「40代で老害」当てはまると危険な「2つの傾向」

老害と言われる人たちの特徴と、その予防策をお届けします(写真:Fast&Slow/PIXTA)
「老害」というと、「すぐ切れる」「空気が読めず周りに迷惑をかける」など、トンデモな老人をイメージされるかもしれません。しかし、実はこれは脳の老化によって脳機能が低下することで起きる特徴でもあります。脳の老化は30代からはじまり、自分では気づきにくいこともあるため、40代、50代の働き盛りの人でも他人事ではないのです。
脳科学者・西剛志氏の著書『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』から、老害と言われる人たちの特徴とその予防策について、一部抜粋・再構成してお届けします。

脳の老化に気づくのは難しい

まず、衝撃的な事実からお伝えします。

脳は、通常、30代から少しずつ萎縮が始まります。

40代で肌や体が老化する人がいるように、40代で脳の老化が進む人もかなりいます。

もしそのままなんの対策もせずにいると、脳の老化、つまり老人脳になっていくのです。

この老人脳とは、どんな状態か。具体的にはこんな人です。

私がスーパーで買い物をしていたときのことです。

レジの列の前から「なんでレジ袋に金を払わなければいけないんだ!」と怒鳴り声が聞こえてきました。

70代くらいの男性。店長まで出てきて懸命に説明しますが、理解できないようで、同じ主張をくり返すばかり。そして突然お金を投げつけて「もういい!」と怒鳴りながら、すごい勢いで店から出ていきました。

どうでしょう。これは、「老害」と言われる人たちのイメージにぴったりの状態ですね。

周りが気にならなくなる、記憶が曖昧になる、同じ主張をくり返す、感情的になる。

年齢とともにそういう傾向になる人がかなりいます。こういう行動を知らず知らずにとってしまうのは脳の老化現象の一種です。

老人脳はその人の行動や生活習慣、そして考え方にまでさまざまな変化を生じさせます。たとえばこんなことです。

●新しいことをするのが面倒になる
●物忘れが多くなる
●集中力が続かなくなる
●無配慮になる
●ミスが多くなる
●耳が聞こえにくくなる

ここに挙げたのは症状のほんの一部です。

これは、加齢とともに脳機能が衰えていくことで起きてくることですが、「老害」と呼ばれる人たちには、さらに次の特徴があります。

「脳の老化」で起こること

老人脳が加速して「老害」になってしまう人は、「客観・抑制脳」と「共感脳」の2つが老化していると考えられます。この2つの脳機能が低下すると、どんなことが起こるのでしょうか。

①「相手の気持ちを読む力」が衰える

この能力はハーバード大学の研究で48歳をピークに衰えていくことがわかっています。初期症状としては、人の目が気になるかどうか。というポイントがあります。

たとえば、若いときは近所のコンビニに行くのにもちゃんとした外着で行っていたのが、だんだん着替えるのが面倒になり、家着のままで外出したり、さらに進むと、寝間着のままで行ってしまったり……そんなこと、ないでしょうか。

これは、人目が気にならなくなることで起きます。

さらに進行すると、人に対して無配慮な人、「失礼な人」になったりします。

たとえば、列に割り込む人、電車で人を押しのけて我先に座ろうとする人、ソーシャルディスタンスを無視して近づいてくる人、自分のことばかり主張する人……。

これは、高齢の人に限った話ではありません。若い人でも、電車の中で音漏れを気にせず音楽を聴いている人は共感脳の働きが弱っています。

②自分の感情を抑えられない

すぐにイライラする、自分の感情を抑えられない。

人の言うことを疑いもせず、すぐ信用してしまう。

日常でミス、間違いが多発する。

これらは脳の抑制ができていない、脳が計画を立てられない、そんなタイプの老人脳で、脳の司令塔である前頭前野が衰えている可能性があります。

お店で店員さんにぞんざいな態度をとっている人は、まさにこのタイプ。

また、オレオレ詐欺に引っかかってしまうような人も注意です。

人を適正に疑うことが苦手になり、ついつい信じてしまう。複数の視点から物事を見られなくなっている危険な状態で起こります。

計算のミスや運転中の不注意、予定のすっぽかしなど、注意や意識が行き届かずに間違いを犯してしまう人も、このタイプになります。

この2つの脳機能が低下していくと、いわゆる失礼な老人、キレる老人の誕生です。家族に横柄な態度をとったり、お店で店員さんに乱暴な言葉を使ったり、自分の思いどおりにならないことにキレたりします。

ただ、もちろん、すべての人がこうなってしまうわけではなく、人によって振れ幅が大きいです。

脳の状態をいつまでも若く保てる人は、脳の老化をゆるやかにしたり、若返らせる工夫をしています。

何もしないと自然に脳は老化しますが、脳を活性化させ老人脳を遅らせる方法はありますので、この記事の最後で紹介することをぜひトライしてみてください。

前述で見てきたように、老人脳にならないためには、客観的視点と共感力を鍛えることが有効です。ここでは、簡単に取り組める方法を紹介します。

自分のことだけ話していたら要注意

共感脳が衰えて「人の気持ちを読む能力」が落ちてしまうと、人と会話をする場面で自分の話ばかりして、相手の話をほとんど聞いていない、相手に興味を示さないなどの特徴が出てきます。

自分のことばかり話す人、いますよね。そういう人は要注意です。

もし、自分の話ばかりしてしまい、相手の気持ちを読んでいないなと気づいたら、それを直す方法があります。

「視線」に注目するという方法です。

自分の話をしている人の視線は、たいていの場合相手を見ているのではなく、相手と自分の間くらいを見ていることが多いです。相手をちゃんと見ないで話していることがほとんどです。

しかし、相手をちゃんと見ると、相手に意識が行きやすくなります。

視線が同じ場所に一定時間あると、集中力と記憶力まで上がることがわかっています。そうすると、相手のことを認知し、気持ちを読むこともしやすくなります。視線を相手にしっかり向けることが「気持ちを読む」ことにつながるのです。

ちょっとしたことなのですが、これだけで会話は変化します。

次に会話では、相手の話を聞くことも大切です。

それもただ聞くのではなく、うなずきながら聞くと、脳が活性化します。実際に私もよく講演会の参加者にやってもらうことがあります。人の話に対してうなずかないでいてもらう時間と、うなずきながら聞く時間をつくってもらいます。

すると、うなずかずに聞いている時間は相手の話があまり入っていかないのです。

一方でうなずきながら聞く時間は、話が面白いように頭に入っていきます。これは、うなずくことで脳のスイッチが入って、自動的に相手の話を聞こうとするモードになるからです。

私たちは過去に「うなずく動作をするのは、相手の話を理解したとき」という体験をしています。すると脳はそのことを覚えていて、うなずく動作をした瞬間に、脳がいま言われていることを理解しようとするスイッチが入ると考えられています。

うなずくことで脳が活性化するので会話や講演を聞くことが脳活になります。

西式「脳を活性化させる手帳術」

客観・抑制脳が弱っている人は、前頭前野の働きの低下が原因として考えられます。

しかし、手書きで文章を書いたり、小さな目標を持つと前頭前野が活性化されることが、数々の研究で報告されています。手帳をうまく使うと、脳の活性化だけでなく、主観的幸福度の向上、そしてストレス軽減効果まで期待できます。

1)予定がなかったとしても毎朝、今日したいことを書く

その日にわざわざ書き込むような予定がなかったとしても、今日やりたいと思ったことを書きこんでみましょう。すると、ドーパミンまで分泌されて脳の状態まで高まる効果が期待できます。

2)一日の終わりに今日成功したことを5つ書く

その日にあったいいことを5つ書き込みます。5つも書くほどのことがない。そう思う人もいると思いますが、どんな小さなことでもOKです。

「きれいな花を散歩中に見た」「夜ごはんで食べたアジフライがおいしかった」など、毎日書いていくうちに、脳の認知が変わって主観的幸福度まで高まりやすくなります。

3)目標のための数値を書く

「節約をもっとしたい」「あと10キロやせたい」「英語の勉強がしたい」など、自分が達成したいことを明確にし、毎日そのための数値を記入していきます。

たとえば、節約したいなら、その日節約したと思う金額を書き込む。という感じです。

大切なのは、目標に向かって具体的に項目や数値を書いていくこと。どんな小さなことでもゴールに向かって進んでいるとき、より脳は幸福度が高まりやすくなります(「エンダウド・プログレス効果」と言われます)。

4)心がフフッと喜ぶことを予定に入れる

自分の心が喜ぶような、やってみたいことを「先の予定に」書きこんでいきます。実現しなかったとしてもOK。「空想スケジュール」をつくっている感覚で1カ月先、6カ月先、1年後の予定をつくってみてください。

旅行に行くよりも、旅行の予定を立てているときのほうが、脳が活性化しているというリサーチもあります。

この4つのことを実践すれば、前頭前野を含めた脳の複数の場所が活性化しやすくなります。

人生は一度きりです。

何もしなければ、加齢とともに脳の老化は進んでいきます。でも考え方や行動を変え、日々の習慣を変えていくことで、脳はどんどん変化していくでしょう。

(西 剛志 : 脳科学者(工学博士)、分子生物学者)

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