円安でも意外に安価「ノルウェー鉄道旅」の醍醐味

ノルウェー国鉄の普通列車の多くはスイス製電車で運行(筆者撮影)

2023年9月にノルウェーを鉄道で旅した。2023年11月27日付記事(物価高でも乗りたい「デンマーク鉄道旅」の魅力)でも触れたとおりデンマークの鉄道旅行はその「安全ぶり」に定評があるが、ノルウェーもデンマーク同様、魅力は「安全」である。

キャッシュレス化が進んでいて、約2週間滞在したが現金は必要なかったほか、スリなどの危険を感じる場面もなかった。北欧は全般に人口が少なく、スリやひったくりがいたら目立ってしょうがない。スリなどの立場から考えると居心地が悪いのであろう。ストリートチルドレンなども見かけることがない。海外旅行先の魅力はさまざまな要因があるが、「安全」を優先して選びたいものである。

長距離移動は日本と比べて高くない

乗車券は「ユーレイルパス」のノルウェーのみ、1カ月のうち3日間有効、60歳以上のシニア料金175米ドル(2万6451円)を購入した。

*カッコ内の日本円は筆者が実際にクレジットカードから引き落とされた金額、以下同

一般料金は192米ドルである。円安なので安くは感じないが、日本と同程度の価格なのでそう高くは感じない。

3日間の内訳は、オスロ―クリスチャンサン往復、オスロからベルゲン、トロンハイムからオスロで利用した。ノルウェーの長距離列車は全席が指定席なので、「ユーレイルパス」利用時でも指定席券50ノルウェークローネ(以下NOK、710円)が必要となる。

オスロからベルゲンへ向かった日は、ミュルダールで途中下車、観光路線のフラム鉄道に乗車した。1時間ほどの距離であるが運賃は470NOK(6634円)。「ユーレイルパス」の適用外である。筆者は1990年代にもこの路線に乗車したが、そのときは「ユーレイルパス」を利用している。ほぼ観光客しか利用しない路線なので国鉄から切り離されたのであろう。

ベルゲンからトロンハイムへは空路を利用(東京―大阪間とほぼ同じ距離)、こちらは運賃が6126円と格安、物価高の国でもLCC(Low Cost Carrier=格安航空会社)は日本より安く感じた。

北海道のような雄大な景色

ノルウェーは日本とほぼ同じ面積に人口541万人と少ない(日本の20分の1以下)。首都オスロと第2の都市で観光地のベルゲンを結ぶ路線は電気機関車の引く食堂車を含む客車8両編成だったが、その他の長距離列車の多くは4両編成、うち1両が座席と食堂合造車の電車である。近郊区間を離れると単線で、景色は雄大、道北か道東を走っているような自然が広がる車窓となる。

乗車率が高いわけでもなく、どう考えても儲かってなさそうな鉄道で、日本のように儲かる新幹線があるわけでもないのに路線が維持できているのは、やはり国鉄であるという点が大きいと感じた。

ノルウェー国鉄のなかで「儲かっていそう」と思ったのはオスロの空港鉄道で、「フリートルゲ」という空港特急はオスロ中央駅と空港の間を19分で結び、10~20分間隔で運行するが、運賃は230NOK(3252円)である。同区間は普通列車も走っていて所要時間は23分と、たった4分しか変わらないにもかかわらず運賃は118NOK(1675円)と安くなる。普通列車とてクロスシートなので車内設備に大きな差はないが、それでも空港特急は盛況であった。

日本人には「大きな運賃差」なのだが、多くの人は早く来たほうに乗っているようだ。おそらく現地の人にとっての運賃は普通800円、特急1500円くらいの感覚なのであろう。「日本人は貧乏になった」と感じる場面であった。

人口の少ない国の鉄道維持のために合理化は徹底している。駅に改札がないため、ワンマン運転は行わず、車掌がドアの開閉や検札に忙しく動き回っているが、オスロ中央駅ですら駅員はほとんどいない。切符はスマホのアプリで購入、外国人観光客などは券売機で購入する。日本でいう県庁所在地レベルの駅ですら無人駅である。

長距離列車の運賃体系は日本とかなり異なり、額は時間帯や混雑度によって変動する。オスロ―ベルゲン間(489km)の料金は1096NOK(約1万5600円)であるが、券売機で明日、明後日とみていくと運賃欄に「Lowest price=最低運賃」とあり、979、859、659、夜行列車では548NOKと半額の列車もあった。日本でも航空運賃は変動するが、それに似ている。489kmは東京からだと京都の少し手前になるが、そこまでの料金が8000円弱なら、鉄道に関しては日本よりむしろ格安である。

67歳以上は鉄道運賃半額

シニア料金も充実、67歳以上は半額になる。割引運賃とシニア料金の併用はできないが、オスロ―ベルゲン間でいえば、どの列車も正規運賃1096NOKの半額548NOKとなる。シニア料金も券売機で購入でき、乗車時に年齢を確認できるものを携帯していればよい。さすが高福祉国家と感じた。

筆者も67歳以上だったなら「ユーレイルパス」を利用しなかったと思うほどシニア料金が充実していた。ノルウェーでは、「ユーレイルパス」は60歳以上がシニア料金、乗車券は67歳以上がシニア料金と、適用年齢に差があるので注意したい。

さらに、同じノルウェーでも鉄道と高速バスではシニア料金の適用年齢に差があり、高速バス乗車時、運転手に「何歳?」と尋ねられ「65」と答えると運賃が半額になった。

物価高のノルウェーであるが、高齢者が旅行しやすくできていることには好感が持てた。ただ、前述の観光鉄道にはシニア料金はなく、生活路線と観光路線を分けているようでもある。

都市交通は物価高を避けることが難しい。首都オスロの市内交通最低料金は90分有効40NOK(566円)である。そこで7日券385NOK(5467円)を購入、1日分は781円相当で、メトロ、トラム、バス、定期船が乗り放題、運賃のうち50NOKはカード代なので払い戻しできる。

乗車券は現地の人は概ねスマホのアプリを使っている。旅行者も切符を前もって用意しなければならないが、切符売場はオスロ中央駅など主要駅以外にはなく、コンビニで購入する。コンビニはセブン‐イレブンをよく見かけたが、ナーヴセンというノルウェーのコンビニが公共交通の切符販売指定業者のようで、そのあたりの事情を知っていないと戸惑いそうだ。切符を持たずに乗車して乗務員から購入もできるのかもしれないが、かなり割高となる。

ベルゲンのトラムは世界でも珍しいスイス製7連接の車両である。停留所に券売機があり、日本人にも馴染みやすいと思いきや慣れないとちょっと難しい。券売機に紙の切符やICチップなどが出てくる部分がない。機械を操作し、クレジットカードを入れるとQRコードが表示され、それをスマホで読み取ってチケットを購入、クレジットカード決済となる。スマホとクレジットカード所持とネット環境が必須である。

空港へも運行しているが、空港駅にも駅員はおらず、こういったシステムは日本では普及していないので戸惑ってしまいそうである。係員との対話もインターホンのみ、英語が不得意な場合でも身ぶり手ぶりということができないので、IT化に慣れる必要があるだろう。ここでは24時間券105NOK(1491円)と90分有効の1回券40NOK(568円)を利用した。

世界最北の路面電車の切符もコンビニで販売

ノルウェー中央部に位置するトロンハイムも訪ねた。人口13万人の小さな都市であるが、ノルウェーでは第4の都市になる。世界最北の路面電車が走る街で、市内中心地から、山の中腹にあたる住宅地を抜け、閑静な林のなかが終点となる。途中までは市民の足といった車内であるが、終点まで利用するのはハイカーといった顔ぶれになる。

市内中心街の停留場で発車を待っていた運転士に切符の購入方法を聞くと「すぐそこにあるナーヴセンで購入してくれ」という答えが返ってきた。オスロ同様のシステムで、ナーヴセンでクレジットカードを使って購入した。切符といってもただのレシートで、24時間券が129NOK(1831円)だった。

24時間券であることを利用して、土曜の午後から日曜の午前まで利用したが、日曜日にはレトロな車両も運転していた。この車両は貸り切りで、日曜日の朝に入港したドイツからのクルーズ船乗客のオプショナルツアーとして運行していた。昔の車両をうまく利用していると感じたものである。

日本からのオスロ往復はLOTポーランド航空を利用(16万7890円)、航空会社を先に決めたわけではなく、航空券検索サイトで安かったものを利用した。航空券が高額となるピークの7、8月を避け、なおかつ厳冬にならない季節を選ぶことも大切だ。航空券は同じ航空会社ならロンドンでもパリでも南欧でも同じ価格である。

ドミトリーに宿泊して節約しよう

宿泊はドミトリー、1泊あたりの平均額は7103円、個室ではなくシャワー、トイレ共用となるが、シャワー、トイレ付きの個室となると最低でも2万~3万円、1週間程度の旅程でもかなりの出費となるのでドミトリーに慣れておくのがいい。

食費節約からもドミトリーがおすすめで、共用キッチンやダイニングがあるので、そこでスーパーマーケットで購入したもので自炊することができ、楽しくもある。スーパーマーケットでどのようなものがどのようなスタイルで売られているのかなどを探検するのは、観光名所めぐりよりも興味深いものである。あくまで筆者の趣向ではあるが。

(谷川 一巳 : 交通ライター)

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