京成電鉄、物言う株主の提案に賛成30%弱の意味

京成電鉄の株主総会

6月27日、千葉市内のホテルで行われた京成電鉄の株主総会。250名を超える株主が詰めかけた(記者撮影)

株主の多くが下した判断は「ノー」だった。

京成電鉄は6月27日、千葉市内のホテルで定時株主総会を開いた。イギリスの投資ファンド、パリサー・キャピタルは、京成電鉄に対し同社が保有するオリエンタルランド(OLC)株の一部売却を求める株主提案を出していたが、否決された。

パリサーは京成電鉄株を1.98%保有する。京成電鉄には資本配分政策を策定し、OLC株を約2年以内に15%未満(現状約20%)に縮小することを求めていた。議決権行使助言会社の大手2社はパリサーによる株主提案に賛成するよう推奨していた。

「何にも届かなかった」

一方、京成電鉄は「戦略的投資のための原資など資金使途を考慮しないOLC株の売却は、当社の事業特性や戦略を十分に理解したうえでの判断であるとはいえず、中長期的な企業価値向上に資するものではない」として、パリサーの株主提案に反対していた。

各議案の賛成率が記された臨時報告書はこの数年、総会の6日後に開示されている。京成電鉄は、「現時点では(株主総会後に公表した)『定時株主総会決議ご通知』に記載している以上のことは語れない」(広報担当者)としている。

これに対して、京成電鉄の経営に詳しい市場関係者は「株主提案への賛成比率は30%弱だった」と明かす。

パリサーの提案は定款の変更を求める特別決議であるため、出席株主の3分の2以上の賛成が必要だった。そこまで達しなくても、仮に過半数の賛同を得られれば、来年の株主総会につなげることができた。取締役選任案であれば50%超の賛成で通せるため、自らが推す取締役を送り込める。

しかし、前出の市場関係者は次のように指摘する。「何にも届かなかったということ。株主は京成電鉄側の経営方針でOKだと判断した。(京成電鉄が保有するOLC株の時価総額)1兆円超に群がる株主は、3割弱しかいなかったということだ」。

今年の総会は株主の関心も高かった。総会開始の午前10時前。多くの人が会場に詰めかける中、ある女性株主は明言した。「株主提案に対する経営者の答弁を聞きに来た」。

一方、20年以上にわたり京成電鉄株を保有するという男性は、「株主提案には反対だね。それで企業価値が向上するとは思わない」と語った。

親子同然のOLCに株主も親近感か

パリサーの提案が多くの株主から支持を得られなかった背景には、京成電鉄とOLCの長年の「親子関係」が影響していると見られる。

京成電鉄はディズニーランドが位置する千葉県浦安を通る鉄道を運行していないものの、1960年に当時の社長らの提案でテーマパークの建設を目指してOLCを設立した経緯がある。

以来、60年以上にわたり筆頭株主として同社株を保有。現在は子会社ではなく持ち分適用会社となっているが、京成電鉄の株主の間には今なおOLCに親近感を持つ人が多いようだ。

ところが、京成電鉄の時価総額約8900億円に対して、OLCの時価総額は約8.2兆円(ともに6月27日時点)。京成電鉄が持つOLC株の時価は、京成電鉄の時価総額を2倍近く上回ることになる。

この資本のねじれにつけ込んだのが、パリサーだった。2021年8月ごろから京成電鉄株を取得したと推察される。

パリサーはこれまで、「OLC株が京成電鉄の企業価値に比べ大きすぎる。OLC株を部分的に売却すれば、京成電鉄は約4200億円の潜在価値を顕在化することが可能となる」と強調してきた。「京成電鉄は本業の鉄道事業に注力するべき」とも主張した。

株主提案の否決を受けて、パリサーは次のようなコメントを出した。

「資本配分という京成電鉄の将来にかかる重要な問題について、すべての株主の皆様が経営陣に対して意見を表明する機会を確保するという最も重要な目的は達成できた」。今後も長期的に京成電鉄株を保有する意向だ。

ただし「完勝」とは言えない

否決されたとはいえ、今回パリサーが京成電鉄に突きつけた経営課題としての意義は小さくない。

現状を維持するのであれば、多額のOLC株を保有する合理性を説明できなければならない。京成電鉄は収益柱である成田空港への輸送力強化を重要な戦略のひとつに掲げている。資本効率を意識しながら、成田空港アクセス路線を中心に適切なタイミングでの投資計画と成長戦略を実現できるか。

前出の市場関係者は、「パリサーの提案が得た30%という賛成率は京成電鉄にとっても胸を張れる数字ではない」と指摘する。完勝だったとは言えないわけだ。今後も株主に〝答え〟を提示していく必要がある。

(梅咲 恵司 : 東洋経済 記者)

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