老舗アパレルが「株主ファンドと泥試合」の全容

ダイドーの本社とブルックスブラザーズの店舗

ニューヨーカーやブルックス ブラザーズを展開する老舗アパレルメーカーが揺れている(編集部撮影)

創業140年余りの歴史を持つアパレルメーカーに危機が訪れている。

アパレルブランド「ニューヨーカー」や「ブルックス ブラザーズ」を展開するダイドーリミテッドに対し、アクティビストファンドのストラテジックキャピタル(以下、SC)が株主提案を行い、揺さぶりを掛けている。

内容は「取締役6名の選任」について。現在の経営陣をすべて入れ替えて、ブルックス ブラザーズ日本法人のCFOを務めた中山俊彦氏ら、SCが探してきた人材を新たな取締役に選任することを求めるものだ。

株主総会が開かれるのはきょう、6月27日。総会開催を目前に、ダイドーとSCの間で激しい応酬が続いている。

11年連続の営業赤字を抜け出せず

ダイドーの業績は極めて厳しい。

本社ビルの売却益などで純利益が黒字になった年はあるものの、本業の儲けを示す営業損益は2014年3月期以降、11年連続の赤字だ。コロナ禍で大きく傷ついたアパレル業界で、他社がリストラなどの構造改革をしながら少しずつ回復を遂げたのと裏腹に、今も赤字体質から脱却できずにいる。

それでも現在まで生きながらえてきたのは、旧工場跡地に開発した商業施設などからの安定した賃貸収入があったことが大きい。

ダイドーリミテッドの業績推移

2006年には一時1800円を超えていた株価も、2022年には10分の1以下の130円台をつける事態に。PBRも1倍を割り込んでいた。そこに目をつけたSCは2022年度下期から市場内で買い付けを始めた。その後も買い増しを続け、2024年3月末時点で議決権の32.2%を保有しているという。

SCの株主提案は、行使された議決権の半数以上が賛成すれば成立する(過半の賛成率を得た取締役候補が取締役の定員数を上回った場合を除く)。すでに3分の1弱をSCが握っている以上、可決も現実味を帯びる。

SCは4月に株主提案を発表して以降、長く業績を改善できなかった経営陣の無策を指摘するとともに、2023年に行った本社ビルの売却と賃貸用不動産の取得も「資本効率の改善に寄与せず、赤字継続への批判を免れるために(売却益により)会計上の最終損益を黒字化させることが目的だった」と批判してきた。

対するダイドーは5月20日、2027年3月期までの3カ年を対象にした中期経営計画を策定し、初めて公表した。2027年3月期に売上高360億円(2024年3月期は287億円)、営業利益15億円(同4億円の赤字)を目指すという。ブランド価値が失速しているニューヨーカーは売上拡大を目指さない一方、ブルックス ブラザーズでは新規出店やECへの投資を通じて成長を狙う。

直後の5月24日には、経営陣の刷新も表明した。コンサル会社のCEOであり、中期経営計画の策定にも関わった山田政弘氏を代表取締役CEO候補として提案し、同時に現在の社長らは経営から退くとした。

東洋経済の取材に応じた山田氏は「これまでマーケットに対する情報発信が足りなかった。中計は細かい数字を積み上げた必達目標だ」と話す。

SCの提案は「会社に失礼だ」

ただ、SC側は納得していない。

ダイドーが新取締役CEO候補に提案する山田政弘氏

ダイドーが新CEO候補に提案する山田政弘氏。コンサル会社のCEOのほか、ベーカリーチェーン社長やビジネススクールの教授などを兼任している(編集部撮影)

ダイドーが新取締役候補を発表後、即座に反対を表明。CEO候補の山田氏は兼職が多く、経営に専念できないうえに実績もないこと、コンサルとして利益相反関係にあることなどを指摘した。中期経営計画も実現性が乏しいとして、SCの株主提案に賛成するよう株主に呼びかけた。

様相は混迷の度合いを深めていく。ダイドーはSCの主張に対して反論する文書を発表。SCの株主提案こそが不適切な主張であるとして、株主に対し会社提案への賛同を強く呼びかけた。山田氏はSCの主張に対し、「正直言って会社に対して失礼だ。明確な事業計画もなく、会社のことを考えた取締役選任案ではない」と憤る。

会社提案の採否が予断を許さない状況下で、ダイドーはなりふり構わぬ行動に打って出ている。

ダイドーリミテッドがYouTubeに投稿した動画

ダイドーリミテッドがYouTubeに投稿した動画。再生回数は21万を超えた(画像:ダイドーリミテッドのYouTube公式チャンネルより)

6月に入ると、ダイドーは議決権行使助言会社が会社提案への賛成を推奨していることを紹介したうえで、YouTubeに自社の主張を紹介する動画を投稿。さらにダイドーの労働組合やブルックス ブラザーズ従業員がSCの提案に反対意見を出したことなどを公表した。

SCが提案する取締役候補の中山氏は、ダイドーが展開するブルックス ブラザーズでCFOを務めた経験があるものの、従業員からの評判がよくないという。意見書では、中山氏が取締役になれば「事業面や職場で大きな混乱を抱えることになる」と主張した。

株価情報サイトに動画へのリンクを載せた広告を打つなど、拡散にも力を入れた。SNS上でも話題になり、6月26日時点で21万回以上再生されている。こうした情報発信に対する力の入れように、SC側は「費用の無駄」として反発している。

法廷闘争にもつれる可能性も?

株主総会直前になっても応酬は収まる気配を見せない。6月21日、SCはダイドーが電子投票済みの株主に対して「(SCの提案に賛成した投票は)間違いではないか」と電話をかけたと主張する声明文を出した。事実であれば、株主総会の公正性を阻害する行為だ。ダイドー側はこうした行為を「一切していない」としており、双方の主張は真っ向から対立している。

この問題について、SCは株主総会に際して設置された総会検査役に報告したうえで、電話を受けた株主からは「裁判になった場合には協力する」という意向も取り付けたという。総会の結果次第では法廷闘争にもつれる可能性もある。

混乱の渦中で株主総会当日を迎えるダイドー。だが、今回のSCの株主提案がなければ、赤字を放置した経営陣はそのまま残留し、中計も公表されなかった可能性が高い。仮に会社提案が可決したところで、新経営陣には長らく染みついた赤字体質からの脱却という難路が待ち受けている。

(高橋 玲央 : 東洋経済 記者)

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