化粧水「実は手作りがベスト」の科学的な理由

スキンケアをする女性

スキンケアに欠かせない化粧水ですが…(写真:zak/PIXTA)
肌の「うるおい」「透明感」とは何か?どうして何種類も液体をつけるのか?――。
こうしたスキンケアの疑問に、独自の高級化粧品を研究・開発してきた尾池哲郎氏が新著『美容の科学』で科学の視点から答えています。
本稿では、同書より一部を抜粋しお届けします。

防腐剤の怖さ

じつは化粧水は、化粧品の中でもっとも腐りやすい商品です。粘度が低い(水の状態である)ため、腐敗を起こす菌が栄養成分を求めてあちこち自由に動き回ることができるからです。

基礎化粧品は化粧水、美容液、美容クリームとおおまかに分類されていますが、美容液はジャムのように濃度を高くして腐りにくくしています。クリーム(エマルジョン)も本来は防腐技術(保存技術)として利用された技術です。

そのなかで化粧水は水分率が高くて一番腐りやすいため、防腐剤の配合量が特に多くなります。中には防腐剤である「フェノキシエタノール」のにおいしかしない化粧水もあるほどです(フェノキシエタノールは信頼のおける防腐剤ですが、多すぎると当然刺激性があります)。

他にもエタノールやBG(ブチレングリコール)などの防腐効果を持つ成分がよく配合されています。日本人はエタノールアレルギーを持つ人が少なくありません。BGは保湿と説明されることが多いですが、実質は防腐成分として配合されているケースがほとんどです。

洗顔後の肌は防腐剤・低分子アレルゲン・アルコールを吸収しやすくなっています。やや過激な表現ですが、そうした防腐剤の配合量が多い化粧水をつける行為は、防腐剤をつける行為とほとんど等しいことになってしまいます。肌細胞だけでなく、常在菌まで損なわれます。

しかも注意すべきは、保湿成分や栄養成分の高配合をうたっている化粧水ほど、必ずそれ相応の防腐剤が配合されていることです。

さらに注意していただきたいのは「防腐剤不使用」をうたっている化粧水です。薬機法に定められた防腐剤「だけ」を不使用にすることで、まるで「防腐剤不使用」であるかのように表現しているケースが多いからです。たとえばワサビエキスなど防腐効果を持つ天然成分は無数にありますが、薬機法では防腐剤に指定されていません。防腐剤不使用をうたう化粧水にはそうした安全性を担保できない天然防腐剤を使用しているケースが多く、アレルゲンとなる可能性もあり危険です。よほど信頼のおけるメーカー以外の「防腐剤不使用」化粧水は使うべきではありません。

手作り化粧水がベスト

化粧水について考えると、過剰な新成分、保湿成分、防腐剤……と、気になる点がとても多いツールだとあらためて思わされます。ほんとうに求められているのは、もっとシンプルなものなのではないかと思えてきます。

それに、同じ人でも日によって体調や肌のコンディションは一定ではなく、つねに変わってしまうもの。もし体調や肌コンディションにあわせて保湿成分量を調節したり、さらにpH、またはカリウム濃度までも調整できるようになったら、理想に近い化粧水が生まれるのではないでしょうか。

つまり結論としては、化粧水は自作したほうがよい、ということになります。化粧品メーカー所属の私でさえそう思ってしまうのです。化粧水だけは手作りするルーティンを、月に2回ほど取り入れるのが美肌をつくるにはもっとも近道です。

信頼のおける美容家の方がたも口を揃えるように言いますが、化粧水は水分補給だけに割り切るべきで、しかもふんだんに使えるようにすべきです。できるだけシンプルにして、「買いに行くよりつくったほうが肌に合う」という手料理のような手作り化粧水を目指します。

雑菌の混入の防ぎ方

じつは化粧水をつくるためのレシピはシンプルなので、手作りノウハウのほとんどは「雑菌の混入の防ぎ方」になります。微生物の混入ルートは落下菌、飛沫、手汚れです。空気の動きの少ない静かな時間を選び、手袋マスク着用、数分で素早くつくります。

化粧水の理想的な1回の使用量は5mL(手の平のくぼみにたまる程度)ですので、100mLつくると1〜2週間で使い切る量になります。実際の使用量は2〜3mLであることが多いので、ちょっと多いかな、というくらい使いましょう。無くなるペースがはやい場合も安易に使用量は減らさずつくる量を増やします。使用期限は冷蔵保存で2週間ですので、一度に2本つくってもよいかもしれません。

使う水は煮沸殺菌した水道水で十分です。ミネラルが適度に入っているので精製水よりもベターです。基本的には水とグリセリンだけでも十分で、グリセリンは最も基本的な低分子保湿成分で、ドラッグストアで500mLボトルが500円程度で手に入ります。好みに応じてビタミンC誘導体か尿素を加えてもOKです。どちらもドラッグストアかオンラインショップで手に入る抗酸化物質で、肌の酸化(老化、疲労)を緩和します。

ビタミンC誘導体(リン酸‐L‐アスコルビン酸ナトリウム)とは肌に浸透した後にビタミンCに変化するものです。抗酸化作用があり20gで2500円程度です。尿素は尿に含まれるイメージが強いですが、全身に分布する重要な抗酸化物質、保湿成分です。50gが500円くらいです。どちらも粉末で長期保存でき、オンラインショップで手軽に手に入ります。精油などでの香り付けは刺激の元になるので避けたいところです。香りがほしいときには、お手入れの最後につける美容クリームに任せたほうがよさそうです。

ボトルはスプレーがおすすめです。ドロップボトルは空気中の雑菌が混入しやすいので避けたほうがいいでしょう。

化粧水のつくりかた

◉用意するもの

煮沸殺菌した水道水90mL、グリセリン3mL、(好みに応じて)ビタミンC誘導体小さじ1(3g)、あるいは尿素一つまみ(0.5g)、100mLスプレーボトル

◉手順

1.空気の動きの少ない静かな時間を選び、水道水が入ったボトルと、スプレーボトルのフタは閉じておきます。しっかり手袋とマスク(できればキャップ)をして、手袋をエタノールでしっかり消毒します。

2.スプレーボトルのフタを開け、水を肩の位置(90mLくらい)まで入れます。少なめに入れるのはボトルを振って混ぜるためです。

3.好みに応じてビタミンC誘導体小さじ1(3g)、あるいは尿素一つまみ(0.5g)を入れてフタをし、よく振って混ぜます。

4.グリセリン3mLを入れて、さらによく振って混ぜます。冷蔵庫で一日置いてさらによく溶かします。翌日再度よく振って完成です。

◉注意

・冷蔵保管で2週間以内がおおよその保存期間です。

『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』

・かならずラベリングして小さな子どもの手の届かない所に保管します。

・ひじの内側など目立たない部分でパッチテストをして使用してください。

・赤み、刺激など違和感を感じた際には必ず使用を中止してください。

手作り化粧水は洗顔直後に使用します。顔全体から首筋にかけてたっぷり手の平で温めながら伸ばします。もの足りなさを感じる場合もしばらくはそのまま続けてみてください。肌が元の健全な新陳代謝を取り戻すきっかけになります。それでも肌のつっぱりなどが気になる場合はグリセリンを増やしてみますが、多くても5mLまでにします。手作り化粧水の後に肌に合う市販の化粧水を少し追いかけて使うのもよいです。

(尾池 哲郎 : 化学系ベンチャー・FILTOM研究所長)

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