「低年収の若者」無視した少子化対策が意味ない訳

(写真:Ushico/PIXTA)

最近、「若者が子どもをほしがっていない」という民間会社の調査結果が話題となりました。しかし、これだけで、昨今の少子化は「若者の子ども離れ」などと若者の価値観のせいとするのは短絡的です。

そもそも、2021年出生動向基本調査によれば、結婚を希望する18~34歳の独身男女若者に限れば、そのうちの約9割は「子どもがほしい」と回答しています。結婚したいと思う若者は子どもも欲しているのであり、子どもがほしい割合が減っているのだとしたら、それは「結婚を希望していたのに結果できなかった不本意未婚が子どもの希望もなかったことにする」ということではないかと思います。

問題として認識すべきは「結婚をし、子どもも希望している9割がまず結婚できていない」ことのほうであり、その結果として出生数が減少しているという事実です。

若者の婚姻減に影響を及ぼす「お金の問題」

少子化の話題でよく出てくる合計特殊出生率という数字ですが、あれは計算分母に未婚女性を含むものであり、未婚率が高まれば自動的に減ります。逆にいえば、結婚した女性が産む子どもの数は、1980年代と比較しても変わりません。

要するに、出生率が減っているのは、婚姻数の減少でほぼ説明がつくものであり、少子化対策を論じるのであれば、子育て支援云々以前にまず若者の婚姻環境はどうなのかを見つめる必要があります。そして、若者の婚姻減の原因を突き詰めていけば、必ず若者の経済環境、つまり「お金の問題」に行きつきます。もちろん婚姻減はお金の問題だけではないですが、「お金の問題」が近年大きな影響を及ぼしています。

まず、若者にしてみれば、結婚の意欲も子どもの希望も「お金の問題」と密接に関係します。20代の未婚男女を対象に、結婚の意欲と子どもの希望を年収別にクロス集計したもので見ていきましょう。

まず、「結婚に前向き」な層は、男性で7割、女性では8割が「子どもがほしい」と思っています。その中で、男性に関していえば、年収300万円未満は64%ともっとも低く、300~500万で71%、500万円以上の年収では78%が「子どもがほしい」と年収に応じて希望率も高まります。逆に、女性は年収の多寡で子どもの希望に大きな違いはありません。

一方、「結婚後ろ向き」かつ「子どもはほしくない」と回答している男女とも、年収が低いほどその割合が高まっています。

年収300万~400万円帯の婚姻が増えない

ここからわかるのは、結婚も子どもも20代の若者、特に男性にとって年収という「お金」の要素が大きく影響しているということです。ちなみに、20代の若者にとっては年収300万~400万円帯がボリューム層であり、ここの年収帯の婚姻が増えていないことが、現代の婚姻減につながっています。

「金がないから若者は結婚できない」という話をするたびに、SNS上では「そんなのは言い訳だ。昔だって金のない若者が結婚していた。そもそも裕福ではないからこそ結婚するメリットがあるのだ」ということを言う人がいるのですが、確かに昔はそうだったでしょう。「一人口は食えねど二人口は食える」という言葉もありました。夫婦二人で住居費や食費を負担すれば、それは一人暮らしするよりは一人当たりの負担も減ることも理屈上はそうでしょう。

しかし、現代は、結婚も子どもを持つことも「まず金がなければ成立しなくなっている」ことも事実なのです。

家計調査から、世帯主29歳までを抽出して、なおかつ1歳までの子どもを持つ世帯の年収分布を2005年と直近の2023年とで比較したグラフが以下です。

全体の世帯数は、婚姻減と出生減で大きく減少しているわけですが、それでも年収750万円以上の世帯では、減っているどころかむしろ増えています。もっとも増加数が大きいのは1000万~1250万円以上の世帯です。

減っているのは年収500万円以下の世帯で、2005年時点ではもっとも世帯数が多かった層です。もちろん、20代の収入が大きく増えたわけではありません。2005年と2023年を比較しても、若者の所得はたいしてあがってはいません。むしろ、高年収層の婚姻は減ってはおらず、かつて日本の婚姻数を支えていた中間層の若者が結婚や出産ができなくなっていることを示唆します。

「貧乏子沢山」はもはや昔話

特に、そのインフレが激しいのが東京23区であり、2022年就業構造基本調査から6年以内に出産をした世帯だけを抽出すると、その世帯年収中央値は1000万円を超えます。東京23区で子どもを産む半分以上が1000万円以上の世帯ということです。

「貧乏子沢山」という時代はもはや昔話であり、今では「金がなければ結婚もできなければ、子どもも持てない」時代へと変容しているのです。

こうした事実の影響を大きく受けるのは男性側であり、それは結婚において男性はその経済力を要求されるという女性の上方婚志向が現在もなお強固に残っているためであることは以前の記事で詳しく解説した通りです(参照→結婚できる高所得層・できない中間層の残酷格差)。

とはいえ、「年収が高くなくても結婚している若者はいるじゃないか」というご指摘もあります。確かにそれは否定しません。では、低年収の未婚男性のうち、結婚意欲が高く、子どもがほしいと思う人の特徴とはなんでしょうか?

年収が300万円に満たない男性だけを抽出して、彼らの置かれた環境別に「結婚したい意欲」と「子どもがほしいという希望」がどれくらいあるのかを調べてみましょう。もしかしたら、そこに「結婚できるかできないかは金だけの問題ではない」という解答があるかもしれません。

見ていくのは、現在の恋愛状況(恋人がいる・過去に恋愛経験あり・一度も恋愛したことがない)、育った家庭の人口規模(大都市、小都市)、育った家庭の兄弟関係(一人・二人・三人以上)、親の所得の多寡、両親の関係性についてです。

当然、現在付き合っている相手がいる場合は、いない場合や一度も恋愛したことがない場合よりも高いのですが、決して大きく影響を与えているほどではありません。兄弟の数も、三人以上の兄弟で多少「子どもがほしい」割合が高まりますか、それでも35%程度に過ぎません。

「恵まれた家庭」環境に限られる

20代現在低年収の経済弱者の未婚男性が結婚と子どもを持つことに関してもっとも大きな影響を及ぼしているのは、「両親が裕福」であることであり、次に「大都市在住」、「両親が仲良し」であることでした。

ここからわかるのは、20代時点で自分自身としては大きく収入を稼げていなくても、結婚に前向きで子どもをほしいと希望できるのは、大都市に住み、両親が裕福で仲良しであるという「恵まれた家庭」環境がある場合に限られるということです。

もちろん、両親が裕福でなくとも、自身が頑張って稼いだ若者の結婚意欲や子ども希望率は高いのですが、それは自分自身が稼いで「お金の問題」をクリアしたからです。

要するに、自分の力であろうとなかろうと、「お金の心配をしなくていい」状況にならないと、結婚というものに向き合える余裕が出てこないということで、結局「お金の問題」ということになるわけです。

若者が恋愛離れや結婚離れ、または子ども離れをしているわけではありません。そうした意欲や希望を得られないのは、「若者からお金が離れている(より正確に言えば、若者からお金が引き離されている)」という状況であって、彼らの心の中から「今後も経済的に苦しいだろう」という将来的不安が払拭できないからです。

「結婚・出産できる層」と「できない層」の二極化

政府は「賃上げ」ばかり言いますが、賃上げしたところで昨今の物価上昇に追いついていません。何より、賃上げできる大企業勤務の若者はいいかもしれませんが、就業者の7割を占める中小企業で同レベルの賃上げができる保証はありません。

恵まれた環境にある者はさらに恵まれ、そうでない者はさらに悪化していくという「K字経済(富裕層と貧困層の経済格差など経済の二極化が進む状態)」が加速し、それは同時に「結婚・出産できる層」と「できない層」の二極化になるとともに、中間層が消滅していくことになります。

すでに、「高年収帯しか子育て世帯が増えていない」という現実が作られつつあります。「賃上げ」でなくても、若者の実質可処分所得を増やす方法はあります。税金などは本来その調整機能を果たす役割があるはずですが、ここ最近の政府のやり方は「子育て支援金」など、逆に国民負担を増やし、全体の実質可処分所得を減らす方向になっており、これは少子化を促進する逆効果にしかなりません。そして、その被害を一番受けるのが中間層の若者なのです。

「少子化はお金の問題ではない」と簡単に片づけないほしい。「お金の問題」は「心の問題」です。何も食うのに困るほどの貧困を救えという話ではありませんが、人口ボリュームの多い中間層の若者が結婚にしろ出産にしろ、その意欲を喪失してしまったら、国全体の経済も未来も失われてしまうでしょう。

(荒川 和久 : 独身研究家、コラムニスト)

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