テスラの今後は「天国か地獄」極端な意見の訳

(写真:Bloomberg)

ジェットコースターに乗りたいなら、地元の遊園地に行くよりも、テスラ株への投資を考えたほうがいいかもしれない。

ナスダック市場で「TSLA」として取引されている、テキサス州に本社を置くEVメーカーの株価は、伝統的に急騰と急落を繰り返してきたが、おそらくここ数週間で見られたような極端な急騰はないだろう。そして、業界アナリストたちのますます不協和な意見によれば、この波乱はさらに大きくなる可能性がある。

テスラ基準でも「強烈な見出し」が続く

年初からテスラは、長らく待たれていたサイバートラックの展開がうまくいかなかったことを皮切りに、一連の挫折に直面してきた。中国の競合BYDに世界販売台数で抜かれ、2024年に突入した。

また、半自律走行技術「オートパイロット」に関するさまざまな訴訟や安全性調査にも直面している。そして、2024年1〜3月期(第1四半期)の最終利益は予想を超える前年同期比55%減を記録した。

しかしここ数日、テスラの基準からしても強烈な見出しが相次いでいる。

テスラは、中国の規制当局から、同国の広大な自動車市場でより高度な完全自動運転システムを販売しやすくなるという朗報を受けた。一方で、アメリカの規制当局は、旧型のオートパイロットシステムに関する調査を打ち切った。イーロン・マスクCEOは、テスラがより手頃な価格のEVの開発を断念したとの最近の報道に反論した。そして、テスラはロボットタクシーやその他の新技術の開発を進めると述べた。

年初来で43%もの株価下落に見舞われたテスラ株は、ようやく再浮上の兆しを見せていた。4月30日、ビジネスニュースサイト『The Information』は、マスクの自称"強硬派"コスト削減プログラムの一環として、2人の上級幹部を更迭するだけでなく、彼らのチーム(充電器部門)を閉鎖することを示すマスクの電子メールの一部を掲載した。

この動きはその後、多くのテスラ内部関係者によって確認されている。また、日本の大手自動車メーカーの関係者は東洋経済に対し、テスラの離職したスタッフが職を求めていると語った。

テスラはすでに昨年末14万273人いたグローバル従業員の約10%を削減していた。新たな人員削減には、テスラの充電器部門の責任者であるレベッカ・ティヌッチと、新製品の責任者であるダニエル・ホーが含まれる。

主要部門の閉鎖に誰もが驚いている

こうした動きは、「今のところテスラにとっては経費節減になるかもしれない。しかし、長期的には非常に近視眼的だ」と、ガイドハウス・インサイツの主席自動車アナリスト、サム・アブエルサミドは言う。

この2つの部門を削減、おそらくは閉鎖するという決定には、誰もが驚きを隠せず、説明するのも難しいようだ。

ホーが携わっていた部門は、長らく待たれていた第2世代のテスラ・ロードスターから、マスクが再び約束した低コストのEVまで、さまざまなプロジェクトに取り組んできた。充電器部門が手がける「スーパーチャージャー・ネットワーク」は、テスラの代名詞となっており、アブエルサミッドによれば、テスラの成功に絡んでいるという。

コストと航続距離はEV市場の成長にとって重要な障害であるが、特にアメリカでは充電器のインフラが限られていることは、EVの潜在的購入者にとって同じくらいの懸念事項だと考えられている。

テスラが初代モデルSセダンを発売した2012年に初めて開始されたスーパーチャージャー・システムは、アメリカ最大のEV公共充電器ネットワークに成長し、最も信頼性が高いと広く評価されている。その結果、テスラの販売台数が伸びただけでなく、ライバルの自動車メーカーからも賛辞を受けるようになった。

この1年で、アメリカで事業を展開するすべての主要自動車メーカーがテスラと契約を結び、スーパーチャージャーを利用できるようになった。アウディ、ゼネラルモーターズ(GM)、トヨタ自動車、ボルボなど、さまざまなブランドがテスラ独自規格「NACS」への切り替えに合意した。

「充電戦略」の見直しを考えるメーカーも

これはテスラにとって収益的に大きなプラスだと見られていたが、多くの競合他社の関係者は、東洋経済に対し、充電戦略を再考していると明かした。BMW、ゼネラルモーターズ、ホンダ、ヒュンダイ、起亜、メルセデス・ベンツ、ステランティスによって設立されたコンソーシアムである充電スタートアップ企業、イオナに参加する可能性があると語っている。

このことがテスラにとって何を意味するのかは、まだ明らかではない。同社は数年前に広報担当者を解雇し、時折公の場に姿を現すときと、四半期ごとの決算説明会を除いては、マスクは自身のソーシャルメディア・サイト、X(旧Twitter)を通じた不可解なメッセージを選ぶ傾向にある。

この気まぐれな経営者を知っている人やフォローしている人の間では、マスクは、ある業界幹部曰く"暴言"を吐くことで知られている。その幹部によれば、彼は「ある日誰かを解雇し、翌日にはその人物にまだ仕事があると伝える」ことで知られているという。

マスクは今回の騒動に対し、「テスラはスーパーチャージャー・ネットワークの拡大を計画しているが、新規設置のペースは遅く、100%の稼働率と既存設置場所の拡大に重点を置いている」とXに記した。

次から次へと出てくる一連の衝撃的な見出しは、投資家を含めたテスラウォッチャーを呆然とさせ、混乱させている。ある人は、テスラは「レールから外れつつある」と語る。一方で、モルガン・スタンレーのアナリスト、アダム・ジョナスは、株価目標を1株320ドルとし、第1四半期決算がきっかけとなった最近の安値の2倍以上とみる。

「両極端な意見」がある理由

どちらの見方が正しいのだろうか?テスラ株が伝統的に跳ね返ることを考えると、皮肉な答えは「両方」かもしれない。

両極端な意見には確かに理由がある。ジョナスによれば、中国での取引は非常に重要であり、彼はまた投資家向けの報告書で「モビリティ(ロボットタクシー)とネットワークサービスにおけるより速い採用率を通じて」テスラの市場価値は5億ドル跳ね上がる可能性があると強調した。

しかし、アナリストのアブエルサミッドなどは、ロボタクシーが開発され、そして規制当局の承認を得ることができるタイミングについて非常に懐疑的だ。特にテスラの洗練とはかけ離れているオートパイロットやFSD技術に関連する「安全上の懸念を考慮すると」。

実際、アメリカの道路交通安全局は先月、オートパイロットの調査を打ち切ったものの、「重大な安全性のギャップ」があるとし、現在進行中のオートパイロットのリコールを追認するとしている。

なかなか解消されない頭痛の種はまだ他にもある。サイバートラックは当初の期待に応える兆しをほとんど見せていない。トヨタ、フォルクスワーゲン、GMのような既存メーカーだけでなく、2023年10〜12月期(第4四半期)に世界全体でテスラを上回ったBYDのような中国からの積極的な参入もある。

さらに、テスラが2024年4〜6月期(第2四半期)の業績が不振だった場合、ウォール街の弱気なクマが再びテスラのジェットコースターを支配することになるかもしれない。次はどこまで下がるかわからない。

(ポール・アイゼンシュテイン : 自動車ジャーナリスト)

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