弁護士と違う!「司法書士」の存在が高まっている
弁護士と司法書士。同じ法律職でも、性質は異なる。弁護士の仕事は「紛争の相手を説得する」のが中心なのに対して、司法書士は紛争性のない登記などが主な業務だ(簡裁民事訴訟代理を除く)。
その司法書士試験の合格率は、2022年度で5.2%だった。近年、合格率・合格者数ともにやや上昇傾向にあるとはいえ、難関であることに変わりはない。
試験は年1回で、7月の筆記試験と、筆記合格者のみに課せられる10月の口述試験がある。口述試験はほぼ全員が合格するため、実質的に筆記試験で合否が決まる。
民法、商法、不動産登記、商業登記をしっかり
筆記試験は、多肢択一式が11科目70問(210点)、記述式が2科目2問(70点)の280点満点だ。合格点は総得点の77%以上(2022年度は216.5点以上)。択一式と記述式、それぞれに合格基準が設定されており、1つでも下回れば不合格になる。
択一式のうち7割以上を占めるのが民法、商法・会社法、不動産登記、商業登記の主要4科目である。まずはこれらの重要事項をしっかりと身に付けるべきだろう。ただし、前述のように合格基準があるため、それ以外の刑法や民事訴訟などの7科目も、バランスよく学習してほしい。
一方の記述式は、不動産登記と商業登記から1問ずつで、問題に示された情報を整理し、登記申請に準ずる答案を作成する。
伊藤塾の山村拓也講師は「やみくもに事項を暗記しても合格はできない」といい切る。「なぜその法律があるのかを考えて、制度趣旨という幹を理解することによって、枝葉である法律を体系的に身に付けていくことができる」(山村氏)。
司法書士の試験範囲は非常に広範だ。
効率よく学習したいなら、資格予備校や通信講座を利用し、重要項目を絞り込んだり、解答の方法論を身に付けたりするほうがいい。予備校の講座を検討する際は、合格実績や使用するテキスト、動画で公開されている講師の授業を比較し、自分と相性のよいところを選ぶことを勧める。
合格するための総学習時間は3000時間といわれるが、「数字にとらわれないほうがよい」(山村氏)。「3000時間勉強すれば必ず合格できるわけではない。試験に頻出する基本事項を絞り込み、確実に理解し身に付けるまで勉強を繰り返すこと」(同)。
時間の限られる社会人は合格まで3〜4年かかるのが普通で、10年以上かかる人もいる。日々の生活で学習に充てる時間をどう捻出するか。司法書士法人なないろ合同事務所の勝池絵里氏は「通勤電車でも模試の解説を聞いていた」と当時を振り返る。
140万円までなら民事訴訟手続きの代理も
司法書士のメインの業務は独占業務である、不動産登記や商業・法人登記などの登記申請だ。加えて、法務局や裁判所に提出する書類作成、遺言・相続、債権整理など。特別研修を受けて認定司法書士になれば、簡易裁判所において、140万円までの民事訴訟手続きの代理ができる。
晴れて合格後は、企業の法務部で企業法務に携わる人もいるが、圧倒的に多いのは自らの事務所を持つ開業司法書士。都市部では1〜5年ほど司法書士事務所に勤務した後に独立するのが一般的である。地方ではそのまま開業する人も少なくない。司法書士の数が少なく、事務所の求人も少ない一方、ニーズは高いからだ。
併せて取るといい資格としては、許認可申請をする行政書士のほか、不動産関連の宅地建物取引士、企業の労務を担当する社会保険労務士などが挙げられる。
収入については、事務所勤務の場合、年収300万〜500万円程度がボリュームゾーン。開業の場合はばらつきが大きいが、『司法書士白書』2021年版アンケートでは、金額を回答したうち、約5割が年間売上高を「1000万円以上」としている。数千万円も珍しくなく、努力いかんで、高収入が見込める資格といえるだろう。
追い風もある。2024年4月からの不動産相続登記の義務化を受けて、司法書士の業務量は大幅に増加する見通しだ。財産管理や成年後見などの業務も拡大しており、今後も需要は確実に増えていくと考えられる。
ちなみに合格者の平均年齢は、40歳前後とほかの資格より高い。全国約2.3万人いる司法書士のうち、60歳以上が約3割を占めている。人生100年時代、セカンドキャリアを考えるミドルやシニアにとって、有力な選択肢に考えられよう。
人気講師や合格者が語る試験の突破法
(勝木 友紀子 : ライター)
05/07 06:00
東洋経済オンライン