中学受験「やめてもいい」と話す親の子が受かる訳

西岡壱誠 東大 中学受験

中学受験、親子で乗り切るためのポイントとは(写真: すとらいぷ / PIXTA)
名門私立中学の合格をつかんだ生徒たち。その後東大に進学する子どもたちも多く、中には「東大受験より、中学受験のほうが大変だった」との声もあります。中学受験で、いったいどのような勉強をしていたのでしょうか。中学受験にも役立つ『謎解きミステリー 東大クロスワード』を上梓した、東大カルペ・ディエムの西岡壱誠さんが、中学受験への心構えを紹介します。

中学受験、どんなスタンスで挑んでいた?

都内では私立中学に進学する子どもたちが4割を超える区もあるほど、過熱する中学受験。中学受験をする子どもの多くは、小学校低学年のころから塾に通い始めます。親にとっては、金銭的にも肉体的にも、大きな負担になることでしょう。

一方で、東大生に話を聞くと、中学受験で勉強に目覚めて、東大に合格しているパターンが多いです。東大生たちは、中学受験のためにどのような準備をしていたのでしょうか? 今回は東大生や、東大生の子どもを持つ親御さんに話を聞いてみました。

まず、いちばん驚かされたのは、「受験をやめたければ、やめる」というルールをあらかじめ課していた家庭が多かったということです。

中学受験と聞くと、親御さんが強制的に子どもに勉強をやらせているイメージがあります。しかし、実際に東大に合格した子どもを育てた家庭の場合「やりたくなくなったら、やめていい」と伝えて、中学受験をさせていたケースが多かったです。

なぜそんなルールを課している場合が多いのかについて、見事難関中高一貫校に合格し、その後東大経済学部に合格したAくんはこんな経験を話してくれました。

「本当に受験が嫌になったときがありました。親にそう話したら、泣きながら『ごめんね。つらいよね。それなら、ここまで頑張ってきたけれど、やめてもいいよ?』と言ってくれたのです。

逆にその言葉で、『いや、もう少しだけ、頑張ってみようと思う』と言って、最後まで頑張ることができました。あの時、親から頭ごなしに『つべこべ言わずに勉強しなさい!』と言われたら、逆に途中で心が折れてしまって、受験をやめてしまっていたと思います」

また、中学受験をした東大生たちに、「中学受験をしてよかったと思うか?」と尋ねると、ほとんどの人が「よかった」と回答していました。その理由としては、以下のようなものでした。

・中学受験の塾や、進学先などで、さまざまなバックグラウンドの友人に出会えて、人生経験に厚みが出た
・中学受験のときに、刺激をくれる仲間に出会えたのがよかった
・第1志望には落ちてしまったが、その過程で勉強の楽しさがわかったのは、とてもよかった

興味深いのは、中学受験をして「よかった」という回答をした東大生の中には、受験で不合格だったという人も含まれていた点です。

中学受験で勉強にポジティブな印象を持つ

結果がよかったから「よかった」のではなく、本気で頑張って、ポジティブな気持ちで受験勉強をしたからこそ、その結果がいいものではなかったとしても、受験することにはネガティブなイメージを抱かなかったようです。

だからこそ、「中学受験では第1志望に合格できなかったけれど、大学受験こそは第1志望に受かりたい!」と考えて、東大に合格しているケースも少なからずいるのです。

重要なのは、中学受験を通して、受験や勉強に対してポジティブなイメージを持つことです。

合格・不合格を超えて、中学受験がポジティブな経験になっていれば、その後の人生において、受験や、勉強、ひいては何かに挑戦することに対して、ポジティブな気持ちになれるのです。

それとは逆に、中学受験に対してネガティブな印象を持ってしまい、「親から強制されて、やらされた受験」だと、結果とは関係なく、悲惨な状況に陥ってしまうケースもあります。

自分の意思で中学受験に挑まないと、親の希望する中学に行っても楽しめず、落ちこぼれてしまう場合もあります。

「名門進学校に行ったら楽しいわよ!」と親に言われて受験して、進学先の学校が自分に合わず、1カ月で辞めてしまった、という人もいます。合格だけがゴールだと、合格した後が大変なのです。

だからこそ、「いつでもやめていい」というスタンスは、子どもにとって有効なのです。あくまでも子どもが自分の将来の可能性を広げるためにやっていることであり、親がやらせているものではない、という姿勢を貫くのです。

中学受験を頑張る理由を一緒に探す

短期的に考えると、親が強制的にやらせるよりも効果が減ってしまう部分もあります。

ですが長期的に考えれば、もし強制的にやらされていたら、「勉強=やらされるもの」という印象を抱いてしまい、「受験=親のエゴでやらなければならないもの」という感覚にまで陥り、その後の人生にとって大きなマイナスになってしまうのです。そうではなく、子どもには「あくまでも、自分が選択したもの」として、中学受験を捉えてもらったほうがいいのです。

「でも、それだとなかなか子どもが勉強しないんじゃない?」「簡単に『じゃあ、やめる』と言われたらどうしよう」と思う人もいるかもしれませんが、そこは親御さんの腕の見せ所です。

子どもと一緒に、中学受験を頑張る理由を探してあげて、子ども自身に「この中学に行きたい」と思わせるような工夫をしましょう。

例えば鉄道が好きな子どもなら、鉄道研究会がある学校を探してあげて、文化祭などで展示している学校があるなら、文化祭に連れて行ってあげる。年上のお友達の中で、行きたい中学校に通っていた経験がある子を探してみる。その中学を卒業した大学生をバイトで雇ってみて、家庭教師をしてもらう、なんていうのもいいでしょう。

とにかく、子どもと一緒に、中学受験を頑張る理由を探してみるのです。あるいは、楽しい勉強の参考書を買ってみたり、図鑑を渡してみたり、勉強になるクロスワードパズルを買い与えてみたりすることも有効でしょう。

誰かに与えられた理由で頑張れるほど、中学受験は甘くありません。子どもが自分でしっかりと考えて、自分自身の中でも納得感がある受験ができなければ、肝心なときに力を発揮することができません。

仮に合格したとしても、進学した中学校で失敗してしまうこともあります。結局、子どもが心の底から「ここに行きたい!」と思わなければ、成績なんて上がりませんし、1時間勉強するよりも「ここに行きたい!」と思えるようなイベントを、1時間体感させてあげることのほうが、効果が出ることもあるのです。

だからこそ、勉強の時間を削ってでも、しっかりと「自分が行きたいと思えるように」手伝ってあげる必要があるのです。

行きたい理由がはっきりしていない場合は?

逆に「行きたい理由」ははっきりしていないけれど、勉強するのはそこまで苦ではなくて、「とりあえず親に言われたから」という理由で、勉強のスイッチ自体は入っている、というタイプの受験生もいます。

僕は、そういう子であっても、きちんと「行きたい理由」を引き出してあげる必要があると思います。

そういう子どもは、意外とその後のタイミングで息切れしてしまって、勉強をやめてしまうこともあります。

「行きたい理由」が明確でないと、受験勉強はうまくいかなくなってしまう場合があるというわけです。親の受験ではなく、本人の受験にする。これが中学受験の必勝法と言っても、過言ではないでしょう。ぜひ、子どもが中学受験をする場合は、「本人が行きたい理由」を一緒に考えてあげてください。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)

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