算数レベルのミス続発「伝説の東大入試」がこれだ

東京大学

非常に簡単なはずなのに、多くの東大受験生が「算数レベルのミス」をした問題――それは「小学校で習う割合」に関する問題でした(撮影:今井康一)
「算数から勉強をやり直して、どうにか東大に入れた今になって感じるのは、『こんなに世界が違って見えるようになる勉強はほかにない』ということです」
そう語るのが、2浪、偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏。東大受験を決めたとき「小学校の算数」からやり直したという西岡氏は、こう語ります。
「算数の考え方は、『思考の武器』として、その後の人生でも使えるものです。算数や数学の問題で使えるだけでなく、あらゆる勉強に、仕事に、人生に、大きくつながるものなのです」
そんな「思考の武器」を解説した43万部突破シリーズの最新刊、『「数字のセンス」と「地頭力」がいっきに身につく 東大算数』が刊行されました。
ここでは、「小学校の算数」レベルのミスをした人が続出した、伝説の東大入試問題を紹介してもらいます。

算数レベルで間違い続出の「伝説の東大入試」問題

みなさんは、とても簡単な問題なのに、東大受験生が初歩的な部分で間違えた東大の入試問題があるのをご存じですか?

「数字のセンス」と「地頭力」がいっきに身につく 東大算数: 「数字のセンス」と「地頭力」がいっきに身につく

問題を見て「え、こんなの簡単じゃん」と思って答えを書くと、多くの人が引っかかって間違えてしまう、恐ろしい入試問題が過去に出題されたのです。

しかもそのひっかけは、小学校の算数の知識がきちんと身についているかどうかが重要になるという問題でした。

「東大受験生なのに、算数の知識で引っかかるの?」と思うかもしれませんが、実際に多くの人が、この問題に引っかかりました。かくいう僕も、その1人です

そこで今回は、その問題についてみなさんに共有させていただきたいと思います。

下記は、日本で1年間に生まれてくる子供の数の推移を示している。
・1955年〜1970年までは100万人台

・1971年〜1974年の間は200万人を超える

・1975年には再び100万人台となった
このように、1970年代前半に出生数のピークが見られた理由を、以下の語句を用いて答えよ。
出生率 世代 戦争
(2011年 東大地理 第3問 一部改変)

本来はグラフがある問題なのですが、今回はよりシンプルに考えてもらうためにグラフをカットしています。要するに、1970年代前半に日本で生まれる子供の数が多かった理由を答えなさい、という問題です。

さて、指定語句が与えられていますので、これを使えばだいたい方向性を考えることができます。

「戦争」というのは第2次世界大戦のことですね。1940年代後半、戦争から戻ってきた人たちがたくさん子供を持ち、日本では第1次ベビーブームが発生しました。このときに生まれた人たちを「団塊の世代」と言います。「世代」という指定語句はここで使えそうですね。

そして、その団塊の世代が20年経って大人になって、親世代になったことによって発生したのが、今回の問題になっている1970年代前半の第2次ベビーブームになるわけですね。

この「団塊の世代」という言葉も含めて、この内容は中学の社会の授業で習う言葉です。ですから、中学までの知識で普通に考えるとこんな解答が作れるのではないでしょうか。

戦争終結後の1940年代後半に多く生まれた第1次ベビーブーム世代が、20年経った1970年代前半に親になり、出生率が上昇したため。

どこが間違っているのか?

こんな解答を思い浮かべた人は多いのではないでしょうか? この問題、こういう解答をする受験生はかなり多かったですし、先ほども言ったとおり、僕もこんな答えをしていました。

ですがこの解答は、明らかな間違いを含んでいます。小学校の算数の知識的に言って、この答えは間違っているのです。さて、どこが間違いだかみなさんは指摘できますか?

答えは、「出生率」という言葉です。指定語句にもなっているこの言葉の使い方が、根本的に間違っているのです。

おそらく多くの人が、この「1970年代前半に子供が増えた理由」という問題文と指定語句の「出生率」を見て、こう考えてしまったことでしょう。

「ああ、1970年代前半に出生率が多くなったのはなぜか答えなさい、って問題なんだな。だから、答えるときは『〜という理由で出生率が上昇したため』と書けばいいんだろうな」

でも、これが間違いなのです。なぜなら、出生率はそれほど上昇してはいないからです。

「え、子供が増えたって書いてあるじゃないか」と思うかもしれませんが、これがポイントなんです。小学校の算数をあやふやなままで終わらせていると、この「子供が増えた」と「出生率が上昇した」の違いがわからなくなってしまうのです。

子供の「出生数」は、確かに上がっています。100万人台だったのが、200万人を超えるようになっています。
でも、それは「出生率」が上がったということを意味しません

「率」とは、「割合」のことです。割り算のことであり、分母と分子で表せる数のことです。「勝率」は「勝利した数÷試合数」のことで、「打率」は「ヒットした数÷バッターボックスに立った数」のことです。

同じように、「出生率」とは、人口1000人に対する出生数の割合のことを指します。そして、1970年代前半に、この数字自体は、実はそれほど上がってはいません

「出生率」は上がっていないけれど、親世代の人数自体が増えたから、子供の数が増えたのです。

例えば、5人に1人が第1志望校に受かる塾があったとします。10人がその塾に入れば2人が合格しますし、100人がその塾に入れば20人が合格します。合格率20%の塾ですね。

その塾が、「去年は100人だったのに、今年は200人も合格しました!」と言ったら、その塾の合格率が上がったと言えるでしょうか? 言えませんよね。その塾に入塾した人の数が500人から1000人に増えただけで、合格率は上がっていないのです。

出生数が増えたのは、出生率が上がったからではありません。親世代の人数が多くなったから、出生率はそれほど上がっていないけれど、出生数が増えたのです。

出生率は、2024年現在はどんどん下がってきています。でも当時はまだあまり低くなってはいませんでした。だから、出生率が大きくは変わっていない状態で親の数が増えたから、出生数が上がった、というわけなのです。

ですから、こういう解答が正しくなります。

戦争終結後の1940年代後半に多く生まれた世代が、20年経った1970年代前半に親になり、出生率も現在ほど減少していなかったため。

言われてしまえばなんてことはないことではあるのですが、多くの東大受験生が「出生率」と「出生数」を間違って解釈して答えを出してしまい、この問題のミスで不合格になった人もいました。この問題で合否が分かれたのです。

仕事や生活の場面にも関連する

そしてこの間違いって、大人になってからの仕事の場面や、何かを買うときにも同じ間違いをしてしまいそうですよね。「去年は100人だったのに、今年は200人も合格しました!」と言われて、「2倍になっているなんてすごい!」と考えてしまいそうになる人、多いのではないでしょうか?

学生時代、「学校の勉強なんてなんの役に立つんだ」と文句を言いながら勉強していた人も多いかもしれませんし、実際僕もそういう人間だったので気持ちはわかるのですが、しかしこの問題を見ると、やっぱり小学校のときの算数の授業は本当に重要だったな、と感じます。

「率」と「数」というちょっとした言葉の違いではありますが、しかしこの違いを強く意識できるかどうかは、小学校のときの割り算の勉強や、あの砂糖水の濃度を例にした計算問題の数々をどれくらい真面目にやったのかによって変わってくるのではないかと思います。みなさんもぜひ、気をつけていただければと思います。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)

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