子供の話を聞かなかった親に訪れた予想外の悪夢
優しくしてくれた人が、悪い人だった
小川:『犯罪心理学者は見た危ない子育て』は、親の養育態度を「過保護型」「甘やかし型」「高圧型」「無関心型」の4つに分け、それぞれに偏った場合の危険性について非行少年の事例を挙げながら解説されていました。
事例は極端ではありますが、まったく遠い話でもありません。「すぐ隣にある話」です。私自身は、さすがに「無関心型」ではないだろうと思っていましたが、けっこうヒヤリとする部分もありました。事例のアヤノの両親は仕事熱心で、アヤノには表面的には優しい言葉をかけているし、何不自由ない暮らしをさせているんですよね。
出口:そうなんです。暴力をふるうわけでも、否定的な態度をとるわけでもない。食事をあたえ、快適な家があり、おこづかいもあげているんだから親としての役目は果たしているでしょ、というのがアヤノの親でした。仕事が忙しく、子どもの話をちゃんと聞けていないと思う親御さんはヒヤリとするかもしれませんが、決定的に違うのは「忙しいから、あとで聞く」のではなくて「ずっと聞かない」のです。子どもに関心がないからです。
小川:事例のアヤノは愛情飢餓状態だったので、半グレメンバーのリントに優しくされて夢中になってしまいました。そして、犯罪に手を染めることに……。自分を認めてくれる人がいた、救ってくれる人があらわれた、と思ったら、実はお金目的で利用されていたという話は切なかったです。
出口:偏った「無関心型」の保護者のもとで育った子は愛情飢餓状態になりやすく、ごく普通の優しさにも過剰に反応して強く惹かれてしまうことがあります。しかも、コミュニケーションに問題を抱えていることが多いですから、孤独です。そういった子はプロ犯罪者からしたら「ちょろい相手」なんです。救ってくれたと思った相手に、犯罪の手先として使われているなんて本当に悲しいことですよね。
小川:ところで「半グレ」とは、どういう集団なのでしょうか?
出口:ゆるやかなネットワークを組んで、犯罪を行う新興の集団です。暴力団は組織ありきですが、半グレは個人の集まりであるのが特徴。個人の目的のために組織をうまく使いながら犯罪を行います。
近年、暴力団構成員は減少している一方で、半グレメンバーは増えています。暴力団と違って構成員が明確になってはいないのですが、増えているのは確実です。お互いに名前も知らないままグループになって窃盗をしたり、特殊詐欺をしたりといった例がよくあります。
「うちの子、悪い仲間とつるんでいるかも」と心配なときはどうする?
小川:出口先生は、暴力団の離脱指導もされていたそうですね。そんな出口先生にお聞きしたいのですが、非行集団とまではいかないまでも我が子が悪いグループに入っているのでは?と思ったとき、どうすればいいのでしょうか。
いまの時代、いかにもなファッションで集団でたむろしているなんていうことはなく、「悪いグループ」と言ってもわかりにくいのだと思いますが、急に子どもの言葉が悪くなり、どうやら付き合う仲間が変わったようだと心配になる親御さんの声はよく聞きます。
出口:全国の少年鑑別所には、一般の方からの相談を受ける「法務少年支援センター」が併設されています。ここでの相談の多くがそれです。親御さんや、学校の先生が「悪い仲間といるようだが、どうしたらいいか」と相談に来られます。やはり、急に付き合う仲間が変わって、そのメンバーを見ると非行スレスレだったり、補導されていたりすると。
そのときに必ずお聞きするのは「お子さんは、その仲間に何を求めているのだと思われますか?」ということです。付き合う仲間が変わったのなら、今までのグループにはなく、現在のグループにあるものは何でしょうか。なぜ、そのグループと一緒にいたいのでしょうか。
小川:やみくもに「悪いグループだから、付き合うのをやめなさい」と言ってもムダだと本にも書かれていましたね。
否定せず、一緒にいたい理由を聞く
出口:そうなんです。本人も、仲間が悪いことをやっているのくらいわかっています。それでも一緒にいたいわけでしょう? 必ず何か理由があるんですよ。それをわからずに、「じゃあ、こうしてください」と言うことはできません。
暴力団と半グレも、外からは似たように見えるかもしれませんが全然違う集団で、構成員が求めるものは違います。一口に「不良仲間」と言っても、集団のカラーはそれぞれでしょうし、そこに求めるものは人それぞれです。「守ってくれる誰か」や権威性を求める人もいれば、特別な絆や信頼関係を求める人、スリルを求める人など本当にさまざまです。
小川:本人の話を聞いて、まずは理解することが大事。
出口:それがすべてです。暴力団の離脱指導でやっていたこともそうです。何十回も面接をして、話を聞きます。すると、離脱する人も出てきます。「こういうものを求めていたけれど、別の場所でも叶えられることかもしれない。このまま続けていたら失うもののほうが大きい」と客観的に考え、判断できるようになるんです。
無理に抜けさせようとしても、あっという間に戻りますよ。むしろ、もっとのめり込むでしょう。
小川:なるほど。こちらが否定的な態度だとなかなか話してくれないでしょうけど、「そのグループって、どういうところがいいの?」とフラットに聞いていけばいいのかもしれないですね。
出口:そうです。否定せずに、そのグループがいいと思っている理由を聞いていけばいいんです。
話をして本当に理解してくれたと思ったら、その集団に所属する必要がなくなることがほとんどです。時間はかかることがありますが、子どもは案外スムーズにいきますよ。大人の場合は、生活がかかっていたりするのでそこまで単純ではないのですが。
「いじめ加害グループ」から抜けさせたい場合
小川:関連してお聞きしたいのが、我が子がいじめ加害グループに入っているケースについてです。知人から聞いた悩みで、こういうものがありました。小学校高学年の娘が、クラスの中で、ある女の子を無視するグループに入っていると。理由はよくわからず、ただ「ウザいから」「キモいから」と言って仲間外れにしているんです。お母さんは、それは絶対によくないことだからやめなさい、そんなグループは抜けなさいと言ったそうです。でも、娘さんは「そんなことをしたら、今度は私がターゲットにされる。できない」と言います。当然、いじめは悪いことですし、やめさせたいけれど難しいという悩みです。
出口:いじめの場合、その枠組みに入ってしまうと抜けるのは大変です。実際、加害グループから抜けようとして今度は自分が被害に遭うこともよくありますからね。悪いスパイラルができて、どうにもならなくなります。
当人や親だけで何とかしようと思わないことです。外部の相談機関を頼ってください。
日本人はとくに、こういった問題を自罰的にとらえやすく、相談することをためらいがちです。「自分の努力が足りないのではないか」「親が悪いと思われるのではないか」と考え、自分たちで何とかしようと頑張ってしまうんです。でも、そんなふうに考える必要はありません。事件が起きてからでは遅いですから、早めに相談することをおすすめします。
小川:今の例で言えば、親子でいじめ加害グループについての悩みについて話し合えたのはいいことだけれども、実際の解決に向けては第三者を頼ったほうがいいわけですね。
出口:その通りです。まずは学校に相談でいいと思いますが、学校の対応がうまくいかなければ外部の相談機関です。必要以上に思い悩んだり苦労したりせずに、割り切ってやったほうがいいです。子どもを守るためですから。
小川:メールやチャットなど気軽に相談できるところもありますし、上手に活用していきたいですね。
https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_k06-1.html
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/06112210.htm
(小川 晶子 : ブックライター、絵本講師)
(出口 保行 : 犯罪心理学者)
09/19 16:00
東洋経済オンライン