平均年収は500万円「日本の60代」意外なリアル
人生100年時代と言われる今、60代ははたして「現役」なのか「隠居」世代なのか。60代を対象としたアンケート「60代6000人の声」を実施する著者が、アンケートから見えてきた60代のお金、幸せ、キャリア……などリアルな姿を紹介するとともに、どの世代でも今からできる人生後半を「豊か」に過ごすヒントを教示します。連載第1回はアンケートで浮かび上がった今の60代の意外な姿を紹介します。
64歳を過ぎると「現役層」は半数に
64歳の私は、一般的な60代とどこが違うんだろうか……。漠然と60代とは?と考えるよりは、その平均像と自分を比べながら考えることのほうが大切ではないでしょうか。60代の読者なら「今の自分とはどこが違うか」、50代の読者なら「60代になった時、自分のなりたい姿とどう違うのか」を知ることが重要です。
私が代表を務める合同会社フィンウェル研究所は、毎年、60代の都市生活者を対象にしたアンケート調査「60代6000人の声」を行っています。「都市生活者」というのは、人口30万人以上の都道府県庁所在地に居住している人。あえて都市生活者にこだわるのは、農村で生活する60代と、都市で生活する60代では生活に必要な費用や資産はおのずとかなり違うと考えているからです。
かつて子どもにこう言われたことがあります。当時、私の父は定年退職後に新車を買って乗っていましたが、子どもがそれに対し「お父さんは中古なのに、仕事をしていないおじいちゃんはどうして新車が買えるの?」と。岐阜県の山間部で生活している両親にとっては、年金だけで十分な生活ができる環境だったわけです。
まず60代は仕事をしているのかどうかを見てみましょう。今年実施したアンケートの回答者6503人を年齢別に働いている人(会社員、あるいは自営業)の分布をみると、そうした現役層が過半数を占めているのは60〜63歳までで、64歳になると現役層は46.1%に低下します。
これは年金を受け取る人が68.1%と一気に増えるからだろうと思います。現在、年金受給開始年齢は65歳に引き上げられる途中で、その移行措置として、ちょうど今年は64歳の男性が特別支給の老齢厚生年金を受取ることから、64歳にこうした分岐点があるようです。
私は今年、特別支給の老齢厚生年金を受け取ることになりますが、65歳からの年金は繰り下げてまだ受け取らないつもりです。その代わりに仕事はこれからも続けていこうと思っています。
500万円を超える年収と、意外と高い
60代の平均世帯年収は552.9万円と思った以上に高いという印象を持ちました。もちろん最多年収帯は201万〜400万円(全体の26.6%)で、平均より低くなっています。高額年収の人に平均値が引っ張り上げられているようです。それでも中央値が400万円を少し上回るところなので、60代の都市生活者の年収は十分に高いといえるでしょう。
ちなみに、60代でも現役で会社勤めをしている人は、世帯年収の平均値が769万円でかなり稼いでいます。一方で、公的年金を受け取っている人は相対的に年収が低くなっていますが、それでも487万円弱です。
世帯年収ですから、年金を受け取りながら夫婦でアルバイトなどの収入がそれぞれに100万円程度あれば、400万円を超えることは十分に考えられますから、不思議ではないのかもしれません。
一方で、世帯の年間生活費平均は358.3万円です。特徴としては、その分布が201〜400万円層に集中していることです。42.7%がその層に入っていますから、収入と比べると平均像が収斂している感じです。セグメントごとに平均値を計算しても、現役会社員だけ100万円ほど多いものの、あとはこのレンジにほとんど入っています。
収入に比べて支出のばらつきが小さいことから、60代は収入が多い人でも支出は抑制気味にしていることが窺えます。余裕のある生活をしているとみることもできますが、将来の支出増を気にして使い方をコントロールしているとみることもできます。
ただアンケート調査ですから、回答者が、この生活費のなかに税金や社会保険料などを含めていない可能性もあります。ちなみに総務省が発表している家計調査(2021年)における2人以上世帯のうち65歳以上の無職世帯では、消費支出の15.6%に相当する金額が、こうした税金や社会保険料といった非消費支出になっています。もしこのアンケート調査でもすべての回答者が非消費支出を含めていなかったとすると、それらを加えると410万円強が実際の支出だと計算できます。
それでも平均年収の75%くらいですから支出を抑えているといえますが、世帯年収が平均よりも低い層の人にとっては、他の資金が必要になることは明らかです。一般に60代に年収を聞くと、働いて得る勤労収入と公的年金の収入を想定します。しかし、それでも足りない場合には、保有する資産を取り崩して収入とする資産収入を加えて、退職後の生活費は賄われます。
世帯保有資産では大きな格差がある
そこで世帯保有資産が重要になります。60代の世帯保有資産の平均値は2291万円強ですが、バラつきの大きさが目につきます。グラフに示したとおり、世帯保有資産の塊は大きく2つに分かれています。1つ目の塊は資産の少ない層です。最も人数の多いセグメントは、全体の23.3%に達する資産0円世帯です。
資産を保有できていない世帯が2割以上を占めるというのはちょっと驚きですが、金融広報中央委員会による「家計の金融行動に関する世論調査」(2022年)でも60代の2人以上世帯で20.8%が金融資産を保有していないと回答していますから、「60代6000人の声」の回答者が特殊な集団ではありません。しかしそれにしても恐ろしい気がします。
1つ目の塊のもう一方は1万円から500万円以下の層です。この層で全体の19.5%を占めています。0円世帯と合わせて考えると、保有資産の少ない層は42.8%と、相当な規模になります。
もう1つの塊は、全体の17.5%を占めている2001万〜5000万円の層です。大手企業を退職して退職金を受け取っている人であれば2000万円を超える資産を保有していても不思議ではありませんから、この層が突出していることも理解できます。
結果として、平均値は2291万円強となっていますが、中央値は500万円を少し超えたところにあると推計できますから、60代の保有資産を考えるときには、ばらつきの大きさに十分注意する必要があります。
60代、ただものではない!
収入、支出、資産の数値を見てきました。かなりのばらつきがあるとはいえ、平均像は収入550万円、支出は410万円、資産は2300万円。この数字をみると、60代は決して「隠居暮らし」ではありません。
もちろんこれから長い退職後の人生を送るために力を蓄えておく必要はありますが、それにしても収入は30台後半並み(家計調査・収支編で2022年、35〜39歳の勤労世帯の世帯主収入は46.5万円/月)で、資産はその3倍(家計調査・貯蓄負債編で2021年、30代勤労世帯の貯蓄額772万円)というわけですから、今時の60代は「老後」という言葉にはとても似つかわしくない生活をしているように思えます。やはり“只者ではない”のが60代ではないでしょうか。さて、皆さんはいかがですか?
(野尻 哲史 : 合同会社フィンウェル研究所 代表)
07/03 05:00
東洋経済オンライン