OpenAIが日本進出、注目集める「引き抜き社長」

OpenAIジャパン社長に就任した長崎忠雄氏

OpenAIジャパンの社長に就任した長崎忠雄氏。4月15日に開かれた会見の会場には、記者60人超、テレビカメラ10台が押し寄せた(撮影:梅谷秀司)

生成AIの寵児が日本市場に殴り込む。

4月15日、「ChatGPT」の開発会社であるOpenAIは日本法人「オープンAIジャパン」を立ち上げ、東京都内に拠点を開設したことを発表した。日本での人材採用や法人セールス、カスタマーサポートを担うほか、AI活用に向けた制度整備の議論にも積極的に参加する。今年中に10人超の体制を目指す。

主な商材となるのは、法人向けサービス「ChatGPTエンタープライズ」だ。一般向けのChatGPTは設定次第で、チャットでやり取りした内容を基盤モデルの改善に活用されてしまう。一方、ChatGPTエンタープライズは機密情報を扱う企業の需要に応え、利用者データには手をつけない。日本ではダイキン工業や楽天グループなどが導入済みだ。

アジア初の拠点に東京を選んだ理由

OpenAIは本社を構えるアメリカ・サンフランシスコを筆頭に、イギリス・ロンドン、アイルランド・ダブリンに拠点を設けてきた。東京は世界4都市目にして、アジア初の拠点となる。

ChatGPTの週間アクティブユーザーが200万人以上いる日本は、巨大市場の1つだ。また、自民党が2023年に取りまとめたAI時代の国家戦略に関する「AIホワイトペーパー」の存在や、現政権が「G7広島サミット2023」で生成AIの国際的なルール作りの議論を主導したことなど、AI研究・開発に対する政府の肯定的な姿勢も後押しとなった。

4月15日の会見に登壇したアメリカ本社のブラッド・ライトキャップCOO(最高執行責任者)は、日本市場について「ビジネスや社会への効果的なテクノロジー導入に成功してきた、非常に豊かな歴史がある」と興奮気味に語った。

生成AIの火付け役である企業の日本進出。そのニュースだけでも話題性は十分だが、テック業界関係者の大きな注目を集めたのが、日本法人のトップ人事だ。

OpenAIジャパンの代表執行役員社長に就いた長崎忠雄氏(55)は、日本におけるクラウド普及の功労者として知られる人物。1993年に米カリフォルニア州立大学ヘイワード校・理学部数学科を卒業後、西武ポリマ化成やデル、F5ネットワークスジャパンを経て、2011年にクラウドインフラで世界最大手のアマゾン ウェブ サービス(AWS)の日本法人「AWSジャパン」に移籍した。

当時はAWSが日本で本格的に活動を始めて間もない時期。東京にデータセンター群を開設したばかりの2012年2月に社長に就くと、2018年には大阪でもデータセンター群開設を実現させるなど、12年間にわたり同社を牽引してきた。

OpenAIジャパン社長に就任した長崎忠雄氏(右)と、OpenAI米国本社のブラッド・ライトキャップCOO

会見に登壇した、OpenAIジャパンの長崎忠雄社長(右)と、OpenAIアメリカ本社のブラッド・ライトキャップCOO(撮影:梅谷秀司)

AWSジャパンは2月中旬、長崎氏が3月11日付で社長を辞任すると発表していた。後任の役職に「暫定」と記載されていたことからも、唐突な人事であった様子がうかがわれ、「何だこれは、と業界がざわついた」(ビッグテック社員)。

長崎氏がOpenAIジャパンの社長に就いたのは、AWSを去った翌日の3月12日。会見で長崎氏は、移籍を決めた理由について、生成AIがクラウド同様に社会を革新する可能性にひかれたと明かした。

「テクノロジーの業界に身を置いて25年以上経つが、さまざまな日本の顧客と対話を重ねることで、新しいテクノロジーを使ってもらうノウハウを培ってきたつもりだ。私の経験を生成AIに生かすことで、より日本社会に貢献できるのではないかと思った」

複数のリーダー候補に会ったものの…

オープンAIとしても、この日本のクラウド市場における実績が、長崎氏を登用する決め手となった。さらにライトキャップCOOは、「すべてのリーダー候補に会う過程で、私が最も多くを学べた人物がタダオだった。日本のビジネスリーダーや消費者が気に掛けていることを私たちに伝えるすばらしい能力を持っている」と絶賛した。

日本市場への本気度が示されたのは人材面だけではない。同社は4月15日、基盤モデル「GPT-4」を日本語に最適化したカスタムモデルを発表。日本語の文章要約などの性能を高め、動作速度も従来モデル比で最大3倍となった。数カ月以内に広く公開されるAPIで活用すれば、顧客企業はより高性能なアプリケーションを開発できる。

「私たちが日本の皆さん、政府、企業、研究機関との長期的なパートナーとなる最初のステップだ」。会見の終盤に公開されたビデオメッセージで、サム・アルトマンCEO(最高経営責任者)はそう語った。

クラウド王からトップを引き抜き、日本の特注AIまで用意したからには、他の追随を許さぬシェア拡大が至上命令だ。

(森田 宗一郎 : 東洋経済 記者)

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