激減した「サブウェイ」じわり復活している事情

サブウェイ

500店舗近くから激減するも、コロナを経て復活を果たしつつあるサブウェイ。写真はTFT有明店(撮影:今井康一)

一時の低迷期を乗り越えじわじわ復活

このところ、サブウェイが増えている。

コロナ禍当初にビジネス街等で30店の閉店を余儀なくされたものの、その後追い上げを図り、2024年3月8日の「フルルガーデン八千代店」で国内200店舗目となった。既存店売り上げも42カ月連続プラスだという。

店舗数としては、近いところでロッテリア(330店舗・4月時点)、バーガーキング(215店舗・2024年2月時点)、フレッシュネス(154店舗・4月時点)がある。これらのチェーンと比べても、「サブウェイ」の名は緑と黄色の特徴的なロゴとともに、よく知られている方だろう。

サブウェイは1965年にアメリカで誕生、100以上の国や地域に約3万7000店舗を展開するチェーンだ。日本では、1991年にサントリーホールディングスの子会社として日本サブウェイを設立。順調に展開を広げ、店舗数ピークの479店舗に達したのが2014年だ。

2018年にサントリーの傘下から離れ、現在は日本サブウェイ合同会社が運営している。

一時期500店舗に迫る勢いだった同チェーンが、なぜ激減したのか。そして、復活の理由は何だったのか。日本サブウェイに聞いた。

同チェーンは「サブマリン」と呼ばれる潜水艦型サンドイッチのチェーンだ。

日本では、ファストフードと言えばハンバーガーが主流。そのため、サンドイッチのチェーンであること自体が、同チェーンの大きな特徴となっている。なお、上陸以来「サンド」の名称を守ってきたKFCも、2022年バーガーヘと改めている。

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ユニットに並んだ具材から、目の前でサブマリンサンドイッチを作成してもらえるのがサブウェイの大きな特徴。一部店頭で作らない店舗もあり(撮影:今井康一)

売りは、素材の新鮮さと種類の多さだ。「ユニット」と呼ばれるショーケースには常時20種以上の素材が並ぶ。

パンの使用期限は1日のみ

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パンは各店舗で午前中に焼き上げている(写真:サブウェイ)

特筆すべきは、パンの新鮮さ。メーカーから生地を冷凍状態で仕入れ、店舗で解凍・発酵・焼き上げを行うのだという。

「小麦の奴隷」など、工場で仕込んだ生地を店舗で焼き上げるタイプのベーカリーチェーンが近年増えているが、サブウェイでは昔からその方式だったわけだ。

焼き上げは朝から行うため、ランチのサンドイッチであれば焼き立てが食べられる(使用期限が1日のため、午前中に提供されるパンは前日に焼き上げたものもある)。これだけ有名なチェーンなのに、ほとんど知られていない事実だ。

そのほか、「サンドイッチアーティスト」と呼ばれる調理係が、オーダーに応じて客の目の前で商品を作る提供スタイルも、サブウェイならではだろう。パンの種類やドレッシングが選べるほか、「玉ねぎ抜き」「チーズをプラス」など具材のカスタマイズも可能だ。

メニュー開発は日本サブウェイが行っており、グローバルのメニューであっても、日本人の好みに合う味に調整されているという。一番人気の「えびアボカド」(590円)は日本独自のメニューだ。また国内メーカーから仕入れているパンは、アメリカオリジナルのものより表面はソフトに、中身はもっちりと仕上げられているそうだ。

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一番人気は日本オリジナルメニューの「えびアボカド」590円(撮影:今井康一)

「ドレッシング・ソース類の調整がもっとも気を遣うところ」と、マーケティングマネージャーの土井英人氏は説明する。

パンに挟む具材が多いため、ドレッシング類の味や、適量を見極めるのが難しい。微調整に2カ月半ほどかかったこともあるそうだ。

確かに、ドレッシングが濃すぎると、新鮮な食材そのものの味がわからなくなってしまいそうだ。さまざまな具材の味を引き立てながらまとめる、絶妙なバランスが要求されるのだろう。

商品開発では、必ず社長の阿相智久氏が最終決定を下すという。

このように、チェーンとしての特徴、知名度、品質などがそろっているサブウェイが、一時激減したのはなぜだったのだろうか。前述の土井氏によると、「急激な増加に、商品やサービス品質の徹底が追いつけなかったこと」が原因だったという。

実はサブウェイはフランチャイズ展開を前提としたビジネス。日本でも、サントリー時代は直営店も混在していたが、徐々に直営を減らし、現在は1店舗を除いてすべてFC店となっている。

低迷を鑑みトレーニングプログラムを見直した

つまり、サブウェイは商品づくりから接客はもちろん、種類の多い具材の準備、在庫管理に至るまで店舗ごとの果たす役割が大きい。そんなビジネスモデルであるにもかかわらず、ノウハウがすべてのFC店に徹底されなかったことで、商品・サービス品質が低下し、客の減少につながったのだという。

こうした結果に鑑み、日本サブウェイでは出店を抑えながら、新規オーナーに対するトレーニングプログラムの見直しを行った。

「以前の研修は、現場での運営に関しての研修が主体だった。現在は、これに追加してフランチャイズオーナー様に対して、このビジネスが成功するための、1週間の研修を追加している。1店舗でも多くの店舗数、また、長く運営ができるようにトレーニングしている」(土井氏)

例えばサンドイッチは、ただおいしく、美しく作ればよいというものではない。テイクアウトの割合が高いため、スピードも重視されるのだ。土井氏によると、注文から会計まで約2分30秒を目標に提供されている。社内コンテストなどにより技術の向上を推奨しており、おすすめサンドイッチを30秒以内で作れるスタッフもいるそうだ。

また食品ロスを防ぐため、パンに挟む具材量の正確さも重要だ。

そのため、店舗では、スタッフがシフトに入るときに毎回「ポーションチェック」と呼ばれるテストを行うという。つまり、決められた具材量でサンドイッチが作れるかのチェックだ。

復活戦略としてほかに行ったのが、SNSによる認知度拡大だ。Xでは「#がんばるんだサブウェイ」を合言葉に、全国から出店希望地を募集。フォロワーは116万人に達し、撤退してしまった地域からの復活希望を含め、年間2000件の出店リクエストが寄せられる。

また、話題作りのためのジョークネタも積極的に投稿。例えば2023年のエイプリルフールには「宇宙人専用サンド」、2024年は「あなたの『いま食べたい』を“脳波”で瞬間カスタム」のニュースを発表している。

なんとなく、自虐ネタで有名な銚子電鉄や、際どいジョークネタで若者間での認知度を上げたバーガーキングを思わせる手法だ。

エイプリルフールには各社頑張っているが、加減が難しい。2024年はKFCが「チキン詰め放題」のニュースで謝罪する結果になってしまった。ブランドのカラーも踏まえて、許される嘘、効果的な嘘を見極めるバランス感覚が要求される。

テイクアウト需要・健康志向も追い風に

その点サブウェイは大バズりとまではいかないが、滑りもせず、ブランドの特徴も取り入れ、ファンにとっては微笑ましいジョークに収まっている。

以上のような改善策が、結果的に近年の店舗数増加や売り上げ増につながっている。

ただ、コロナ禍・物価高騰の社会背景も後押しをしているようだ。もともとイートインスペースが少なく、テイクアウトが主体のビジネスモデル。また野菜をたくさん食べられるということで、コロナ禍に高まったテイクアウト需要・健康志向にマッチした。

客単価は950円だが、サンドイッチ+ドリンクorポテトのセットで最低600円台前半からという手頃感も、利用しやすい印象を高めた。

「値上げも比較的抑えている。例えば、新商品のトリプルミートBMTは1992年上陸時のメニューのリバイバル。当時480円で販売していたが、今回550円で発売した」(土井氏)

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新商品のトリプルミートBMT(550円)。上陸当時のメニューだが、具材の厚さ、ドレッシングとの組み合わせなど、日本で一から開発。香り、食感、塩気具合などがそれぞれ異なる3種のミートの調和が楽しめる。なお、写真はポテトドリンクセット(Sサイズ+370円)だが、+220円のポテトセットを注文する人が多いそう(撮影:今井康一)

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2番人気のBLT(フットロング・990円)。2倍サイズのフットロングはアメリカではよく注文されるという。日本では認知度が低く、周囲の目が気になるためかあまり出ない。セルフオーダーシステムの普及により人気が高まっていくかもしれない(撮影:今井康一)

なお直近の値上げの情報を見てみると、2022年11月、2023年5月価格改定を行っており、一例としてえびアボカドサンドイッチが550円から590円まで値上がりしてきている。

こうした上昇気流に乗り、サブウェイが現在進めているのが、「セルフオーダーシステム」の導入だ。これはいわゆるタッチパネルで注文、支払いまでできるシステム。コロナ禍を経て普及が広がっているが、同チェーンでの導入は、コロナとは別の理由から始まっている。

セルフオーダーのメリット・デメリット

「お客様の好みを聞きながら仕上げる従来の方式はサブウェイの特徴ではあるが、一方でハードルが高いと感じる方もいる。2022年からテスト的に導入を始め、現在までに19店舗まで増えてきた」(土井氏)

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サブウェイが導入を進める「セルフオーダーシステム」。パンの種類やトッピングの選択もでき、タッチパネル式に慣れた客にとっては注文しやすい。人材コストを低減できるメリットも大きく、店舗網拡大において強いツールとなりそうだ(撮影:今井康一)

筆者自身も、サブウェイでの注文時に好みを伝えることや、サンドイッチが作成されていく様子を見守りながらショーケースのそばをじりじりと進む過程に居心地の悪さを感じていた一人である。

例えば行きつけの魚屋や八百屋でなら、ものの売り買い以外のコミュニケーションも発生するかもしれないが、チェーン店、しかもあまり足を運ばない店では難しい。

自分であれば、迷わずタッチパネルでの注文を選ぶだろう。

店、つまりフランチャイズオーナーにとってもメリット・デメリット双方があるようだ。

メリットはなんと言っても、人手不足対策、人材コストの低減だ。

一方で、機械のため融通が利きにくいというデメリットがある。例えば「サンドイッチをカットしてほしい」と思っても、現在のところタッチパネルでは注文できない。もっとも、こうした細かい点については今後現場からの声を集め、改善していくという。英語以外の中国語、韓国語にも客の要望に合わせて対応する予定だ。

また、「サブウェイの良さ」がなくなってしまうと感じているオーナーもいる。

ただ、何がブランドの良さなのかは、客とのコミュニケーションの中で定まっていくものだ。その過程で変化させていくもの、堅持するものを見極めることが、長く続くブランドには求められる。

サブウェイでは2024年内に約20店舗の出店を計画し、今後5年間で300店舗まで広げていく考えだ。人手不足の今、人材面のメリットが大きいセルフオーダーシステムはそのための強力な武器となる。

セルフオーダーシステムの普及により懸念されるものがあるとすれば、客との直接の接点が減ることにより、客との間に1枚、壁のようなものができてしまうことだ。サービス品質の低下を招くリスクもある。

例えばコロナ禍に増えた宅配では、店舗が客と顔を合わせないため、商品のミスが起こりやすくなり、客のクレームが店に届きにくいなどの弊害が指摘された。

デジタル化の一方で、サービスを補える何かを見つけられるかが、今後長期的に伸び続けられるかのカギになるのではないだろうか。

(圓岡 志麻 : フリーライター)

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