NHKが34年ぶりの「赤字」でも止まらない肥大化

NHK放送センター(写真:時事)

NHKが2024年3月期決算で34年ぶりに赤字になったという。昨年10月からの受信料1割引き下げに伴う、受信料収入の減少が原因として報じられているが、決算資料を詳細に読むと別の側面が浮かび上がってくる。

経常事業収入が減ったが、経費がほぼ横ばい

一般事業会社の営業利益に該当する経常事業収支差金は、単体で200億円、連結で115億円の赤字。一般事業会社の連結当期純利益に該当する当期事業収支差金は単体で129億円、連結で78億円の赤字だった。

報道では単体で136億円の赤字とされているが、これはNHK単体全体ではなく、有料インターネット活用業務や受託業務、交付金収入36億円を除外して計算した場合の数字である。

一般事業会社の連結売上高に該当する経常事業収入が前期比で384億円減ったのに、経費がほぼ横ばいだったことが赤字転落の原因である。

収入減の原因は言うまでもなく受信料収入の減少。これが400億円減っている。当期事業収支差金の悪化分は単体、連結ともに、受信料収入の減収分がそっくりそのままストレートに影響した形になっている。

前期比横ばいとなった経費の内訳については、連結では大雑把にしか開示されていないので単体を追ってみると、例年約半分を占める国内放送費は1.1%増。放送センターの建て替えが進行しているので、減価償却費は増えているのかと思いきや、70億円も減っている。

職員の給与水準の高さはしばしば問題視されるが、人件費は約50億円、率でいうと4%ほど減っているので、結果、経費は横ばいということのようだ。

ただ、今回の赤字、その中身をよく見てみる必要がある。

当期事業収支差金が78億円の赤字だが、事業キャッシュフロー(CF)は696億円のプラス。損益上は赤字なのに、現金ベースでは700億円近い利益を稼いでいる。なぜそんなに開きがあるのかというと、経費のうち約732億円が減価償却費、つまり出金を伴わない経費だからだ。

総資産の6割超が現預金と有価証券

前期までは、この現金ベースの利益が毎年1000億円を超えていた。この潤沢なキャッシュは渋谷の放送センターの建て替えなど固定資産取得に700億~800億円前後使ってもなお使いきれず、残りは有価証券投資に回されてきた。

2024年3月期も固定資産取得に660億円を使ってもなお、手持ちのキャッシュを前期末比166億円増やしている。

その結果がファンドと見紛うばかりのバランスシートである。2024年3月末時点でNHKの連結総資産は1兆2295億円。このうち金融資産(有価証券+現預金)が8940億円と、全体の61%を占める。

15年前と比較すると、資産規模は1.5倍、中でも金融資産は2.2倍に膨れ上がっている。43%程度だった金融資産の構成比も、12年ほど前から加速度的に上昇していったことがわかる。

NHKをめぐる議論では、なぜかこの度を越した巨額のため込みのことはあまり俎上に載らない。

減収にもかかわらず番組制作費は増加

無論、赤字になったのだから、これまで以上に経費の使い方は問われてしかるべきだ。職員1人あたり平均1000万円と言われる給与水準が公共放送のものとして正しいのか。

減収にもかかわらず番組制作費が増えた点についても、改めて公共放送として制作すべき番組は何なのか、議論されるべきだろう。

2024年3月期は、ニュース番組の制作費が前期比で33億円減った一方でスポーツ番組の制作費は38億円増えている。

バラエティ番組やドラマ、スポーツ中継などは民放が製作して放送すれば収益事業として扱われ、課税の対象になるが、NHKが製作すれば公共事業となり課税を免れる。

赤字がNHKのさらなる肥大化の免罪符にならないよう、この巨額のため込みをどう使っていくのかも同時に議論が求められる。

(伊藤 歩 : 金融ジャーナリスト)

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