ダイソー、「120円ショップ」にはならない深い戦略

100円ショップ最大手「ダイソー」のPB比率は9割で、残りは食品が占める。バイイングパワーは圧倒的だ(写真:大創産業)
100円ショップ最大手の大創産業が、高価格帯業態「Standard Products(スタンダードプロダクツ)」の出店を進めている。価格帯は300円が中心で、100~1000円の生活雑貨を扱う新業態だ。円安で100均チェーンが苦戦を強いられる中、高価格帯業態は救世主となるのか。大創産業の矢野靖二社長に、業態ごとの舵取りについて聞いた。

ダイソーに並ぶ、もう1つの基軸がほしかった

――高単価業態「スタンダードプロダクツ」の出店を増やしています。100円ショップ「ダイソー」との違いを、どのように意識していますか?

スタンダードプロダクツのコンセプトは「ちょっといいのが、ずっといい」。2020年から準備を始めて、2021年に渋谷に1号店をオープンした。海外展開を見据えてダイソーともう1つの基軸がほしくて、違う表現にしたかった。プロダクトデザイナーの監修で世界観を作り上げ、都心部を中心に出店を増やしていく。

金属加工産業で有名な新潟県燕市のカトラリー(写真:大創産業)

地域産品の中には価格が高いなどの問題で、商品のよさを訴えきれずに眠っているものがある。例えば、布巾を手に取りやすい価格で扱えば、知名度を上げることができる。こうしたコンセプトを理解してもらえる方に商品供給をしてもらっている。

仕入れ先はダイソーと一緒のところもあれば、違うところもある。社内デザイナーだけでなく、外部デザイナーにも依頼している。

スタンダードプロダクツは2月末に100店体制となる。これから積極的に出店を進めて、国内500店体制を目指している。海外はシンガポールと台湾に出店し、来期中にはオーストラリアも考えている。

――スタンダードプロダクツの中心価格帯は300円です。ダイソーと比べて、価値の違いはどのくらいあるのでしょうか?

地域産品を多く扱い、ダイソーとは違う世界観を打ち出している(写真:大創産業)

とても難しい。全社売上高の95%がダイソーだから、同じ300円商品で比べてもバイイングパワーが違いすぎる。ダイソーが強すぎて、バイヤーは苦しんでいる。

価値はお客さんが判断することだが、必ず消費者目線で見るようにしている。今はまだ生みの苦しみの段階だ。

――円安が続いています。100円商品だけをそろえるのは厳しいですか?

スタンダードプロダクツについては、2020年から準備をしてきたので円安を意識したブランドではない。たまたまタイミングが重なっただけだ。

ダイソーについては、100円でスリッパは扱えなくなった。(調理器具などの)品質にも限界がきている。お客様のニーズに応えきれないものもあるので、そうした品物は見直している。

日本では100円から逃げることはない

――アメリカでは「1ドルショップ」に限界が来て、価格帯が柔軟になっています。日本でも値上げは考えませんか?

ダイソーのアメリカ事業では地域によって1.75ドルや1.99ドルに見直している。アメリカでは価格を変えても(売り上げに)影響はなく、ブラジルでも物価変動に合わせて値上げしている。

でも日本では100円から逃げることはない。仕様変更と価格帯を広げる値上げにとどめて、120円ショップになることはない。100円商品の比率が、従来の85%から65%になることはあるかもしれないが。クリティカルラインを守りながら、100円以外の商品については市場の半額以下を基準にそろえている。

――仕様変更で消えていく商品の棚を埋めるのも大変そうです。商品構成で変化は出てきていますか。

消えた商品はたくさんあるが、SKU(商品種類)が7万6000あるから気づかない。バイヤーは約40人。最近は釣りやキャンプ、推し活グッズなどを増やしている。

商品を出すか出さないかの最終決定は現場に任せているが、すぐに既存店売上高に反応するので怖い。バイヤーは努力しながら、いつも勝負している。

100円で売れないものは、半額に値引きしても売れない。私は昔、スーパーでバイヤーをしていた。大創産業に入社した当初は前職の感覚で余った在庫を値引きさせていたが全然ダメだった。ただのゴミ溜めになってしまう。

――国内は、どのくらいの出店余地がありますか? 既存店と競合しないでしょうか。

現在の4360店(うちダイソーは3813店)から、2026年までに5500店まで増やしていく。首都圏や食品スーパー内の出店を考えている。都心部の損益分岐点はかなり高いが、80坪くらいの店を青物横丁(品川区)や人形町(中央区)など(立地を)見極めて出店している。300坪あれば、ダイソーとスタンダードプロダクツのセットで出店できる。

足元の既存店はプラスで推移している。背景には、インバウンドや節約志向といった追い風がある。とはいえ円安対応の値上げが遅れて粗利が下がっているので、今まさに1ドル150円想定で商品の量目変更や価格帯の見直しを進めている。物流費も含め、全体のコストや生産性を徹底的に見直しているところだ。

――2030年までに売上高1兆円目標を掲げています。

アメリカでの成長次第だ。現在の海外売上高比率は7%で、これを30%くらいに広げたい。約315億円を投じて、マレーシアに大型の物流センターを建設中だ。国内も大型物流センターを増やしており、8拠点では足りず昨年7月に神奈川県平塚市に新設した。アメリカの出店が落ち着いてきたら、ヨーロッパへの展開も考えたい。

100円の価値は上がっている

――矢野社長から見て、この30年で100円の価値は変わりましたか?

19歳から家業を手伝ってきた。30年前と比べて変わらないものもあるが、品ぞろえを含めてよくなっている。つまり100円で提供できるものの価値は、30年間で上がっている。

バイイングパワーが大きくなったうえ、2018年に品質管理部を作った成果でもある。少なくとも昔の100均には、品質管理という概念がなかった。

だが海外進出もしているし、かつてマニキュアから(発がん性物質の)ホルムアルデヒドが検出される問題も起きた(2015年に販売中止し商品回収)。雪印乳業の賞味期限偽装事件があった当時、私はスーパーで担当バイヤーをしており会社が潰れるところを見てきた。そうした経験もあって品質管理部を立ち上げ、仕入れ先と共有するようになった。

――定番品を中心にSPA(製造小売り)化は検討していますか?

自社工場がタイとベトナムにあるが、仕入れ額は100億円程度と全体に占める割合はごくわずかだ。取引先が困るため明言は難しいが、将来的に定番品に関しては(SPAへ)持っていこうかなと思っている。今は店舗が増えてキャパオーバーにならないよう、物流の対応を進めていきたい。

【矢野靖二社長のプロフィール】やの・せいじ/1971年広島県生まれ、1995年吉備国際大学社会学部卒業後、イズミ入社。2015年大創産業入社。取締役、副社長を経て2018年3月より現職。

(前田 佳子 : 東洋経済 記者)

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