インバウンド増えても大変「外食業界」苦悩の訳

外食

外食産業で今何が起きているのか(写真:まちゃー/PIXTA)

コロナ禍を経て、外食業界が岐路に立っている。過去のように店舗数の拡大に伴って売り上げを伸ばすことで利益成長を図ることが難しくなる中、日本以外に活路を求める企業や、他業界へ参入する企業も増えている。一方で、あくまで外食で勝負する企業は、より「的を絞った」業態で顧客へのアピールを図る。外食産業で今何が起きているのか。

「オリンピック開催時にピーク超え」の夢破れる

市場規模は再びピークに達するかーー。実は2019年、日本の外食産業はにわかに市場拡大に沸いていた。インバウンドの流入によって市場規模は回復傾向にあり、2011年には22兆円だったのが、2019年は26兆円に。

2020年のオリンピックをステップに、1997年のピーク(29兆円)超えも見込まれたが、その矢先にコロナ禍に襲われる。結果、29兆円を超えることは夢物語となるばかりか、2020年には18兆円まで市場規模がシュリンクしてしまった。

ならば、インバウンドが復活している今、外食産業は再び拡大を見込めるのではないか、と思いきや、コロナ禍前から環境は大きく変化。足元では、「人口減少」「人手不足」「コストの高騰」という三重苦が深刻化し、かつてのように国内で、外食事業一本で利益拡大を図り続けるとこのハードルが上がっている。

まず人口減少でいうと、日本の人口は2008年の1億2808万人をピークに減少に転じた。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると2048年に9913万人となって1億人を割り込んだ後、2060年には8674万人、2100年には4959万人となり、5000万人を下回る見込みだ。

生産年齢人口もこれと並行して減っており、国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると 2030年には6773万人、そして2060年には4418万人まで減少するとみられている。

もともと外食業界では、コロナ禍前から人手不足が深刻だった。特に正社員の採用に関しては、新卒からも中途からも積極的に選ばれていない。そこに追い討ちをかけるように、現在、アルバイト先としての人気も著しく低下。ここ数年は、1回の求人広告の掲載では面接に誰も来ないことも目立つ。

その大きな原因が時給だ。現在、東京都や神奈川県、埼玉県など8都府県に関しては、最低時給が1000円を超えている。多くの飲食店がそれを上回る金額で募集をかけているが、他の業界ではそれ以上に時給を上げているケースが多く、飲食店の人手不足が常態化してしまっている。結果、営業時間を短縮したり、定休日を増やしたりする飲食店はめずらしくない。

利益圧迫要因が増え続けている

これに伴って人件費も高騰。加えて、原材料費の価格も高騰しており、飲食店の経営を圧迫している。小麦粉や食用油など、日常的に使用するものも多く含まれているため、これまでと同じやり方では利益が残らなくなっているのだ。

飲食店は利益率が10%もあれば優秀で、どんなにがんばっても5%がやっとだという飲食店も多い。その数字を達成するにも、「FLR」という3つのコストをコントロールする必要がある。

FはFood(原材料費)、LはLabor(人件費)、RはRent(家賃)を指していて、一般的な飲食店の場合、FLRコスト比率は70%だ。そのうちFとLが高騰しているため、Rでコントロールしないといけないが、コロナ禍以降、家賃の高騰も続く。そのほかにも、光熱費が値上がりしていたり、クレジットカードの手数料が占める割合が増えたりと、利益を圧迫する事象が山積している。

こうした中、多くの飲食店が値上げを実施しているが、十分に行えているわけではない。社会保険料などの公的負担が上がり、可処分所得が伸びていない中で値上げをしても客離れを起こすリスクがある。また、日本では大手ファストフードチェーンが値上げを行ったときに顧客から反発があるなど、安売りに対する支持も大きい。

これまでと同じやり方では、多くの飲食店が生き残っていけない。そこで外食業界で培ったノウハウを生かして、別の業界へ挑戦する流れも生まれている。最たる例が、食品の製造・販売だ。

本業以外を伸ばしている「大阪王将」

この分野で、いち早く大きな成功を収めているのが「大阪王将」が販売している冷凍餃子ではないだろうか。大阪王将を展開するイートアンドホールディングスの2024年2月期決算では、外食事業の売り上げが144億8800万円なのに対して、食品事業の売り上げは214億3300万円に及び、本業を上回っている。

同社はコロナ禍でも食品事業が経営基盤をしっかりと支えていたため、飲食店のテクノロジー化など、積極的な投資を続けることができた。こうした動きは今後、さらに加速していくのは間違いない。特に外食産業とは別の収益構造のビジネスに挑戦をし、事業のポートフォリオを豊かにしながら、経営の安定化を目指す流れになるのではないか。

今後、どんなにインバウンドが活況を呈しても、残念ながら「29兆円の壁」を超えるのは難しいだろう。その理由の1つが、外食機会の減少だ。コロナ禍以降、特に居酒屋をはじめとしたアルコール業態では2回転目、3回転目の需要が激減している。

一方で増えているのが予約での来店だ。予約管理システム「ebica」を運営するエビソルによると、2023年は年間を通して総予約数がコロナ禍以前を上回った。特にウェブ予約の伸びが顕著で、予約をしてから来店する流れが一般的になっていることが読み取れる。つまり、突発的に飲みにいくことが決まるのではなく、あらかじめ日程を決めたうえで、行きたい店を決めて飲みにいく人が増えているのだ。

そこで選ばれるのは、行く価値のある店にほかならない。そもそもサービスレベルが高かったり、SNSで話題だったり、食べるべき料理があったりと、何かしらの価値がある店ではないと予約をしてまで行こうとは思ってもらえない。その結果、顧客体験価値が大切になり、高付加価値化の流れが加速していく。

その価値をつくるものは何かといえば、結局、人でしかない。人手が足りなくなればなるほど、人による仕事の価値は上がり、競争力の源泉になるだろう。

「働く価値のある企業」になれるかどうか

現在、人手不足の中でも、人材の採用に成功し、勝ち残っている外食企業も存在する。それは働く価値のある何かを持っている企業だ。地域で必要とされている店や、そこでしか学べないノウハウなど、何かしらの働く意味や意義のある企業になる。つまり、働く価値がある企業に人が集まり、その人が行く価値のある店をつくるともいえるだろう。

そこでつくり出される価値は、汎用性の高い武器になる可能性が高い。大阪王将の例でいうと、創業以来、店で提供している餃子を磨き続けてきたことが圧倒的な価値を生み、冷凍食品としても大きな支持を集めるまでになっている。公園再生事業やホテルのマネジメントを行う企業も、飲食店を運営する中で磨き上げてきたノウハウを武器にして、他業界への参入を果たしている。

つまるところ、競争の激しい外食業界を生き抜く強みは、他の業界で通用する武器になるということだ。そうした側面からも、外食という枠を飛び出して、存在感を発揮する企業は増えていくだろう。

この連載の最初の回です

(三輪 大輔 : フードジャーナリスト)

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