辞めさせたくない「上位2割」社員の話を聞く技術

企業で「本当に仕事ができる人間は2割だけ」という説があります(写真:Graphs/PIXTA)
「『気持ちを聞く』というのは、私たちが思っている以上にはるかに難しいこと」と語るのは、『プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術』を上梓した諸富祥彦氏。もしもあなたが上司の立場であれば、どのように部下の気持ちを聞いたらよいのでしょうか? 

本当に仕事ができる人間は2割だけ

くわしい説明やフォローがなくても仕事を完遂できる社員には、ついつい仕事を丸投げしていることがあるものです。上司の立場からしたら、仕事ができると信頼しているからこそなのかもしれません。けれども、部下からしてみたら、「この上司はねぎらいが足りない」「雑に扱われている」といった気持ちになることがあります。

よく「仕事は、仕事ができる人のところに集まってくる」と言われます。また、企業で「本当に仕事ができる人間は2割だけ」という説があります。

「残りの8割は、誰でもできる仕事をしながら、上位2割の人のおかげでメシを食っている」というのです。私は、これは真実だと思います。

大学教授の世界もそうです。意欲的にバリバリと論文や著作を発表し続ける、本当にできる大学教授は全体の2割いるかどうかです。それ以外の8割は、無難な態度で仕事をしながら、そこそこの給料をもらっているように思います(上位2割の活躍があるからこそ、大学教授の世間的なイメージやメンツが保たれているのです)。

企業は「上位2割」の人の活躍があるからこそ、会社の利益が保たれているといえるでしょう。その仕事ぶりは、物的な作業だけではありません。上位2割の人にしかできないことをやり、その人にしか考えつかないユニークなアイデアを出して、その企業を牽引しているのです。

話を聞くべき相手は「上位2割」の社員

しかし、本当に仕事ができる2割の人に依存している企業体質が続くのならば、上位2割の人は、転職や独立などして社外に出ていってしまうかもしれません。次第に「やってられない」という気持ちになるからです。

「上位2割」の人にその企業にとどまってほしいのであれば、上司はその人たちにとどまってもらえる環境を用意すべきです。

実は、上司が話を聞くべきなのは、この「上位2割の優秀な人たち」なのです。この人たちが、

「上司に話をちゃんと聞いてもらえている」

「自分がどんな気持ちで、日々の仕事に取り組んでいるかをわかってもらっている」

「自分に責任のある仕事を任されるのは、上司に信頼され、期待をかけられているからだ」

このような思いで、日々仕事に取り組むことができていれば、退職せずにすむでしょう。

企業にとっての大きな痛手は、優秀な人材が流出してしまうことです。それは、社外への転出だけにとどまりません。あまりの多忙や精神的なストレスが重なると、バーンアウト(燃え尽き)してしまうことによって、うつになって、休職や退職に追い込まれてしまうリスクもあります。

上司が部下の気持ちをていねいに聞く「1on1ミーティング」が多くの企業で浸透しつつあります。

ポイントは、部下の「気持ち」をていねいに聞くこと。話の内容だけではなく、その思いも汲み取って聞くことです。

「1on1ミーティング」は本当に浸透しているか?

もしもあなたが上司の立場であれば、「なんだそんなことか。ていねいに聞くなんてできている」「部下の話を聞けない上司なんて避けられるだけだしな」と思った人もいるかもしれません。

けれども、「気持ちを聞く」というのは、私たちが思っている以上にはるかに難しいことです。自分では聞いているつもりでも、ただ向かいあって「うんうん」とうなずいているだけで本当には聞けていないことがしばしばあります。部下のほうは「聞いてもらっていない」「わかってもらえていない」という不全感を募らせてしまいます。

ケース①
部下:「取引先の〇〇さんにモヤッとしちゃって」
上司:「なんだか最近、グチが多いね。どうしたの?」
部下:「言われたとおりの条件で企画書を出したんです。でも条件じたいに間違いがあって。なのに、しれっと作り直しだって言ってきて……」
上司:「でも、自分では確認しなかったの? そうやって人のせいにばかりしていたら成長しないよ。私だったら確認するけどね」
部下:(こころの声)「ああ、この上司にグチをこぼさなければよかった」

このように、部下の話を聞くつもりが、結局は、指導や叱責を始めてしまう上司が少なくないのです。大切なのは、聞く側の大原則を思い出して、「でも」の一言を言わないことです。

ケース①の改善例
部下:「取引先の〇〇さんにモヤッとしちゃって」
上司:「〇〇さんにイライラしているの、どうしたの?」
部下:「言われたとおりの条件で企画書を出したんです。でも条件じたいに間違いがあって。なのに、しれっと作り直しだって言ってきて……」
上司:「そうか……。それは大変だね。イライラしちゃうね」
部下:(こころの声)「ああ、わかってもらえた!」

上司と部下が「1on1」(1対1)で話す機会があったところで、上司にマインドがなければ単なる説教タイムになりがちです。

しかし、「心持ちを変えたい」と思っても、そうやすやすと変われるものではありません。上司は何も最初から「マインド」を持つ必要はないのです。まずは「形」から入ってください。

次の「4つのテクニック」を形だけ行うことからスタートしましょう。

①説教したいのをグッと飲み込む
②「あなたはどうしたいのかな」とたずねる
③1分間、「なるほど」「うん、うん……」とうなずきながら黙って聞く。それ以外は言わない
④最後に「あなたなら、きっとできると思う」と信頼と期待を伝える

部下と理解しあうよりも重要なこと!

1日に1回、この4つを繰り返すだけで、部下と上司の関係は必ず改善していきます。

極論をいえば、部下の気持ちが本当にわかったかどうかは、どうでもいいのです。企業の文化が本当に変わるために必要なのは、信頼と期待です。「本当に理解しあう関係」を求めてしまうのは「求めすぎ」。すると、どんな上司と部下もうまくいかなくなります。

あるいは、どんな夫婦でも親子でもそうです。人は話せば話すほど、お互いに「わかりあえない」ことがわかるからです。

実は、理解しあうよりも重要なのは、「相手のことがよくわからなくても、信頼し、期待すること」です。「あなたなら、きっとできると思うよ」と伝えることです。

相手に説教したくなっても、グッと我慢し、「あなたはどうしたいの?」と聞きます。

1分間は黙ってうなずきながら聞き続けます。そのうえで、「そうか、わかった」「あなたなら、きっとできると思う」と信頼と期待のメッセージを伝えましょう。

この繰り返しが、上司と部下でも、夫婦でも、親子でも、一番大事なことなのです。

まずは、先の「4つのテクニック」を試してみましょう。形から入り、継続していければ、マインドはあとからついてくるものです。

次に、「4つのテクニック」を使った会話例を紹介しましょう。

「上位2割」が燃え尽きてしまう前に

ケース②
上司:「〇〇さん、あの資料、できた? もう提出期限が過ぎてるんだよね」
部下:「すみません。まだなんです」
上司:「どうして出せないの? みんな出してるよ」
部下:「私って自分が納得しないと提出したくない人なんです。だって、納得できないものを出したって意味がないじゃないですか」
上司:「でも、それってわがままじゃない? ほかの人はみんな提出期限を守ってるんだからさぁ」
ケース②の改善例

上司:「〇〇さん、あの資料、できた? もう提出期限が過ぎてるんだよね」
部下:「すみません。まだなんです」
上司:「まだなのか……それで、〇〇さんは、どうしたいの?」
部下:「あの、自分が納得した段階で提出したいなと思っていまして……あと2時間いただけませんか?」
上司:「そうか、わかった。延期した分、いいものができると期待しているよ。〇〇さんならできると思うよ」

「上位2割」が燃え尽きてしまう会社には、将来も成長もありません。そうならないために、上司の立場にいる人ができること。それは、上位2割の社員の話を聞き、気持ちを受け止めること。その上で、信頼と期待の言葉かけをすることです。

プロカウンセラーの こころの声を聞く技術 聞いてもらう技術 (SB新書)

(諸富 祥彦 : 心理カウンセラー)

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