上京者が驚く「JRの高密度」・東京ご当地鉄道事情

中央特快

中央線快速のエース「中央特快」。都心と八王子方面を結ぶ(撮影:鼠入昌史)

進学や就職などで、地方から東京に出てきた人が驚くことのひとつが、「電車」だという。次から次へと、ひっきりなしにとてつもなく長い電車がやってきて、そのどれもが満員電車。いったいどこから人が湧いてくるのかと、確かに思う。

地方で暮らしている人の話を聞くと、鉄道を使うのはせいぜい学校に通うときくらい。高校が自転車通学の範囲にあると、乗る機会すらほとんどない。だから、きっぷひとつ買うのにもドキドキするようなこともあるのだとか。

そうしたところから東京にやってきて、いきなりあの満員電車にさらされると、それはもうパニックになって当然かもしれない。そして数カ月もすればすっかり慣れてしまうのだから、人の順応力というのはなかなか恐ろしい。

長編成でしかも高頻度

それはともかく、かくのごとく東京の鉄道は10両編成を軽く超えるほど長い電車が次々にやってきて、どれもが満員という圧巻の輸送量を誇っている。そして、初見殺しなのはそれだけではない。実に複雑怪奇なネットワークこそが、東京の鉄道に親しむうえでは何よりのハードルなのだ。

いったい、東京の鉄道を旅しようとするならば、どこからどうはじめればいいのか。まるで雲をつかむような、東京の鉄道ネットワークをなんとか紐解いてみたい。

といっても、すべてをひとくくりで語るのは到底不可能だ。なので、ここでは東京都内を走るJR線に限定して、旅することにしてみよう。

東京の鉄道の中心は、言うまでもなく山手線である。山手線の内側と外側で家賃相場がずいぶん違う、などと言われることもあり(本当かどうかはわかりません)、都心と郊外を隔てる結界のごとく扱われることもある。鉄道以前に、東京を象徴するものをいくつか挙げろと言われれば、きっと山手線は早い内に出てくるだろう。

山手線E235系

2015年に登場した山手線E235系もすっかりなじんでいる(撮影:鼠入昌史)

山手線が走っているのは、文字通り東京の中心である。正式な区間は品川―渋谷―池袋―田端間で……などという細かいことを言い出すと話がややこしくなるのでここでは触れない。重要なのは山手線がどこを走っているのか、だ。“中央停車場”たる東京駅を基準にすると、内回り(反時計回り)で秋葉原・上野・日暮里・巣鴨・池袋・高田馬場・新宿・渋谷・恵比寿・五反田・品川・新橋あたりが主なところだろうか。

私鉄は山手線から郊外へ延びる

2020年に高輪ゲートウェイ駅が加わって全部で30駅。1周の所要時間は1時間ほどだ。快速のような速達列車はなく、基本的に同じ電車が各駅停車でえんえんとぐるぐる回る。郊外に延びる私鉄路線などはほとんどこの山手線沿いの駅をターミナルにしており、反対に山手線内部は地下鉄が中心。どこを切り取っても東京の鉄道の中心は山手線である。

ほかのJR各線も、山手線を軸に考えれば話が早い。東側を山手線に並行して通っているのが京浜東北線だ。その名の通り、北は大宮、南は横浜から根岸線に直通して大船と、間に東京都心を挟んで埼玉県と神奈川県を結んでいる。山手線と並行する区間以外では、北に王子や赤羽、南に大森や蒲田などがある。

京浜東北線の電車

山手線と並ぶ首都圏の通勤電車・京浜東北線(撮影:鼠入昌史)

京浜東北線(や山手線)は、こまめに駅に停まるタイプの路線だが、いくつかの駅をすっ飛ばして遠くを目指すのが、東海道線・横須賀線・高崎線・宇都宮線・常磐線・総武線といった路線たち。東京都内は停車駅が少なく、都外を目指すときに使うことが多い。そして、これらの多くは直通運転を行っている。

たとえば、横須賀線と総武線は横須賀・総武快速線として東京駅の地下ホームで接続して直通。事実上、ひとつの路線のようになっている。東海道線と高崎線・宇都宮線・常磐線は、上野東京ラインを介しての直通運転。常磐線、すなわち茨城方面からの列車は品川が南限だが、高崎線・宇都宮線の列車は遠く横浜を過ぎて湘南を目指す。上野東京ラインは2015年に開業した比較的新しい路線で、それ以前は高崎線・宇都宮線・常磐線は上野駅止まり。上野が“北の玄関口”と呼ばれるゆえんである。

そして、上野東京ラインとほとんど同じ役割を山手線の西側において果たしているのが、湘南新宿ラインだ。同じように高崎線・宇都宮線と東海道線・横須賀線を仲介する。上野東京ラインより歴史は古く、2001年に開業した。これによって、東京都心での乗り換えをせず、北関東と南関東を直通できるようになったわけだ。だから東京都心において、なかなか重要な役割を持っているといっていい。

貨物線も大活躍

ちなみに、この湘南新宿ラインが走っているのは、山手貨物線という。都心の旅客列車が急増したため、貨物列車を優先的に走らせることを目的に大正時代に開通した。が、その後も旅客列車の増加が続き、結局貨物列車は郊外の武蔵野線に追いやられてしまって山手貨物線からはほとんどなくなってしてしまった。

1986年には、前年に開業した埼京線が山手貨物線を経由して新宿まで開業。埼京線は2002年以降は東京臨海高速鉄道りんかい線と相互直通運転をしている。

と、ここまで山手線を中心に、南北の路線を見てきた。が、東京都の地図を眺めてみればわかるとおり、東京というのは横に細長い。だから、東西をどう連絡するかも鉄道においては重要な役割である。それを担っているのが、中央線・総武線である。

中央線は東京駅から山手線の真ん中をぶち抜いて、武蔵野台地を一直線に西に走る。総武線は反対に千葉方面を目指す。両者の端境は御茶ノ水駅になるのだが、総武線の各駅停車は中野・三鷹まで乗り入れていて重複区間が多い。御茶ノ水―三鷹間は各駅停車の中央・総武緩行線と、中央線快速というすみ分けが行われている。こういう役割分担は、実に初見殺しではないかと思う。わかりやすくいえば、各駅停車は黄色い電車、快速はオレンジの電車、である。

中央・総武緩行線の電車

中央・総武緩行線は“黄色い電車”(撮影:鼠入昌史)

中央線は、東京の区外、すなわち多摩地区へ走って郊外でいくつかの路線と接続している。ひとつは西国分寺駅で交わる武蔵野線。次いで立川駅では青梅線と南武線、八王子駅では横浜線と八高線だ。

武蔵野線の電車

武蔵野線は外縁部を環状に走り、西船橋から京葉線にも直通して府中本町―東京間を結ぶ(撮影:鼠入昌史)

青梅線を走る電車

東京でいちばん標高の高い場所を走る青梅線(撮影:鼠入昌史)

このうち、青梅線は拝島駅で五日市線を分け、最後は東京都内で最も西、そして最も標高の高い場所にある奥多摩駅を目指す。青梅―奥多摩間には「東京アドベンチャーライン」という愛称があるとおり、“東京”とは思えないほどの山間部を走る路線だ。

五日市線も同様で、終点の武蔵五日市駅は島嶼(とうしょ)部を除く東京都内では唯一の“村”、檜原(ひのはら)村に向かうバスの乗り継ぎポイントになっている。どちらも行楽シーズンは登山客らでにぎわう路線である。

外周をぐるりと囲む路線

武蔵野線・南武線・横浜線・八高線は、東京都心から外れた郊外において、その外周をぐるりと取り囲むように走る路線を構成する路線群。神奈川県川崎市に発する南武線は、東京都内の府中本町駅で武蔵野線と接続し、武蔵野線は埼玉県内を千葉方面へとぐるりと回る大環状。湾岸部を走る京葉線へ直通して府中本町―東京間を結ぶ。

京葉線の電車

港湾部を走って千葉方面に向かう京葉線(撮影:鼠入昌史)

八王子駅を発着する横浜線・八高線はさらに郊外で同様の役割を持つ。高速道路で言えば外環道、一般国道ならば16号。それに類する役割を持つこれらの路線は、案外に南北の移動に弱い多摩地区において、中央線や山手線にも引けを取らない重要な役割を果たしているのだ。

在来線だけでなく東京駅には東北・上越・北陸・東海道の各新幹線が発着、多くの地方都市とダイレクトに結んでいる。またJR東日本グループの東京モノレールが山手線の浜松町と羽田空港の間を走る。加えて、2031年度の開業を目指して、宇都宮線・高崎線・常磐線方面と同空港を直結する「羽田空港アクセス線」の本格的な工事も始まった。

さて、こうして東京都内を走るJR線の旅をしてきた。東京の鉄道というと、地下鉄や私鉄のイメージが先行する人も多かろう。しかしJRは運転本数が多く、上野東京ライン・湘南新宿ラインを走る列車は最大15両とパンチの利いた大編成。山手線は11両、京浜東北線や中央線は10両で、ラッシュ時はこれらがほとんど満員で走り続けているのだから、たいしたものだ。人口約1400万人の東京は、こうした鉄道路線によって支えられているのである。

(鼠入 昌史 : ライター)

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