社員の辞めそうな"兆候"を察知する「1on1のコツ」

上司と部下

会社の成長にとって上司と部下の信頼関係は重要です(写真:zon/PIXTA)
現在の企業に求められるものは、どんなことでもすぐに言い合える関係性です。上司と部下の1on1ミーティングは、本来、この信頼関係を構築する上でたいへん有効かつ重要なものですが、うまく実施できていない企業も多いのではないでしょうか。
“Weekly1on1”を重視し、徹底して実践している株式会社PHONE APPLIの著作『最強の組織は幸せな社員がつくる~ウェルビーイングのすすめ』から、1on1の「なぜ」と「どのように」に対する答えを導くヒントを紹介します。

心理的安全性を高めるための場

私たちが実際に行っているWeekly1on1についてお話しします。

多くの企業で行われている1on1は、人事部発の定期的なものです。3カ月に1回、半年に1回、あるいは人事考課のタイミングなどで、上司と部下との面談をする。それが評価につながっていきます。

私たちは、1on1とは心理的安全性をできる限り高めるための場だと考えています。端的にいえば、何かあったときに上司と部下がすぐに報告できる間柄を、構造的につくる狙いです。

では、どのように行えばいいのか。

私たちは、1on1を「上司と部下の双方がお互いに興味を持ち、お互いの話を傾聴しながら信頼感を高めるための時間」と定義しています。上司と部下が自己開示し合って、上司がしっかり聞く態度を示す。その繰り返しによって信頼関係が構築されていきます。

信頼した人からの評価は、納得度が高まります。悪い評価の場合、相手が信頼できる人でなければ、部下は納得できません。働きがいなんて感じられないくらいに腹が立つこともあるでしょう。

上司が信頼を得ていると、評価やアドバイスに対する納得度が高まります。良い評価の場合も悪い評価の場合も、「もっと頑張ろう」と思えるようになります。

週1・30分の「部下のための時間」

1on1の話題は「何でもOK」です。趣味の話、好きな映画、おすすめの家電、家族のこと。自分のキャリアについて話す人もいます。

「これくらいの年収がもらえるようになりたいんです」といった話になれば、上司が一緒に他社のジョブディスクリプションを見ながら「その金額なら、このスキルが必要だけど、現状ではどうかな」「うちの会社でマネージャーになったほうがいいかもね」といったことまで話します。もちろん、仕事のトラブルや進捗について話すこともあります。

ただし、話題はすべて部下が選びます。部下が望めば業務上の指示やアドバイスをしてもいいですが、そうでない限りはNGです。仕事の意思疎通に必要なコミュニケーションは、別の時間で確保します。

その時間を使って、「どこに旅行に行くのが楽しいか」といったプライベートの話から、仕事上のトラブルやキャリアの話など何でも話すことができます。コミュニケーションの頻度と質を高めることで、効果は高まります。たまに「面談をしてください」と言われて行う1on1とは違います。

部下から見ると、上司はいつも忙しそうです。「ちょっとすみません、この件を教えてください」とは言いづらい。そのため、トイレに行くときに話しかけたり、会議室に移動するところを狙ったり、なんとかタイミングを見て話しかけようとします。

それに、上司のスケジュールを見ると、予定がぎっしり詰まっています。部下が見ても、それぞれの予定について、どれだけ重要なのか、自分が話そうとしていること以上に優先されることなのかといったプライオリティがわかりません。

だから邪魔をしないように空いている時間を狙いますが、実際には、上司の予定より部下からの報告のほうが大事だというケースはたくさんあります。

このように、部下が上司の様子をうかがいながらコミュニケーションしているケースが多いと思います。このことがリスクにもなり得るわけです。

何かトラブルが起きたとき、その実証と解決策をセットで報告しないと怒られるような会社もあります。しかし、解決策なんてすぐには考えられません。「どう報告しよう……」と考えている間に、事態はどんどん悪化していって、より悪影響を及ぼすようになってしまうこともあります。

部下が上司に知らせることなく自己解決していたとしても、上司に知らせて対話していたら、より良い解決方法が生まれていたかもしれません。

自分で考えることは重要ですが、やはり情報のキャッチボールが必要です。わからないことをすぐに「わからない」と聞ける関係性のほうが、個人としてもチームとしても健全です。

何かあったらすぐに報告できる間柄をつくるには、お互いの関係性が良くなければいけません。ただ、大人に「仲良くしなさい」といっても仕方ありません。何でも言える間柄を構造的につくる必要があります。

そのためには、コミュニケーションの質と頻度が重要です。

質とは部下が話したいことを話せるようになること。そのため上司は話し過ぎないように、発話量を30%以内にします。頻度は1週間に1回30分のコミュニケーションを繰り返すことで、普段から話しかけやすい関係性をつくることができます。

そうすることで、気付いたことをすぐに報告できたり、不安や心配に思っていることを気軽に話せたりするようになる。その結果、部下の成長に寄与できる時間になっていきます。

1on1で退職や失注のリスクを回避

上司と部下の関係性が構築されることについて、経営的なメリットとしてリスクの予測や回避ができるようになります。

一番のリスクは社員の急な退職です。退職する社員はたいてい、突然「申し上げづらいのですが……」と切り出します。突然空いたポジションに人を入れて、育てていくのは大変です。

それが、1on1をしていると、普段からなんとなくサインを送ってくれます。「ちょっと他の会社が気になっています」「僕は本当はこういうことをやりたいんです」といった話題が出てくる。そこで相談に乗れば、辞めるという決心をしないかもしれません。辞めるとしても、早めに手を打つことができます。

それに、急な失注やトラブルにも、予兆があります。「お客様の顔が曇っていた」「電話が通じづらくなった」「会ってもらえなくなった」。はっきりと問題になっていなくても、小さなことが積み重なって、担当者は不安を覚えるようになります。

そうした予兆は、得てして感覚的なものです。しかし会議の場ではロジカルなことでなければ発言しづらい。「すみません、あのお客様の顔が曇っていたので、失注するかもしれません」と言えば、上司に「お前、何言ってんだ。もっと論理的に説明しろ」と言われてしまいます。

リスク予測でトラブル前に対応

それが1on1の場合には、極端な話「失注する夢を見ました」と言ってもいいわけです。そうすれば上司は、「何か心配事でもあるの?」「不安を感じているからそういう夢を見るんじゃない?」と聞いてくれます。

最強の組織は幸せな社員がつくる──ウェルビーイング経営のすすめ

そこから、「実は最近お客様が会ってくれないんですよね」と言えば、「じゃあ一緒に面談に行ってあげようか」「私から連絡しておくね」と、手を差し伸べることができます。

このように、リスクの予測ができることで、トラブルの前に対応できます。私たちが1on1を始めたとき、マネージャーの中には「時間がかかって大変です」と言う人もいましたが、リスク回避ができることを実感するようになってからは、そうした発言もなくなりました。

1on1の時間よりも、トラブルのリカバリー時間やコストのほうが膨大です。事前に対応できることで、お客様にも、従業員にも、会社にも、与える影響を極小化できるのです。

(石原 洋介 : 株式会社PHONE APPLI 代表取締役社長)

ジャンルで探す