マンション組合総会「モンスター住民」の対処法

マンションの総会

年に一度は必ずあるマンション管理組合の総会ですが、トラブルになる事例もあります(画像:genzoh / PIXTA)

5~6月にマンション管理組合の定期(通常)総会があった、という人も多いだろう。

定期総会は、マンション管理組合の収支を含めた決算の内容などについての報告の場であり、来年度予算や次期理事会役員の選出も行われる。

区分所有者の意向をまとめ、マンションに関するさまざまな議案が決定する重要な集まりだ。管理組合の決算は年度末の3月としているマンションが多いため、5~6月に定期総会が開催されるケースが多い。

新築時から時間を経ているマンションの場合、管理組合活動を通じた「コミュニティ」がある程度形成されているケースが少なくない。マンション内での人間関係が構築されていれば、災害など緊急時の「共助」をはじめ、さまざまなメリットが期待できる。

一方、中古でマンションを購入し、初めて総会に出席した人の中からは既存コミュニティのあり方に戸惑ったという声も少なからず聞こえてくる。

管理会社への「カスハラ」や理事会の私物化も

そもそもマンションは年齢や性別、ライフスタイルや志向が異なる人々が暮らす共同住宅であり、コミュニティのあり方も千差万別だ。中には「モンスター住民」と呼ばれるような人々も存在し、マンション内でのトラブルに発展するケースもある。

例えば「マンション管理」における認識の違いから問題に発展することもある。

本来なら区分所有者が自ら主体的にマンション管理を行うための「管理組合」であり、そのための「総会」開催のはずだ。

ところが、「マンション管理は管理会社がやる仕事」との考えのもと、総会でも管理会社への不満・批判を展開する住民も一部いる。清掃や点検、日常的なメンテナンスなどの管理業務のミスをあげつらい、極端なケースでは委託費の減額や返金を求めることも。

管理会社の担当者はその立場上、言い分があっても反論が難しい。一方的かつ高圧的な態度での管理会社批判は、「カスタマーハラスメント」(カスハラ)と見なされても仕方がなく、それではマンション管理に必要なパートナーシップを築くことは難しい。

また、自分本位に物事を進めたい住民も厄介だ。総会で提示されたすべての議案において挙手し、持論を展開する人、他の住民の存在を無視する人も残念ながら存在する。

議事進行の妨げになり、本来取り組むべき議題に時間を割けないことも、合意形成を図る上で大きなデメリットとなる。

こういった傾向が顕著になると、管理組合、理事会の私有化にまで拡大し、他の住民は振り回されるばかりか、不利益を被る結果にもなりかねない。

専門委員会が理事長、理事会をバックアップ

過度なクレーマー、管理組合を私物化している人などトラブルの根源となる「モンスター住民」。ではこういった人々にはどのように対応していけばいいのだろうか。

まず「個」での対応を避けることが重要になる。実際の総会では、議長である「理事長VS声の大きい住民」のような1対1の構図になりやすい。

しかし当然、総会運営は理事長だけで進めていくものではない。だからこそ、議案内容によって、関連の担当理事や委員会メンバーが議案を説明することが大切だ。

例えば、会計報告なら、管理会社の協力を得ながら、会計担当理事が議案を説明できる。また、大規模修繕工事や防災などの実務にあたっては、下部組織である専門委員会を設置するケースが多い。それぞれの関連分野に関しては、議長指名のもと、委員会メンバーが議案説明を行えばいい。

それぞれの担当理事や委員会、つまりは理事会・委員会全体で理事長を支えていくスタンスが大切になる。もし仮に手厳しい意見が飛んできたとしても、理事長だけの「点」ではなく、「面」でサポートしていくのだ。

あくまでも総会は合議制であり、多数の人々がしっかりと検討した上で議論していけば、多くの組合員の理解を得ることができる。

役員の再任に制限を設ける

加えて、声の大きい人、クレームが多い人は管理組合理事会の役員に立候補するケースも多い。このような場合に備え、役員の任期を限定するような管理規約改定などを実施しているマンションもある。

役員の任期は「1年もしくは2年、ただし再任は妨げない」というような管理規約の規定を採用するマンションが一般的だ。この場合も、「再任は妨げない」ものの、最長3期までに限定するなどの形で、同じ区分所有者が長期間役員を務められないような体制となっている。

このほか、区分所有者すべてが役員を経験するまで、「再任は認めない」と規定するマンションもある。同一の区分所有者が役員を務めることでの管理組合の私物化を抑制する効果はもちろんのこと、区分所有者全員の管理組合運営意識を高める意味でも大きなメリットが期待できる。

誰もが一度、役員を経験することで、自分たちのマンションはどんな課題に直面しているのかを把握し、マンション管理を「自分ごと」として捉えられるようになるからだ。

共用部分についても「自分たちの財産だ」との思いが高まる上、役員を退いても「管理組合の一員として力を尽くそう」という意識を持てるメリットは大きい。

そして役員は再任に制限を設けるものの、専門委員会はあえて任期などを限定せず、柔軟な運用を行うマンションも多い。

つまり修繕担当理事を退任された人は修繕委員会へ、会計担当理事を外れた人は財務委員会へ、といった形で専門委員会に継続性を持たせ、理事会をもバックアップできる体制をとっていくことで、スムーズな管理組合運営へとつなげている。

管理運営がスムーズなマンションの見極め方

とはいえ、実際に住んでみなければ、管理組合の本当のところが見えてこないというのが実情だ。ではどのような点に着目すれば、管理運営が上手くいっているマンションを見分けることが可能になるのだろうか。

注目したいのが、マンション内でのイベント開催だ。マンションでは、コミュニティの活性化を目指したさまざまなイベントが開かれているケースがある。お祭りや防災訓練などが中心だが、高齢者からファミリー、ビジネスパーソンまで多種多様な属性に適した個別のイベントを開催するマンションもある。

管理力が長けているところほど、住民の声に耳を傾けるなどしてユニークな企画を実施する傾向にあり、例えばフリーマーケットなど居住者以外、地域に開かれたイベントを行うところも少なくない。こういったイベントに注目するのも一案だろう。

イベント内容も含め、取り組むべき課題にどのようなスタンスを取っているのかが明確にわかるのがマンションの掲示板だ。常時何かしらのイベント情報が貼付されており、掲示板がしっかりと運営されているマンションはコミュニティ形成がしっかりしているケースが多い。

また、個別にホームページを持っていたり、広報誌などを発行したりと「広報力」にフォーカスするマンションもある。広報に力を入れるのは、自分たちのマンションの資産価値を高めるという点を理解している表れともいえるためだ。

マンション理事会への参加は、責任の重さや業務の煩雑さなどからネガティブな印象をお持ちかもしれない。ただ自分たちのマンションの価値をアップさせるためにも、管理に積極的に関わる意義は大きい。

理事会を通じて住民同士が関わり、理解を深められれば「モンスター住民」などの無用なトラブルを防ぐことにもつながる。マンション管理を「自分ごと」として捉え、同じ思いを持つ仲間を増やしていくことをおすすめしたい。

マンション管理センターに寄せられた相談

マンション管理センターに寄せられた相談の概要(令和5年度)を参照し東洋経済作成

(長嶋 修 : 不動産コンサルタント(さくら事務所 会長))

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