医師が指摘「悩みから解放されにくい人」3つの特徴

ストレス

認知症を引き起こす原因ともなる「日々のストレス」。特定の悩みからすぐに解放される人と、なかなか抜け出せない人の違いは何なのでしょうか(写真:shimi/PIXTA)
2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になると予想されています(内閣府「高齢社会白書」/2017年)。その認知症を引き起こす原因として、「慢性ストレス」による脳のダメージに注目し、「ストレスに屈しない最強メンタルは腸内環境が作る」と断言するのは、消化器外科医・ヘルスコーチの石黒成治氏です。最新著書『認知症にならないストレスマネジメント 医師が実践する脳ダメージをはねのける方法』から一部抜粋してお届けします。

ストレス耐性に差が出る3つのポイント

これまで多くの患者さんや健康スクールの生徒さんと接してきた経験から、特定の悩みからすぐに解放される人と、なかなか抜け出せない人を見てきました。その違いの1つ目は「マインドセット」。2つ目は「思考の執着のクセ」。3つ目は「腸内環境」です。それらを少しずつ変えていくことにより、悩みが軽くなっていく経過を見てきました。

「マインドセット」とは、個人が受けてきた教育や経験などから形成される「価値観や先入観、信念、物事の見方」のこと。生まれながらにして持つ性格ももちろん影響しますが、多くは後天的に、無意識に形成されていきます。

例えば、世の中は、テロも戦争も起こり、日本もかつての活気を失い、老後は破産のリスクが高くなり、かつてに比べて、どんどん悪くなっていると考える人がいます。その一方で、スマホが発達し、情報がいつでもどこでも得られるようになり、いつでもSNSで交信できる、世の中はどんどんよくなっていると考える人もいます。

このような視点の違いを生むのは、「物事は変わらない」という考え方(硬直マインドセット)を持っているか、「物事はどんどん成長する」という考え方(成長マインドセット)を持っているかです。後者のように、どんな困難なことがあっても、いずれはよくなるだろうと思えれば、ストレスがかかる時間、そしてストレスの総量が変わります。

ストレスをどう捉えるかによっても、体への反応が変わってきます。ストレスは、個人が自分の対処能力を上回る周囲からの要求を評価したとき、その状況を自分にとっての脅威と見なした結果起こります。ストレスと認識したとき、心拍効率が低下し、ホルモン反応が亢進し、否定的な感情が生まれ、認知パフォーマンスが低下します。

それに対して、自分にはその困難な環境での要求を満たす十分な資源があると認識しているとき、ストレスではなくチャレンジとなります。チャレンジであると考えたときは、心拍効率が上昇し、成長に関連するホルモンが反応し、逆に認知パフォーマンスが上昇します。

「ストレスはよいもの」という考えを持つ人は、ストレスの根底にある目標や要求を達成するのに役立つ行動を取るようになり、よりよい結果や関係性を生み出すようになります。このマインドセットを持つことで、コルチゾールなどのストレスホルモンに過剰に反応しにくくなります。

マインドセットは変えることができる

自分の内部に起こっている感情はマインドセットの結果起こるということ、そしてマインドセットを変えることができれば、感情やそれにともなう体の反応を変えられるということをまず認識してほしいと思います。

迷ったときにポジティブなフィードバックを受けられるようなコーチやカウンセラーをつけるか、常にポジティブな考え方をする人の近くにいる環境を整えることによって、今までの自分が無意識に持っていたストレスに対する考え方を変え、体の反応を変えていくことができます。

ストレスを受けやすいと感じている人は、自分が嫌だなと感じることや怒りを感じることは、「この状態を克服することが、自分にとっていい結果をもたらすサイン」だと肯定的に捉えるようにしてください。

日常の悩みから解放されるために考えるべき2つ目の点は、「思考の執着のクセ」です。悲観的な思考は、今からどんどん悪くなっていくのではないかという思考とともに、その思考をいつも考えてしまう、いつも気がついたら浮かんでしまうという執着が多くなります。

固定してしまった考えが、いつまでもつきまとってしまう状態を「反芻思考」、通称「ぐるぐる思考」と呼びます。「もっとこうすればよかった」「どうしてあんなこと言ってしまったんだろう」などとネガティブに考えてしまうため、自分を責めたり落ち込んだりして気分が滅入ってしまいます。

反芻思考は、否定的な考えが絶えず浮かんでくることが多く、そのためさらなる別の症状を引き起こします。その代表的なものは「痛み」です。反芻思考を繰り返すことによって痛みを感じやすくなる傾向が示されています。

この痛みが止まってほしいということばかり考える、痛みが消えるかどうかいつも気にしてしまうなどの反芻思考を持つ人ほど、実際の客観的に測定した痛みの程度よりも疼痛の程度を強く感じてしまうことが示されています。いつも痛みのことを考えてしまうために、ストレスを解消することができず、うつ病などに発展する例も存在します。

繰り返し起こる否定的な反芻思考を止めることは難しいとされ、どのように治療すべきか、どのような治療が有効かが模索されています。反芻思考が原因で、日常生活が送れないような状態では、認知行動療法と呼ばれる、専門的なカウンセラーや医師による治療が行われます。しかし多くの方は心配な考えが繰り返し浮かんでくるものの、そこまでの程度ではないはずです。

ぼんやりすると反芻思考に陥りやすい

人が生きているときの脳活動には3つのパターンが存在し、①何かに集中しているときの脳波、②何かに気づいたときの脳波、③何も考えていないときの脳波があります。そして、3つ目の特別何かに注意が向いておらずぼんやりとして雑念にふけっているような脳の活動を「デフォルトモード・ネットワーク」(DMN)と呼びます。

反芻思考をするタイミングは、特定のものに意識を集中していないデフォルトモード・ネットワークの状態の脳に起こります。特に批判される言葉を聞かされた後に起こる脳のデフォルトモード・ネットワークの活性化が、反芻思考との関連が強いことが示されています。反芻思考から抜け出るにはデフォルトモード・ネットワークの脳にアプローチすることがヒントになりそうです。

悩みから解放されにくい人の3つ目の特徴は、「腸内環境がよくない」ことです。食生活の変化、ストレス、抗生物質などの影響を受けると、腸内細菌の生理機能が変化します。腸内細菌は腸内でさまざまな生理活性物質、神経伝達物質、脳に影響を与えるアミノ酸を産生していますが、直接または自律神経を介して脳にシグナルを送ることになります。

さらに腸内細菌の変化は、腸から細菌や毒素などが入り込まないようにするための「腸のバリア機能」、脳に安易に血液中の物質を入れないようにするための「脳のバリア機能」をともに壊してしまいます。その結果、腸からさまざまな炎症を引き起こす物質が血液内に流入することにより、免疫細胞が活性化して、炎症性物質が大量に体内に産生されます。

体内に生じた炎症性物質は脳のバリア機能も越えて脳内に流入するため、脳も炎症状態が引き起こされます。不安やうつなどの精神症状の原因は脳の慢性炎症と関連があることが示されていますが、この脳内炎症は腸の炎症からも誘導されます。

不安症の患者の腸内細菌を調査した研究では、腸内細菌の多様性が低く、特に腸の炎症を抑える作用のある短鎖脂肪酸を産生する菌種の割合が低下していることが示されています。同様にうつ病を発症している患者でも腸内細菌の多様性の低下、真菌のカンジダアルビカンスの増加を認めており、腸内細菌の乱れと精神症状の関係性は、多くの研究で確認されています。

善玉菌を増やすとストレスに強くなる

ストレスにさらされてもうまく適応する能力である「レジリエンス」と腸内細菌叢の関連が研究されています。うつ病や不安症の患者で関連が認められたように、腸内細菌叢の乱れがストレスフルな出来事に対する心理、感情、認知のコントロールに深く関わっていることを示す研究が増加しています。ストレスを受けると腸内細菌の組成に多大な影響を与えることが示されていますが、逆もまた信なりで腸内細菌の乱れを認めている方がストレスに弱いということもいえるのです。

腸内細菌にアプローチすることによりストレスに対するレジリエンスを変化させることができることを示す研究を紹介します。過去6カ月以上にわたり日常生活においてストレスレベルが高い19歳から35歳の男女に対して、乳酸菌サプリメントのカプセルを投与する群と、見た目は同じであるが中身に乳酸菌が入っていないカプセル(ブラセボ)を4週間投与する群に分けました。人前でスピーチをしたり、算数の課題を実行するなどの急性のストレスを与え、ストレスホルモンであるコルチゾールやその他のストレス関連物質を測定するために唾液と血液を採取しました。

ストレステスト後のコルチゾールの値は乳酸菌サプリメントを投与されている人の方が一貫して低い値を示します。ベースラインの値に戻るまで乳酸菌群は約30分であるのに対して、プラセボ群では60分かかっています。被検者自身の当日のストレスレベルによって結果が変わる可能性があるため、テスト当日にストレスを抱えていないと答えた人のみで検討したところ、テスト10分後のコルチゾール値は乳酸菌群の方が低く、ストレスに動じない傾向が示されています。

どのような腸内環境がストレス耐性にベストかについては、さらなる研究が進んでいますが、少なくとも、僕たちは腸内環境を健全に保つことがストレスに対する抵抗力につながり、将来の認知症を予防していく上で重要な鍵であることを認識し、運動・食事などの生活習慣を心がける必要があるのです。

(石黒 成治 : 消化器外科医、ヘルスコーチ)

ジャンルで探す