店舗は地方部が中心だが、これも個人・法人に分けるかは今後の検討課題だ。

ただ、来店者数は明らかにコロナ禍前より減っている。デジタルが普及して、手形や小切手の利用は減り、税金はQRコードで納付できるようになってきている。店舗の集約は今後も進んでいくだろう。

――ゆうちょ銀行を除けば、全都道府県に店舗を構えている銀行はみずほだけです。

各都道府県に支店があることは、われわれのシンボリックな部分だが、重要なのは各店舗が地域に貢献しているかだ。昨年、地域の課題解決を企画・推進する「地域創生デスク」を本部に設置した。すでに成果が出ており、取り組み事例を横展開したい。

採算性や取引規模を考えれば、(地方店を)集約するという議論はどうしても出てくる。みずほの存在意義がない地域が出てきたならば、残念ながら見直さないといけない。とはいえ、われわれにはデジタルやリモートのチャネルがあるので、それらを活用していきたい。

みずほ銀行・加藤勝彦頭取

加藤勝彦(かとう・まさひこ)/みずほ銀行 頭取。1965年生まれ。1988年富士銀行(現みずほ銀行)入行。2020年常務執行役員営業担当役員、2021年取締役副頭取などを経て2022年4月から現職(撮影:今井康一)

――実店舗の統廃合や軽量化が進んだ結果、預金が調達しにくくなる可能性は。

店舗戦略イコール預金の獲得、という時代があったのは事実だ。近所にあるという理由は、確かに顧客がその銀行と取引する動機の一つだ。だが、今はずいぶん様変わりした。必ずしも預金獲得が出店の目的ではないし、預金獲得競争をする時代でもない。デジタルが普及して、(近隣に店舗がなくとも)金利が高い銀行に預金を移す動きもある。

実店舗とアプリ、コンタクトセンターの3つの選択肢を提供する体制を整えているのがみずほの強みだ。資産運用にしても、実店舗で専門のアドバイザーに新NISAの相談ができるし、楽天証券やPayPay証券との提携もある。店舗がなくなることはプラスではないかもしれないが、それ以外の部分で満足度の高いサービスを提供し、取引を獲得していきたい。

(一井 純 : 東洋経済 記者)

ジャンルで探す