北大阪急行線、延伸で急上昇する「箕面」の知名度

北大阪急行電鉄延伸区間 箕面萱野方面を望む

北大阪急行線の延伸区間。箕面萱野駅(画面奥)寄りは高架橋(記者撮影)

北大阪急行線は大阪市の北に位置する吹田市と豊中市を走り、ビジネス街にある江坂駅と「せんちゅう」こと千里中央駅を結ぶ全長5.9kmの路線だ。途中駅は緑地公園と桃山台の2駅だけ。「急行」と冠しているが各駅停車しか走らない。

だが、その強みは大阪市中心部を南北に貫く大動脈である大阪メトロ御堂筋線との相互直通運転にある。千里中央駅からは日中も8分おきに「なかもず」と行き先を表示した電車が出発していて北摂エリアの通勤通学の足を担っている。

御堂筋線の直通先が延伸

2023年5月20日に開業90年を迎えた大阪メトロ御堂筋線は同社線でもっとも古い路線。吹田市の江坂駅と堺市の中百舌鳥(なかもず)駅の間の24.5kmを結ぶ。途中、新大阪、梅田、淀屋橋、本町、心斎橋、難波、天王寺といった主要エリアを通る。淀川以北では幹線道路の新御堂筋に挟まれ、クルマと並んで地下鉄車両が走る姿がおなじみになっている。

一方、北摂エリアの東西の公共交通を担うのは大阪モノレール。1990年6月1日に最初の区間である千里中央―南茨木間が開業した。その後延伸を繰り返し、西は大阪空港、東は門真市までの本線と、万博記念公園から分かれる彩都線、合わせて18駅を有する路線に成長した。さらに2029年を目標に門真市から南へ、近鉄奈良線と接続する瓜生堂(仮称)まで延びる予定だ。

ほかにも大阪周辺で新線計画が目白押し。そのなかでいま、大きく進化しようとしているのが北大阪急行線だ。2023年度末、長年にわたって終点だった千里中央から北へ、箕面市の「箕面萱野駅」までの延伸区間約2.5kmが開業する。

千里中央駅北側のトンネル内

千里中央駅北側。シールドトンネル区間にあるS字曲線(写真:北大阪急行電鉄)

北大阪急行の延伸区間

延伸線の千里中央駅(画面奥)寄りはトンネル区間(記者撮影)

北大阪急行線は1970年2月24日、日本万国博覧会(大阪万博)の開幕を前に南北線と会場線(東西線)が開業した。現路線に「北大阪急行南北線」という名称があるのはその名残。当時は「万国博急行」との愛称もあった。

会場線は現在の千里中央駅手前のトンネル内で東へカーブを描き、万国博中央口駅まで結んでいた。中国自動車道の上り線に暫定的に線路を敷設、“千里中央駅”はそのルート上の仮駅だった。御堂筋線の南端だったあびこ駅までの相互直通運転によって全国から押し寄せる万博来場者の輸送に貢献、万博閉幕後はベッドタウンの通勤通学の足となり現在に至っている。

今回の延伸の事業主体は箕面市と北大阪急行電鉄。総事業費は874億円。内訳は工事費811億円、車両費63億円となっている。総事業費のうち、北大阪急行が110億円、国と地方(箕面市と大阪府)が382億円ずつを負担する。箕面市の負担分282億円は全額、ふるさと納税を含む寄付などを積み立てた「北急貯金」と競艇収益金でまかなうという。

延伸で2つの新駅誕生

延伸区間の途中には「箕面船場阪大前駅」を設ける。周辺はもともと繊維卸業者の商業団地として開発されており、地名は大阪市中央区の船場に由来する。駅前には大阪大学箕面キャンパスの建物と、市立文化芸能劇場と船場図書館などで構成する複合公共施設がすでにオープンしている。市は新御堂筋を渡る歩行者デッキと駅前広場も整備する。

箕面船場阪大前駅

箕面船場阪大前の真新しい複合公共施設(記者撮影)

千里中央駅から箕面船場阪大前駅の先までがトンネルで、箕面萱野駅寄りの800mは高架となる。終点の箕面萱野駅は、地元では「いないち」と呼ぶ国道171号線の萱野交差点を越えた先に建設中。「みのお中央」エリアの大型商業施設「みのおキューズモール」と直結する。駅ビルのほか、バスターミナルやタクシー乗り場・駐輪場を整備する。

北大阪急行延伸区間、地下トンネルと高架の境目

高架とトンネル区間を分ける開口部(記者撮影)

箕面市の人口は2023年4月末時点で13万8892人。大阪北部の主要なベッドタウンの1つであるほか、箕面大滝や勝尾寺をはじめ、紅葉の名所というイメージが強い。広報紙は「もみじだより」、文化施設は「メイプルホール」と市はモミジを前面に押し出している。

また萱野は、赤穂藩士・萱野三平重実ゆかりの地として知られる。主君・浅野内匠頭長矩による松之廊下刃傷事件の発生を赤穂に急報した人物で、討ち入りへの参加を希望するも、父親は反対。忠孝の間で思い悩み、主君の月命日に自刃したとされる。東京・高輪の泉岳寺には四十七士の墓とともに供養碑がある。現在も萱野三平旧邸が大阪府指定史跡として保存されていて、国道171号線の阪急バス「萱野三平前」のバス停にも名を残す。

箕面萱野駅予定地

箕面萱野駅の予定地。バス停名は「かやの中央」(記者撮影)

箕面萱野駅

箕面萱野駅南側。高架橋上より撮影(写真:北大阪急行電鉄)

現在、箕面市で鉄道駅があるのは市西部のみ。阪急電鉄宝塚線の石橋阪大前駅から箕面駅へ箕面線が延びていて、沿線に箕面市役所や公共施設が点在する。「ミスタードーナツ1号店」は箕面駅近くにある。北大阪急行線延伸によって千里中央を発着する箕面市内へのバス路線も箕面萱野を核として再編されることになる。

箕面市地域創造部鉄道延伸室の担当者は「これまで鉄道空白地帯だった地域で、東西方向の交通利便性も向上する。鉄道の定時性・速達性のメリットを享受できるほか、自動車依存度を下げることで道路渋滞の緩和や環境面で期待できる」と強調する。そのうえで「駅前施設が充実して市全体の魅力がアップすることをアピールし、若い世代の定住につなげたい」と話していた。

行き先が「箕面萱野」のインパクト

箕面市と北大阪急行電鉄は延伸に向けて9000形(10両編成)を3本増備する。2023年8月1日から順次、北大阪急行線・御堂筋線で運行を開始する。9000形は2014年4月以降に導入された車両だが、増備車では新たに防犯カメラを設置する。

「箕面ラッピングトレイン」として、2本の前後2両ずつには箕面をPRする装飾を施す。箕面大滝や紅葉を基調に四季の移り変わりを描き、残る1本は箕面PRキャラクター「滝ノ道(たきのみち)ゆずる」と「モミジーヌ」のイラストを車体に大きくラッピングする。「難読地名と言われることがあるが、ひらがなやローマ字を併記することで読み方も浸透させたい」(市の担当者)という。

北大阪急行電鉄延伸事業部の担当者も「これまでの箕面はアクセスに少々時間を要したが、大阪都心に直結する鉄道が延びてくるため利便性が格段に向上する」とメリットを挙げる。開業後の運行ダイヤについては、現時点で未定といい「大阪メトロ等の関係者と調整のうえ、決定次第お知らせします」と説明している。

現在の千里中央行きの電車は「基本的には箕面萱野駅折り返し」(同社)となる。北大阪急行沿線に出かけるわけでなくとも、大阪市内で地下鉄に乗れば御堂筋線を中心にいたるところで「箕面萱野」の表示を目にすることになる。これまで大阪の“奥座敷”といったイメージが強かった箕面の存在感が急上昇することは間違いない。

(橋村 季真 : 東洋経済 記者)

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