パワハラ対策に助成金「社会保険労務士」は忙しい
士業の中では、会社員が働きながら勉強して取得できるというイメージの強い、社会保険労務士(社労士)。2022年度の合格率は前年度比2.6%ポイント減の5.3%。決して簡単に合格できる水準ではなさそうである。
近年の傾向としては、合格者に占める女性比率が多いことが挙げられる。2022年度は38.1%が女性だった。総務部などに属する女性社員が受けているものと想定されよう。
試験の特徴は科目数が8科目と多いこと。合格基準は、マークシートの選択式が総得点27点以上/40点満点、5肢択一式が総得点44点以上/70点満点だ。科目別では、選択式が60%(3点以上/5点満点)、5肢択一式で40%(4点以上/10点満点)を最低取らなければならない。基本的には全科目で60%以上の正解を挙げるオールラウンダーを目指すことになる。
8科目を満遍なく横断的に学習すること
まずは、労働基準法や雇用保険法、健康保険法、厚生年金保険法をはじめ、8つの科目を横断的に学習して一巡するサイクルを半年、1カ月、1週間と短くしていく勉強法が有効である。
「覚えようとするのではなく、早く復習できるような素地づくりをすべきだ」と東京リーガルマインド(LEC)の澤井清治講師は指摘する。最終的には復習サイクルを3日に縮め、試験3日前に有給休暇を取って復習するといいという。
ちなみに社労士の合格基準は相対的なため、多くの受験生が得点できない問題は落としてもさほど影響がない。が、過半数の受験生が得点した問題を落としてしまうと、かなりのダメージになる。過去問を繰り返し解いて、問題への対応力を鍛えておくこと。過去問を解いた後にテキストを読み返し、また過去問を解くという方法で、インプットとアウトプットを交互に行いたいところだ。
最新の法改正の出題が多いのにも気をつけなければならない。働き方改革の影響を受けて、雇用保険法や年金関連は毎年のように改正される。加えて最新の統計や各省庁の白書からの出題もある。
「これらの情報をすべて1人でチェックするのは現実的でないが、資格予備校で法改正や白書対策の講座を受けたり、受験雑誌を読んだりすればカバーできる。むしろ予習しやすい」(澤井氏)。
特定社会保険労務士なら交渉代理もできる
社労士に対するニーズはますます高まっている。その象徴は2020年からのコロナ禍における“雇用調整助成金(雇調金)の申請代行バブル”だ。すでにバブルは落ち着いたが、今後はクラウド型のソフトなどを駆使して申請の電子化を提案できる、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材が求められている。
申請業務は複雑なものも多く、とくに助成金や給与計算については、正確で効率的な方法を提案できない社労士は競争力を失うからだ。
2007年には個別労働紛争の代理人として認められた「特定社会保険労務士」が誕生。社労士資格を持って特別研修を修了すれば、ADR(裁判外紛争解決手続き)の専門家として交渉代理ができ、裁判ではないから最短1日で和解が成立する。労務トラブルに悩む事業者や不当な扱いを受ける労働者からの引き合いは強い。
そして何といっても近年になって注目されているのは、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの対策だ。
2020年6月からは労働施策総合推進法の改正で職場でのパワハラ対策が大企業で義務化された(中小は2022年4月から)。すでに2006年には男女雇用機会均等法の改正により、セクハラ対策が事業主の配慮義務から措置義務になった。職場の新しいルールに対応しアドバイスするのは社労士が適している。前述したように社労士試験の合格者に占める女性の比率は約4割。「資格を得たことで自分に自信が持てた」と人事総務スキルアップ検定協会の高野理絵氏は語る。
独立開業する以外に、一般企業に勤務しながら社労士業務を行う勤務社労士も、最近では増えている。社労士法の17条により、労働・社会保険関連の申請書類を提出する際、社労士が作成した書類については一部の資料添付を省略することができるからだ。
将来、副業や転職、独立などキャリアチェンジを考えたとき、需要も強く、社内外で通用する社労士の資格は、幅広い可能性を与えてくれよう。
人気講師や合格者が語る、合格への突破法
(内藤 孝宏 : フリーライター・編集者)
05/06 06:00
東洋経済オンライン