MUFGで違法な情報共有、融資を条件に強引営業も

不適切な銀証連携が横行していたMUFG

MUFG傘下の銀行と証券では不適切な連携が横行していた(尾形文繁撮影)

メガバンクグループによるルールを無視した営業実態が明らかになった。

証券取引等監視委員会は6月14日、顧客情報の不適切な共有などがあったとして三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下の三菱UFJ銀行、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、モルガン・スタンレーMUFG証券に行政処分を下すよう金融庁に勧告した。金融庁は今月中にも業務改善命令などを3社に出す見通しだ。

当時の頭取も危険性を把握か

金融商品取引法は、グループ内の銀行と証券会社が顧客企業の非公開情報を顧客の同意なしで共有することを禁じており、「銀証ファイアウォール(FW)規制」と呼ばれる。監視委は、MUFG傘下の銀行と証券2社が自社に有利な取引環境をつくるため、非公開情報を不適切に共有していた実態が銀証FW規制に違反していると認定した。

監視委によると、2021年から2023年にかけて、顧客企業の株式の売り出しに関する非公開情報を知った三菱UFJ銀行の専務執行役員が、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の副社長にその情報を伝達。証券も社内でその情報を共有し、顧客企業に対して、株式売り出しの引き受け契約を勧誘していた。

このケースでは、顧客企業の役員が銀行に対し繰り返し「証券との情報共有はしないでくれ」と伝えていた。さらに、顧客企業の意図に反して情報共有がされている可能性が銀行の代表取締役にも伝わっていた。

ところが、顧客企業との間で事実上の黙認が成立していると専務が報告し、しかるべき対応が取られていなかった。関係者によると、この代表取締役は三毛兼承頭取(当時、現MUFG会長)だという。

こうした不適切な情報共有は、三菱UFJ銀行と三菱UFJモルガン・スタンレー証券との間で10件。三菱UFJモルガン・スタンレー証券とモルガン・スタンレーMUFG証券との間で3件あった。

ずさんな情報管理が広がっていた実態もわかった。三菱UFJ銀行の一部の部署では、本来知る必要のない行員でも法人関係情報にアクセスすることができた。証券との情報共有が明るみに出ないようメールを避けて電話でやり取りをするなど、悪質な行為も確認された。

個人的に情報を利用したケースもあった。ある行員は職務で知った情報を用いて株取引をしており、認定できた2018年7月から2023年11月までの間の取引が約5000回、20億円に及んだ。監視委は金商法で禁止する信用失墜行為に当たるとした。

証券との取引を執拗に要求

融資などの取引に乗じて、株式や債券の発行手続きに証券を関与させようとする強引な営業実態も明らかになった。

MUFGの亀澤宏規社長

MUFGは再発防止策を講じることを表明(写真はMUFGの亀澤宏規社長、編集部撮影)

社債発行の引き受けをめぐり三菱UFJモルガン・スタンレー証券の提案が負けていることを知った銀行の担当者は、「引き受けシェアがまったくないと厳しい。MUFGとしてお願いしたい」とシェアの引き上げを再三要請。要請が断られると、銀行融資の条件を優遇するといった腹案を提示し、結果的に証券の引き受けシェアが上昇した。

ほかの顧客企業に対しても、公募増資に際して系列証券の引き受けシェア拡大を融資の条件にするなど、不適切な抱き合わせ販売が複数あった。

MUFGは監視委から勧告が出された6月14日に「厳粛に受け止める」との声明を発表。法令順守の意識が不十分であり、モニタリング体制も十分でなかったとし、再発防止策に取り組むとした。

系列内の銀行と証券による銀証連携ビジネスは近年、規制緩和が進んできた。情報遮断を行うFW規制も2022年に監督指針が改定され、これまでよりも簡単に情報共有をすることが可能になった。ただ、今回の事案は改定後の指針でも禁止されているものだ。

規制緩和の議論にも影響

今回の勧告は、今後の規制緩和の議論にも影響を及ぼしそうだ。

業界関係者は「決められたルールを守らないのでは、緩和に向けた議論ができなくなる」と懸念する。監視委も「収益偏重で顧客が軽視されている」「こうした問題が起こるリスクは予見しうるのに内部管理体制が十分ではなかった」と苦言を呈する。

MUFGを「御三家」の一角とする三菱グループには、根本理念「三綱領」がある。「所期奉公(期するところは社会への貢献)」「処事光明(フェアプレーに徹する)」「立業貿易(グローバルな視野に立つ)」の3つだが、目先の競争を意識するばかりに、こうした精神を見失っていなかったか。一度見直す必要がある。

(高橋 玲央 : 東洋経済 記者)

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