日経平均にはあまりこだわりすぎないほうがいい

日経平均はついに「平成バブル時代の高値」を突破した。だが投資初心者はその点にこだわりすぎないほうがいい。それはなぜか(撮影:梅谷秀司)

日経平均株価が2月22日に平成バブル時代の1989年12月29日につけた3万8915円を更新したのは記憶に新しい。その後は3月4日に初の4万円台乗せ(4万0109円)を達成、同月22日には4万0888円まで上昇したものの、4月以降は4万円を回復できず、直近は取引時間中に3万7000円を割り込むなど急落した。

今後の相場はどうなるだろうか。1989年当時と現在の株価指数などを比較、また個別株価の現状も分析しながら占ってみたい。

結論から言えば、個人投資家は現状の日経平均をどうしても1989年の3万8915円と比べて「高い、安い」と言いがちだが、それはあまり意味がないといってもいいくらいだ。現状はやや調整しているが、すでに日経平均を構成する多くの銘柄は史上最高値を更新しているし、日本株の上昇もこれからが本番だと言える。

そもそも日経平均の算出の仕方は?

日経平均は225銘柄からなるが、実際は単純にすべての銘柄の株価を足して225で割るわけではない。

簡単な計算式で表すと、

① (「株価」×②「換算係数」)÷③「除数」

となる。簡単に説明すると、各銘柄の株価に、株価水準の高低による影響をなくすために銘柄ごとに決定されている②の換算係数をかけ、それをもとに225社の合計株価を算出。それを③除数で割ってはじめて日経平均が算出される。

除数とは株式分割や併合、減資などで、指数の連続性が維持されるように修正をかけるための値のことだ。日経平均採用銘柄で入れ替えや分割などがあるたびに微調整される(より詳しく知りたい方は日経平均のプロフィルから日経平均の算出要領を参照)。

さて、ベテラン投資家なら、日経平均が2000年4月に大幅な銘柄入れ替えがあったことを覚えているだろう。実はそのとき、前述の除数も急上昇しているのだ。

1989年12月時点で「10.198」だった除数は、その後もほぼ同水準で推移していたが、2000年4月には約2倍程度の約20.341へ急上昇した。ちなみに昨年10月以降は30台に乗せており、直近では約30.589である(4月19日現在)。確かに、除数の変更は株価指数の連続性を保つために必要な作業だが、2000年のこの極端な銘柄入れ替えがなければ、その後の株価指数の動きは大きく違ったものになっていたとの意見が多い。

「日経164」なら1999年高値更新、平成バブル比2.6倍

では、2000年の銘柄大幅入れ替えの影響を排除して比べる方法はないだろうか。

実は、現状の日経平均採用銘柄で、1989年12月末時点の株価と単純比較できる銘柄は164銘柄ある。225銘柄中、約73%に相当する。

この164銘柄で、現在の換算係数、除数で調整をほどこしたうえで便宜上「日経164」を算出して遡及してみると、1989年末時点では1万0058円だったことになる。

その後下落して、1992年7月には安値4596円と1989年末の半値弱の水準まで落ち込んだ。だがその後は切り返し、何度か安値水準に接近したものの、一度も割り込むことなく1999年12月には1万0543円となって、最高値を更新している。

さらに、日経164はその後2007年6月に1万2715円の高値をつけた後、リーマンショック後の2009年2月には4972円まで下落した。だがやはり1992年の安値を割り込むことなく、上昇に転じた。そして2023年5月に2万円台に乗せ、日経平均が最高値を更新した2月22日には2万6000円を突破した。つまり比較できる164銘柄で計算すると、実質約2.6倍となっているわけだ。

逆に言えば、現状の株価と比較できない銘柄が61銘柄あり、これらが影響したのかもしれない。だがこのように日経164に限定すると、バブル崩壊後約10年で高値を更新していたということになる。また2013年のアベノミクス以降に限れば、米国株ほどではないものの、十分な上昇トレンドが継続している。

報道では「約34年ぶりの史上最高値更新」「4万円台到達」などと言って、時代の区切りのように喧伝しているが、1989年の水準など、とっくに更新していたのである。

1989年のトヨタのPERは25倍だった!

さて、日経平均が3万8915円をつけた1989年末当時、現在も存続している銘柄のなかで、バリュエーション(株価指標で見た企業評価価値)を見てみよう。

まず低PER(株価収益率、実績ベース)から見ると、最も低いのは富士フイルム(4901)の24.1倍、次はトヨタ自動車(7203)の25.2倍、その次はホンダ(7267)の32.3倍だった。また、PBRではトヨタの2.44倍、富士フイルムの2.44倍、リコー(7752)の2.67倍の順に低かった。

一方、予想利回りでは、最も高いのは関西電力(9503)の0.996%、次は日産自動車(7201)の0.952%、その次は三菱電機(6503)の0.909%だった。このように、1989年時のPERは最低で20倍台半ば、PBRも最低でも2倍超、さらに利回りは高くても1%未満(ちなみに1%超は東燃の1銘柄)という状況であった。

参考値として当時の東証1部市場と現在の東証プライム市場を比較してみると、1989年時の東証1部はPERが約61倍、PBRが約5.60倍だった。対して東証プライムの2024年4月19日時点は、それぞれ16.09倍、1.40倍となっている。

現在の日経平均の水準は1989年末とほぼ同程度でも、当時は現在東証が進める「PBR1倍割れ企業に対する指導」など、まったく無縁の世界だった。現状は、依然としてプライム市場全体の約40%弱の銘柄が1倍を割れている。1989年当時の高揚感などはまったくなく、どん底からジリジリ上がっていることこそ、長期的な上昇の可能性を秘めている証拠だ。

さらに日経平均の昨年末比上昇率は、日経平均が4万0888円をつけた3月22日時点で約22%に達したが、ドルベースで見た日経平均の同期間の上昇率は約14%にとどまった。

この差は、ドル円相場が昨年末の1ドル=141円から150円を突破してドル高円安が進行したことでほぼ説明される。このように、同じ日経平均でもドルと円で見たときに違うように、国内投資家と海外投資家では見える景色にかなりの違いが生じている。

実際、ドルベース日経平均の過去最高値は、終値ベースでは2021年2月16日につけた288.79ドルであり、直近は240.2ドル(4月19日現在)と、約17%下回る水準にある。またTOPIXも1989年12月18日につけた2884.80ポイントに対して、直近は2626.32ポイント(同)と、やはり約9%下回る水準にある。同じ日本株でも、円ベースで見た日経平均だけが過度にスポットライトを浴びる形になっていたのだ。

確かに日経平均は史上最高値を更新し、一時は4万1087円まで到達したが、それは半導体関連株を中心とした米国株高の堅調やドル高円安がなせる業であったのである。

半導体など特定銘柄から、今後は物色が広がる展開へ

さて、日経平均は1月9日以降、4日4日まで実に60営業日連続で25日移動平均線の傾きが右上がりを継続してきたものの、直近はアメリカの利下げ観測が大幅に後退したことや中東情勢の緊迫などで急落した。

だが、短期トレンドに続き、中期トレンドにも傷がつきはじめているが、月足で見た長期トレンドは、依然右上がりが継続している。日経平均の一時4万円台到達は喜ばしいことだが、この動きはあくまで日本株の一面にすぎない。

今後は年初以降の一本調子での上昇は見込み薄になったかもしれない。だが、調整終了後はTOPIXや、海外投資家目線で見たドルベースでの株価指数も含め、半導体関連に偏らない、足が地に着いた高値更新を目指す展開が始まると見る。

前述のように、日経平均は日本を代表する225銘柄で構成されているが、株価指数に対して個別銘柄が225分の1ずつ平等に寄与しているわけではない。

日経平均が最高値を更新する過程では、東京エレクトロン(8035)、ファーストリテイリング(9983)、アドバンテスト(6857)、ソフトバンクグループ(9984)などの寄与度が非常に大きかった。

だが、いびつな指数の上昇には置いてきぼりをくらったかもしれないが、日経225銘柄以外のTOPIX500銘柄のように、日本株には、むしろ今から高値を目指せる銘柄が依然多数存在していることを忘れてはいけない。4万円を超えるか超えないか、などといった日経平均の目先の数値にはあまりとらわれないほうがいい。調整局面を慎重に見極めながら、リバウンド局面を丹念に拾っていく場面の到来である。

(野坂 晃一 : 証券ジャパン 調査情報部副部長)

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