Googleの「約束破り」が示す検索市場の"危うさ"

グーグルとヤフーのロゴ

公正取引委員会がメスを入れた、検索関連技術をめぐるグーグルとヤフーの契約の中身とは(上写真:Bloomberg、下写真:尾形文繁撮影)

ついに日本の当局が、「検索王」にクギを刺した。

公正取引委員会は4月22日、アメリカのIT大手・グーグルに対し、ヤフー(現LINEヤフー)への検索関連技術の提供をめぐり、独占禁止法に基づく行政処分を下した。

グーグルは独禁法に違反する疑いのある行為をすでにとりやめており、同法の「確約手続き」に基づいて今後の改善措置をまとめた計画を提出。そのため法違反こそ免れたが、計画の認定をもって、グーグルが初めて公取委から処分を下されるケースとなった。

提携4年で変更された契約の中身

メスが入ったのは、グーグルとヤフーが2010年に結んだ技術提携の中身だ。

グーグルは2010年からヤフーに対して、検索エンジンと検索連動型広告の技術を提供してきた。その技術を基に、ヤフーは自社のポータルサイトだけでなく、外部のポータルサイトなどの広告枠も活用した配信事業を展開。例えば「空気清浄機」と検索したユーザーの画面に空気清浄機の広告を配信し、広告収入を得る。そして、収益の一部を外部サイトに分配する、というビジネスモデルだ。

これにより、ヤフーは検索連動型広告の国内市場において、圧倒的首位に立つグーグルの数少ない競争相手となってきた。

ところがグーグルは2014年にヤフーとの契約内容を変更し、2015~2022年の約7年間にわたり、モバイル端末向けのウェブサイトやアプリへの広告配信に必要な技術の提供をストップ。ヤフーは代わりとなる技術供給者を見つけられず、モバイル向けの関連事業が立ち行かなくなった。

ヤフーと取引をしていたポータルサイト運営者なども、グーグルへの広告配信元の切り替えや、マネタイズ手段の変更などを余儀なくされたという。公取委の中島菜子・上席審査専門官は4月22日の記者向け説明会で、「取引先の選択肢はグーグル1社になっていたわけで、よい条件での取引ができなくなっていた可能性もある」と指摘した。

そもそもヤフーはなぜ、ライバルであるグーグルから技術提供を受けてきたのか。

日本のヤフーは1996年、ソフトバンクグループとアメリカのヤフーの合弁として設立された。当初は検索エンジンと検索連動型広告の技術も、アメリカのヤフーから提供を受けていた。

グーグルとの技術提携に関するヤフーのリリース文

グーグルとの提携に関する2010年当時のリリース文。リリースの後段では、「今回の取引を通じて(中略)より厳しく競合してまいります」と記載していたが……(画像:ヤフー(現LINEヤフー)の公式サイトより)

しかし2009年にアメリカのヤフーは、同技術の開発をやめてマイクロソフトから技術を受け入れる方針を決定。日本のヤフーもマイクロソフトからの技術提供を検討したが、これまで使用してきた技術に劣ると判断し、市場でもっとも優れた検索エンジンなどを提供しているとみたグーグルへの切り替えに至った。

ヤフーの切り替えによって、グーグルの国内における検索エンジンなどの技術シェアは約90%に高まることから、両社は提携に先立ち公取委へ相談。検索連動型広告配信業者としての事業運営をそれぞれが独自に行い、広告主やその入札価格などの情報を完全に分離して保持するなど、今後も競争関係を維持するという説明を受け、公取委は独禁法上の問題にはならないと判断した。

「競争維持」の約束破り、報告もせず

ところが前述の通り、この「競争関係を維持する」という約束は、たった4年で反故にされた。

公取委は2010年の相談後も複数回のフォローアップ調査を行ったというが、その中でグーグルから契約変更についての報告はなかった。公取委がデジタル分野での情報収集を進める過程で今回の問題が発覚。独禁法違反の有無について審査が始まったことを受け、グーグルからヤフーへの技術提供は再開されたという。

グーグルは提出した計画において、今後3年間にわたってヤフーへの当該技術の提供を制限せず、独自性と情報分離の確保に向けた手段を講じると説明。さらに、公取委による確約手続きの事案として初となる、定期的な外部専門家の監査も実施される。

「現在、デジタル分野については日本のみならず、いずれの(国の)競争当局も関心を持っているところだ。われわれも引き続き関心を持って対処していきたい」(公取委の中島氏)。

今回の行政処分で浮き彫りとなったのは、広告の一大ジャンルである検索連動型広告の危うい市場構造だ。

電通グループの「2023年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析」によれば、2023年の日本におけるインターネット広告費は3兆3330億円と過去最高を更新。その中でも検索連動型広告は1兆0729億円と、動画広告などをしのぐ最大のジャンルだ。

ただ、その配信事業者はグーグルとヤフーのほぼ二択という状況で、グーグルが70~80%(2021年時点)のシェアを握る。根幹を支える検索エンジンや検索広告の技術では、それをも上回るグーグルの独壇場とみられ、今後もヤフーが技術面でグーグルに首根っこをつかまれている構図に変わりない。

検索エンジンと検索連動型広告の技術でグーグルを脅かす存在が台頭してこない限り、ヤフーはこれに頼らざるを得ず、公取委としてもグーグルの自制を促すほかない状況だ。

巨大IT企業を“抑止”できるか

あらゆる領域で圧倒的優位に立つビッグテックは、かねて各国政府から競争上の問題が懸念されてきた。EUなどが先行して法規制に動く中、日本政府もここに来て対応を急いでいる。

公取委は処分を下した4日後の4月26日、アップルやグーグルなど、スマートフォンの基本ソフトやアプリストアなどの分野で影響力を持つ巨大IT企業を規制する新たな法案をまとめ、国会に提出した。

法案では禁止行為をあらかじめ複数規定し、違反が認められた場合には関連する商品・サービスの売り上げに対して20%の課徴金納付を命じる。遵守状況について定期的報告を求めるなど、事業者との間で継続したコミュニケーションを強化することで、規制の実効性確保につなげるという。

今回の検索広告をめぐる行政処分は、グーグルに対してどれだけの抑止力を発揮できるのか。同社のみならず、ビッグテック全体と公取委との力関係を占う試金石になりそうだ。

(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)

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