湖西線、関西と北陸結ぶ「大動脈」開通50年の転機

湖西線サンダーバード

湖西線を走る特急「サンダーバード」。大阪・京都と北陸新幹線の敦賀を結ぶ(記者撮影)

JR湖西線はその名の通り滋賀県の琵琶湖西岸を走る。1974年7月20日に営業運転を開始して以来、関西と北陸、両エリアを結ぶ重要なバイパス路線として活躍してきた。

開通50年の節目にあたる2024年、北陸新幹線の敦賀延伸によって転換点を迎えた。大阪・京都と金沢を結んでいた特急「サンダーバード」は敦賀止まりとなり、同駅で在来線と新幹線の乗り換えが必要になった。

湖西線の代表選手にも転機

春までは金沢からIRいしかわ鉄道線と七尾線に乗り入れて大阪―和倉温泉間を約3時間50分かけて直通する特急も1日1往復あったが、すでに隔世の感がある。このルートの場合は、新幹線延伸後、大阪―敦賀間(在来線)、敦賀―金沢間(新幹線)、金沢―和倉温泉間(在来線)と2回乗り換えることになった。

いまも最大12両編成で走るサンダーバードは湖西線の顔だが、大阪―敦賀間を乗り通しても約1時間20分ほど。一方、存在感を増している種別が「新快速」だ。日中は姫路―敦賀間を直通する新快速が1時間に1本走っている。サンダーバードが全席指定で移動コストがかさむようになったため、所要時間は長くなるが、特急券不要の新快速で移動する人も増えたようだ。

【写真】湖西線開通当日の盛り上がりが伝わってくる様子も。一方、現在の沿線の様子は?(20枚)

湖西線は山科(京都市山科区)―近江塩津(滋賀県長浜市)間の74.1kmの路線。途中駅は19駅ある。ほとんどが高架や盛土、トンネル区間で踏切が1つもない。サンダーバードや新快速は最高速度時速130kmで駆け抜ける。

かつて米原を通るルート(現在の琵琶湖線)を走っていた特急の「雷鳥」(大阪―富山間)や「白鳥」(大阪―青森間)、寝台特急の「日本海」(大阪―青森間)といった長距離列車は1975年から湖西線経由になった。1989年以降は寝台特急「トワイライトエクスプレス」(大阪―札幌間)も活躍した。

湖西線新快速

湖西線を走る新快速。敦賀から姫路まで1本の電車で行ける(記者撮影)

開通以来、山科―永原間が直流電化、永原以北は交流電化で、かつては両区間をまたぐ普通列車に気動車が使われていたこともあった。2006年に全線直流化されたことで、新快速の運転区間が敦賀まで延長された。駅ホームの長さの関係から新快速は近江今津で車両を切り離すため、敦賀まで直通するのは4両だ。

強風が悩みの種

湖西線の天敵が比良(ひら)山地から琵琶湖へ吹き下ろす「比良おろし」。JR西日本は防風柵の設置などの対策を進めているが、強風による運転見合わせや遅れがしばしば発生する。2023年公開の映画『翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜』でもいじられるほど、滋賀県民にとってはあるあるネタだ。サンダーバードは米原経由で運行することもある。

琵琶湖 湖西線 防風柵

琵琶湖をバックに走る湖西線の電車。高架の上に防風柵が取り付けられている(記者撮影)

開通50周年を巡っては滋賀県、大津市、高島市、長浜市で構成する湖西線利便性向上プロジェクト推進協議会とJR西日本によってさまざまな記念企画が発表されている。例えば、7月20日にはラッピング車両「びわこおおつ紫式部とれいん」を使用した記念列車を運行。乗客は「一般枠」「滋賀県民枠」「福井県民枠」それぞれから募集する。

湖西線開通50周年記念イベントの主要な舞台の1つが、京都鉄道博物館(京都市下京区)。6月8日~11日には「521系0番台」(クハ520形4号車・クモハ521形4号車)を本館1階で特別展示する。湖西線ゆかりの収蔵車両「クハ117形1号車」「オハ25形551号車」と並べることにしており、JRの営業路線とつながった引き込み線を活用できる京都鉄博ならではの演出といえる。

117系 クハ117

収蔵車両の「クハ117形1号車」。記念企画では「521系0番台」と並べて展示する(記者撮影)

また、京都鉄博は7月18日には湖西線をテーマにした「おとなの学び講座」を開催。担当学芸員の廣田琢也さんによると「関西と北陸を結ぶバイパス路線として誕生した同線の現状や、元になった江若(こうじゃく)鉄道からつながる歴史、江若鉄道の廃線跡の状況などを紹介する」という。

江若鉄道は1921年開業の鉄道会社で、1931年に浜大津―近江今津間が全通した。1969年に湖西線建設に伴って廃止。路盤の一部が湖西線に転用された。現在は京阪グループのバス会社、江若交通にその名を残している。

京都鉄博で記念企画

おとなの学び講座は毎回テーマを変えて月に1回ほど開催している。京都鉄博の前田昌裕館長は「当館にはお子さま向けのイベントがたくさんがあるが、大人のお客さまに普段研究しているテーマを解説することは学芸員のレベルアップにもつながる」と語る。湖西線については「開通後しばらくしてから乗りに行った思い出がある。もう50年も経つのか」と感慨深げだった。

京都鉄道博物館 湖西線 写真展

「開業日の近江今津駅」など収蔵写真展について解説する学芸員の久保奈緒子さん(記者撮影)

7月21日までは本館3階ギャラリーで、50年前の開通当時の様子などがわかる収蔵写真展を開催。担当する学芸員の久保奈緒子さんは「1970年に走り始めた新快速が湖西線に乗り入れ、特急などの優等列車も京阪神と北陸を短絡することで現在の琵琶湖線の逼迫していた交通量が緩和された」と説明する。

湖西線を走る急行「立山」といった象徴的な写真を選んで展示したという。久保さんは「江若鉄道の当時を知る年配の方に懐かしんでもらい、若い方には昔の湖西線にはこんな電車があったのか、と見ていただければ」と話していた。

京都鉄道博物館 開館8周年

京都鉄道博物館は4月29日に開館8周年を迎えた。中央が前田昌裕館長(記者撮影)

沿線自治体は北陸新幹線敦賀延伸を地域活性化につなげたい考えだ。京都駅からも1本の電車で行ける風光明媚な琵琶湖西岸に観光客を呼び込むことができれば、京都市内のオーバーツーリズムの緩和にもつながる。開通50周年記念イベントは湖西線に改めて注目を集める絶好の機会になりそうだ。

(橋村 季真 : 東洋経済 記者)

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