弁護士と違う!「司法書士」の存在が高まっている

司法書士のバッジ

司法書士のバッジには「五三桐(ごさんのきり)」がデザインされている。その存在感と重要性は増すばかりだ(写真:mapo / PIXTA)
会社だけに依存せず、学び直し(リスキリング)によって、資格や検定に挑戦する人は多い。
『週刊東洋経済』4月24日(月)発売号では「食える資格と検定&副業100」を特集。自分の市場価値を高めるコストパフォーマンスに優れた資格や検定について、100種を紹介している(この記事は雑誌の特集内にも掲載しています)。
ここでは、司法書士を目指す人がどうすれば試験を突破できるか、司法書士になればどんな進路が選択できるかについて説明した。司法書士を詳しく知らない人にも、ぜひ読んでいただきたい。

週刊東洋経済 2023年4/29・5/6合併特大号[雑誌](食える資格と検定&副業100)

弁護士と司法書士。同じ法律職でも、性質は異なる。弁護士の仕事は「紛争の相手を説得する」のが中心なのに対して、司法書士は紛争性のない登記などが主な業務だ(簡裁民事訴訟代理を除く)。

その司法書士試験の合格率は、2022年度で5.2%だった。近年、合格率・合格者数ともにやや上昇傾向にあるとはいえ、難関であることに変わりはない。

試験は年1回で、7月の筆記試験と、筆記合格者のみに課せられる10月の口述試験がある。口述試験はほぼ全員が合格するため、実質的に筆記試験で合否が決まる。

民法、商法、不動産登記、商業登記をしっかり

筆記試験は、多肢択一式が11科目70問(210点)、記述式が2科目2問(70点)の280点満点だ。合格点は総得点の77%以上(2022年度は216.5点以上)。択一式と記述式、それぞれに合格基準が設定されており、1つでも下回れば不合格になる。

択一式のうち7割以上を占めるのが民法、商法・会社法、不動産登記、商業登記の主要4科目である。まずはこれらの重要事項をしっかりと身に付けるべきだろう。ただし、前述のように合格基準があるため、それ以外の刑法や民事訴訟などの7科目も、バランスよく学習してほしい。

一方の記述式は、不動産登記と商業登記から1問ずつで、問題に示された情報を整理し、登記申請に準ずる答案を作成する。

伊藤塾の山村拓也講師は「やみくもに事項を暗記しても合格はできない」といい切る。「なぜその法律があるのかを考えて、制度趣旨という幹を理解することによって、枝葉である法律を体系的に身に付けていくことができる」(山村氏)。

司法書士の試験範囲は非常に広範だ。

効率よく学習したいなら、資格予備校や通信講座を利用し、重要項目を絞り込んだり、解答の方法論を身に付けたりするほうがいい。予備校の講座を検討する際は、合格実績や使用するテキスト、動画で公開されている講師の授業を比較し、自分と相性のよいところを選ぶことを勧める。

合格するための総学習時間は3000時間といわれるが、「数字にとらわれないほうがよい」(山村氏)。「3000時間勉強すれば必ず合格できるわけではない。試験に頻出する基本事項を絞り込み、確実に理解し身に付けるまで勉強を繰り返すこと」(同)。

時間の限られる社会人は合格まで3〜4年かかるのが普通で、10年以上かかる人もいる。日々の生活で学習に充てる時間をどう捻出するか。司法書士法人なないろ合同事務所の勝池絵里氏は「通勤電車でも模試の解説を聞いていた」と当時を振り返る。

140万円までなら民事訴訟手続きの代理も

司法書士のメインの業務は独占業務である、不動産登記や商業・法人登記などの登記申請だ。加えて、法務局や裁判所に提出する書類作成、遺言・相続、債権整理など。特別研修を受けて認定司法書士になれば、簡易裁判所において、140万円までの民事訴訟手続きの代理ができる。

晴れて合格後は、企業の法務部で企業法務に携わる人もいるが、圧倒的に多いのは自らの事務所を持つ開業司法書士。都市部では1〜5年ほど司法書士事務所に勤務した後に独立するのが一般的である。地方ではそのまま開業する人も少なくない。司法書士の数が少なく、事務所の求人も少ない一方、ニーズは高いからだ。

併せて取るといい資格としては、許認可申請をする行政書士のほか、不動産関連の宅地建物取引士、企業の労務を担当する社会保険労務士などが挙げられる。

収入については、事務所勤務の場合、年収300万〜500万円程度がボリュームゾーン。開業の場合はばらつきが大きいが、『司法書士白書』2021年版アンケートでは、金額を回答したうち、約5割が年間売上高を「1000万円以上」としている。数千万円も珍しくなく、努力いかんで、高収入が見込める資格といえるだろう。

追い風もある。2024年4月からの不動産相続登記の義務化を受けて、司法書士の業務量は大幅に増加する見通しだ。財産管理や成年後見などの業務も拡大しており、今後も需要は確実に増えていくと考えられる。

ちなみに合格者の平均年齢は、40歳前後とほかの資格より高い。全国約2.3万人いる司法書士のうち、60歳以上が約3割を占めている。人生100年時代、セカンドキャリアを考えるミドルやシニアにとって、有力な選択肢に考えられよう。

人気講師や合格者が語る試験の突破法

「苦手な記述式の対策を早く 量は多いが基礎を繰り返す」
伊藤塾講師 山村拓也
どうしても試験範囲が広いため、覚えるべき量が非常に多く見えるかもしれない。が、それに圧倒され、身構えて萎縮しないでほしい。司法書士試験は重要なことを正確に答えられる人が受かる試験。基礎を徹底し、頻出事項を絞り込み繰り返し学習することで、合格は見えてくる。
択一式の対策だけを先に進めた結果、記述式に苦手意識を持つ受験生は比較的多い。早くから記述式対策をし、正しい方法論を身に付けることを意識してほしい。そうすることで苦手意識を持たず、記述を好きになり、得意科目にしていくことができるはずだ。
試験は5時間という長時間で大量の問題を解く、いわば一種のスポーツで知的格闘技のようなものだ。スポーツの世界でメンタルトレーニングが重視されるように、試験においてもピンチを乗り越えられる強さが必要になってくる。ロングスパンで受験準備の間も浮き沈みを乗り切らなければならない。知識とスキルだけでなく、メンタルの強化も意識して、勉強を進めてもらいたい。
「書いて、聞いて、唱える 重要ポイントは何度も徹底」
司法書士法人なないろ合同事務所 勝池絵里
十数年前、司法書士試験を受けたが、結果が出ないまま断念。情報関連のコンサル会社へと就職した。そこでは仕事自体は好きだったが、深夜帰宅が続くなど労働環境がハードで、「動くなら今しかない」と再挑戦。2回目の受験で合格した。
友人の司法書士事務所の補助者として働きながら資格予備校に通学。平日に使える勉強時間は講義を含めても3時間程度しかない。通勤電車で模試や答練の解説を繰り返し聞いたり、要点ノートを持ち歩いて見たりしていた。一方で休日は図書館や自習室を利用し長いときは10時間以上勉強。重要といわれたポイントは、何度でも書いて、聞いて、唱えて、徹底的に覚えるよう心がけた。
以前受けたときには、どこかに「ダメなら就職すればいい」というような逃げがあった。今回は司法書士として活躍する自分をイメージして、「絶対この道で」と取り組めたことが合格へとつながったのではないか。将来的には自分も独立・開業し、地域の法律の専門家として「この先生がいてくれるから安心」といってもらえるような、代わりの利かない司法書士になりたい。

(勝木 友紀子 : ライター)

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