「仕事の完遂」をつねに「美徳化」する上司の盲点

議論、テーブル、オフィス

作業の中断は無駄、という考え方は正しいのでしょうか(写真:マハロ/PIXTA)
「この作業、続けても無駄だよな」と思っているのに、同じことをいつまでも続けざるをえない状況になったことはないだろうか。
作業の過程で環境が変化したり、もう結果が出ないと判明したのに同じことをし続ける組織は要注意だと、米海軍の原子力潜水艦「サンタフェ」で艦長を務めたマルケ氏は述べる。
では、チームが適切な方向へ軌道修正していくためには何が必要なのか。
マルケ氏がまとめた、リーダーの「言い方」についての指南書『最後は言い方』から紹介しよう。

「作業の完遂」は何より重要だった

産業革命期のやり方というのは、赤ワーク、すなわち生産作業に最大限の時間を費やすためにできたものだ。

最後は言い方: これだけでチームが活きる究極のスキル

要するに、組立ラインが中断なしに動き続けることが重要ということだ。

現代の管理職は、いまなお同じやり方を踏襲している。

時間を厳守することから始まって、やるべきことを部下に強要して服従させ、できるだけ長く赤ワーク(生産作業)を続けさせることが当たり前になっているのだ。

そんな管理職にとって、時間あたりの生産性を最大にすることは絶対であり、組立ラインの停止に象徴される赤ワークの中断は、時間と資源の無駄を意味する。

生産行為を長く続けさせる手段のひとつが、中断を発生させないように、中断することへの障壁を構築することだ。

産業革命期のやり方から抜け出せずに沈没した貨物船エルファロの高級船員たちは、なぜ最適なルート変更ができなかったのか。

この問いの答えが、中断を阻む障壁だ(エルファロについてはこちらの記事も参照)。

私たちの身体には、続けることが染みついている。

生産ラインで働いている人は、一単位の仕事が完了しても、作業を続行する。作業は永遠に繰り返され、区切りがつくという感覚はいつまでたっても生まれない。

区切りをつけられない構図

例をあげよう。

サービス産業で、新しいパンフレットの草案をようやく作って上司のところへ持っていくと、上司から「よし、ここを少し変えてくれ」と言われる。これも続行だ。

小売企業で、ウェブサイトの試作版を懸命に作成し、少数のモニター顧客にチェックしてもらえるようにしたとたん、上司から「で、次のアップデートはいつ?」と尋ねられる。これもまた続行だ。

あるいは、ある社員が率先して、クライアントが抱え続けている問題の画期的な解決策を探したいと申し出た。それなのに、会社の経営陣の反応は沈黙のみ。……結局、従来どおりのやり方を続行するしかない。

では、こうして続行することの何が問題なのか? なぜ区切りをつける必要があるのか? 3つの問題がある。

続行の問題① 進路変更がしにくくなる

区切りをつけないと、その工程を複数の要素に切り分けて考えられなくなる。これにはいくつかのリスクが伴う。

まず、工程を区切らないと最初に決断すれば、長く続けなければならないという意識が生まれ、責任感の過熱に陥るリスクが生まれる。

要は、進路変更の必要に迫られてもそれをしにくい組織となってしまうのだ。

ロケットの打ち上げに失敗したNASAが当初の打ち上げ日程にこだわり続けた、沈没した貨物船エルファロの船員たちが直進ルートを進み続けた、といった行為は、区切りをつけ損ねたことに端を発する過ちだ。

長く続ける行為を仕事だと思い込んでいると、最初の計画を続けようとする惰性に打ち勝たない限り、途中のどんな変更も実行可能な選択肢にならない。

途中で生じる新たな選択肢はその分のハンデを背負うことになり、最初の計画と公平な比較をされない。

それに、作業を取り巻く環境は変わるものなので、赤ワークを続行するうちに、しだいに最適な状況から乖離していく。

仕事を区切ることは改善のきっかけになる

区切りをつけなければ社内の人間が犠牲になる。区切りをつける瞬間がなければ、労う機会が生まれない。

続行の問題② 社内の人間が犠牲になる

彼らの時間は常に次の仕事に取り込まれ、彼らの一日は絶えずいつもと同じになる。

仕事に区切りがなかったら、何かを達成した、何かを学んだといった成長の感覚も生まれない。起きたことを話す機会がなければ、成功につながった行動に焦点をあてる機会も生まれない。

そのうち、働く人々から熱意は消え、仕事に対する関心が失われていく。会社を支持する言動も、しだいに消えていくだろう。

続行の問題③ よりよい活動の探索に集中できない

いまの活動から安心して離れられるようにならない限り、過去にとらわれて、よりよい活動の模索に集中できない。

米海軍で屈指の潜水艦艦長による「最強組織」の作り方

区切りをつけることは、時計を積極的に支配することなので、実行モード(赤ワーク)から脱して思考モード(青ワーク)に移りやすくなる。

時計を支配すると、仕事の工程を振り返って改善する時間を組織的に設けることが可能になる。加えて、区切りをつけると、それまで行っていた活動から心理的な距離が生まれる。

そうした距離が生まれ、活動を終えたことを労ってからのほうが、改善に向けた取り組みにスムーズに着手できる。

これからは、産業革命期に誕生した「続行」というやり方は忘れ、「区切りをつける」ことを実践してほしい。

(L デビッド マルケ : 米海軍攻撃型原子力潜水艦「サンタフェ」元艦長)

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