「ガストに行けない」低賃金にあえぐ介護職の実態

介護職として働く高橋美幸さん(仮名)

子育て中で「カツカツ生活」の実情を吐露する高橋美幸さん(仮名)(写真:筆者撮影)
今は当たり前のように使える介護サービスだが、職員不足に歯止めがかからず、これまでにないレベルの崩壊が起きている。
『週刊東洋経済』2月17日号の第1特集は「介護 異次元崩壊」だ。「自宅で最期まで」――。10年後は、そんな希望はかなわないかもしれない。

週刊東洋経済 2024年2/17号(介護 異次元崩壊)[雑誌]

「カツカツの生活でガストなんて高くて行けません」

子育て中の高橋美幸さん(仮名、42)が、ため息をつく。夫婦ともに東京都内で介護職として働くが、家計はギリギリ。たまの外食の楽しみにも制限がかかる。

特別養護老人ホームで働いていた美幸さんは、同僚と職場結婚。産後は子どもを保育園に預け、近くの実家も頼りながら夫婦で夜勤をこなした。

ただ、それも限界となり、3人目の出産を機に夜勤のない介護施設を探した。ただ、どこも「正職員で夜勤なしでは雇えない」「子育て中だからと夜勤免除はできない」と門前払い。パートの訪問介護職に転じた。

「サイゼリヤは神です」

それから10年。1350円だった時給は上がらず、「辞める」と上司に直談判してやっと1400円になった。小学生の息子が不登校になった今、美幸さんは週3日だけ働く。

月収は8万円。夫は20年も勤める職場で管理職になったが、月の手取りは約28万円。貯金しようにも、最低限の生活費で収入は消えていく。中学生の息子2人は食べ盛りのため外食の出費は痛い。

「でも、ちょっと外食したいねというとき、月に1回くらい両親におねだりするんです。孫に会えるからと、ガストで食事をごちそうしてくれます」(美幸さん)。

家計が苦しい中でも時折、美幸さんは思春期を迎える子どもを1人ずつ連れて2人きりで出かけ、特別な時間をつくるようにしている。

行く先はチェーン店のカフェやラーメン店。スターバックスは高いからドトールに行く。ケーキは高いから、クッキーを頼む。

ラーメン店では、子どもがラーメンだけでは足りないことを見越して、美幸さんはチャーハンを頼み「ママのを半分あげるね」と分けてあげる。「サイゼリヤは神です。何といっても安い」(同)。

美幸さん夫婦の世帯年収は約500万円。日本の1人当たりの平均年収458万円とそう変わらない。学資保険で子ども1人当たり200万円の学費を準備しているが、私立の高校や大学に行くとなれば賄えなくなる見込みだ。

「ほかの家の子が当たり前のように通う塾や習い事はぜいたくで、とても行かせられない」(同)

8人に1人がマタハラ被害

全国労働組合総連合(全労連)による「介護労働実態調査」(2019年)では、介護職の女性の8人に1人がマタニティーハラスメント被害を訴え、妊産婦が免除されるはずの夜勤や当直で4割が免除されなかった。

結果、美幸さんのように正職員では働けなくなり家計が逼迫するケースが後を絶たない。

子育てのため非正規雇用になった小池理恵さん(仮名、41)も、「もともと家計が厳しいのに、物価高でさらに大変です」と日々、節約に余念がない。

理恵さんは関東地方の介護施設で妊娠中や育休明けに夜勤が免除されず心身を壊し、数年前から訪問介護などでパート勤務するようになった。

今はグループホームの夜勤だけ週に1回程度、1回1万5000円で行う。月収は約8万円。病院勤務の看護師の夫の給与は手取り24万〜26万円で、2人の収入では赤字寸前だ。

家族は皆ラーメンが好きだが、物価が上がってからは外食を控えてインスタントラーメンを買って家で作る。

「サッポロ一番 みそラーメン」や「マルちゃん正麺」は1袋5食入りで500円前後するため、地元スーパーで最も安い1袋5食入りで169円のものを買う。

カゴメのケチャップやキユーピーのマヨネーズは買わず、プライベートブランドなどの安いものでいい。カップラーメンは税込み88円の特売日に買い込む。

「子どもにひもじい思いはさせたくない。安いものでもたくさん食べられるようにしています」

子どもの服は、親戚からのお下がりをフル活用。新品を買うときはしまむらに行く。

小さい頃は西松屋の399円のTシャツを重宝した。トレーナーは1着1000円以内で。セールで半額になると大きめのサイズの服を買いだめして、来年に備える。イオンの服売り場やユニクロでは高くて買えない。

「子どもが成長すれば、ランドセル代や制服代など何かとお金がかかります。夜勤をこなしても最大で月20万円程度。それではつらい」(理恵さん)。

「結婚できるのかわからない」

結婚にも影響が出る。

茨城県在住の佐藤祐介さん(仮名、37)は「介護職は結婚が難しい。女性が年収の高い相手を求めたら、どうしようもない」と、苦笑いする。

20代の頃に大手の結婚相談所に入会したが、パーティーの参加費やセミナーの受講費用に都度3000〜5000円かかる負担が重く、1年ほどで退会した。当時、勤めていた特養やグループホームの給与は手取りで月15万〜17万円。目の前の生活で精いっぱいだった。

現在、サービス付き高齢者向け住宅で働く祐介さんの年収は300万円に届かない。

それでも月の手取りが22万円を超えて、「やっと貯金できるようになり、心に余裕ができました」と言う。アパートの家賃5万円と光熱費や食費などの生活費を支出しても、手元に1万〜2万円残るようになった。

結婚相談所を退会した佐藤祐介さん(仮名、上)と、佐藤さんの給与明細書(下)(写真:筆者撮影)

スキルアップのため介護福祉士と社会福祉士の資格を取ったが、給与に反映された資格手当は月に1万5000円程度。昇進したとしても月給30万円が最高水準で、将来の見通しが立たない。

元は一般企業の営業職で初任給は手取り20万円だったことから、「介護職はいくら経験を積んでも、企業でいう初任給水準がずっと続く」と悟った。「独身のまま高齢になって、孤独死するのが怖いです」と不安を抱く。

月収は平均より6万円低い

日本医療労働組合連合会の寺田雄・中央執行委員は「介護職で働く人は低賃金で生活が成り立たず、将来不安を抱く人が多い。せめて全産業平均まで介護職の賃金を引き上げる必要がある」と指摘する。

そして、冒頭の美幸さんは「介護職は子どもを産み育てるなと言われているようなものです」と憤る。改めて、介護職の処遇とその生活に目を向ける必要がある。

(小林 美希 : ジャーナリスト)

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