仕事が速い人はパソコンより「紙」を使う理由
ディスプレーより紙がいい理由
今日から使えるノート・メモ術のノウハウを紹介する前に、まずお伝えしたいことがあります。
それは「紙に書くことの重要性」です。
実は、ディスプレーよりも紙のほうが全体を俯瞰してイメージしやすいということが、心理学者カウフマン博士とフラナガン博士の実験でわかっています。
たとえば、「家を掃除する」という文章を見たとき。
ディスプレーで見た場合は「床に掃除機をかける」という具体的な行動をイメージした一方、紙で見たときは「きれいに見えるようにする」という俯瞰的な行動がイメージされました。
この理由は、ディスプレーで見たときと紙で見たときでは、脳の刺激される部位が異なるためです。
ある研究では、ディスプレーよりも紙の印刷物を見たときに、脳の「前頭前皮質」という部分が強く反応したという結果が報告されています。
脳において前頭前皮質は、とくに情報を理解することや、思考の整理・判断を担うといわれています。
これをビジネスや趣味などで応用する場合、
具体的で機械的な作業→スマホやパソコン
俯瞰的で創造的な作業→紙
と使い分けるのがおすすめです。
紙の作業とディスプレーの作業とでは、アウトプットの質が変わってきます。
パソコンで資料や原稿をつくることが多いと思いますが、一度は紙で出力して確認すると、盲点や違和感に気づくことができます。
もう一歩踏み込んでお伝えすると、紙に文字を書くことで、そのときの出来事を「物語」として記憶しやすくなります。
これを「エピソード記憶」といいます。
たとえば、人と会話をしたエピソード記憶では、そのときの相手の笑顔を見てうれしい感情を体験したり、その人の性格を推察したり……実にさまざまな感覚、感情、思考がほかの記憶と結びついて記憶されます。
こうした結びつきが多彩であるほど、思い出すときの手がかりも豊富になり、忘れにくくなるのです。
最近は、スマートフォンやタブレットなどをノート代わりに使っている人も多いですが、紙は思考を整理したいとき、判断が求められるときはもちろん、とくに「忘れっぽい人」にはおすすめです!
①忘れなくなる「自分の言葉」変換術
それではここから、実践的なノート術・メモ術を紹介していきます!
・「自分の言葉」に直して書く
教科書を熟読しただけのグループよりも、その内容について自由作文を書いたグループのほうがテストの結果が高得点になったという実験結果があります。
「インプットよりアウトプットのほうが記憶に残りやすい」という点と「自分の言葉に変換したことで、エピソード記憶化された」という点が要因だと考えられています。
「自分の言葉に変換する」例を1つ紹介しましょう。
たとえばセミナーで、講師が以下のように話したとします。
「日本では1980年代から高齢化が始まり、2000年から働く人口が減っています。2020年には30%になりました。これからの企業は従業員の健康寿命を延ばし、長く働ける環境をつくることが必要です」
このとき、
「高齢化は80年代から。働く人口が減っているので個々の働き手としての寿命を延ばす秘策を考える」
というように、要約してメモをすることを意識するだけで、自然と「自分の言葉」で表現でき、記憶に残りやすくなります。
なお、講師の発言に対して「手書きでメモ」と「パソコンでメモ」した場合の比較実験では、明らかな違いが確認されています。
手書きの場合は、講師の発言とは異なる「自分の言葉」でメモされました。一方でパソコンの場合は、セリフどおりにメモされました。
これは、タイピング作業による脳への負担が大きく、言葉を変換している余裕がないからだと考えられています。
・ページの隅に「保留箱」欄をつくる
あれこれ書きすぎて、後から見返したら「なんじゃこりゃ……」。
そんな人は、すぐ必要でない情報や、なんとなく書いておきたいことが頭に浮かんだら、ページの隅に「保留箱」のスペースを用意して書き入れましょう。
ノートという空間の中で、手を「保留箱」まで移動して書く動作は、「保留箱までテクテク歩いて情報を置いた」というエピソードになって脳に残ります。そのおかげで、その情報がふいに必要になったときも、脳が自動的に「あの情報は保留箱に入れたな!」と反応して探し出してくれます。
ほかにも、
・「頭の中のつぶやきごと」を書く(独り言もメモしておく)
・「記憶に残るタイトル」を付ける(ページの最初に入れるタイトルをエピソード記憶にする)
など、「自分の言葉」に変換するノート・メモ術はさまざまにあります。
②思わず見返したくなる「視覚化」術
ノートに文字がびっしりで、後で見返す気にならない……。
そんな人におすすめのノート・メモ術を2つ紹介しましょう。
・擬人化、キャラ化する
手っ取り早くエピソード記憶化できるのが、「情報の擬人化」です。
たとえば、糖質、脂質、たんぱく質の特徴を覚えるならば、「すぐに熱くなって飽きやすい糖質くん」「やる気になるのは遅いけど、やり始めたら長続きする脂質さん」「脂質さんをやる気にさせるたんぱく質ちゃん」といった感じです。
イラストを描き込むことで忘れにくくなることも、研究で明らかになっていますし、絵が苦手でも、簡単なマークや表情を表すアイコンをつけておくだけで、情報に「エピソード」を付与することができます。
・思考ツールを使い、情報をつなげる
情報の関連づけをするには、線で結んだり、〇で囲むなど図式化したりするのが効果的。情報を図式化した「コンセプトマップ」ができたら、「それがなにに見えるか」を自分なりに考え、それを書き足してみましょう。
アメ、魚、フルーツ……自分のイメージを書き込めば、それに関連したエピソードが脳内でつながり、より記憶に定着しやすくなります。
以前紹介した記事(「要領のよさを決める『効果的な脳の使い方』とは」)で、「脳には、その情報処理の仕方に【同時系】【継次系】という大きく2つの種類がある」ことを解説しました。
③2つの「脳の型」に適した書き方、覚え方
この2つの脳の「型」にも、それぞれに適したノート・メモ術があります。
たとえば、視覚化が得意な「同時系」は、見た目に差をつけて記憶に残すことが有効です。
・「ペン色」を使い分ける
・「文字の大きさ」と「距離」に意味をつける
などのほかに、
・思いつくままに、ただ書き出す
ことも有効です。
同時系の人は「連想」が得意なので、ただ書き出しているだけなのに、書いた言葉から連想がなされ、自然に思考の道筋がノートに反映されます。
たとえば、今年やりたいことを書き出してみたとします。「美術館に30回行く」「映画を50本観る」「本棚をつくる」「ガーデニングをする」「おしゃれな皿を買う」などと書いた後に全体を眺めてみると、「センスを磨く」「心地よい空間」といった、自分がやりたいことに共通するテーマに気づくことができます。
一方で、順序立てが得意な「継次系」の人は、情報に時系列や因果関係をつけて記憶に残しましょう。
・書く順番を決めて思考を整理する
・端にあらかじめナンバーを振っておく
などのほかに、
・最初のページにゴールを書くと迷わない
もぜひ覚えてください。
継次系の人は、目の前のことを正確に行うのを重視しがちなので、それが行きすぎると、そもそもの目的を見失ってしまうことがあります。
「なぜ、それを学習しているのか」「なにに使うからメモをとっているのか」というゴールを最初のページや単元の最初に書いておくことで、ゴールに向かって情報を整理していくことができます。
いかがでしょうか。
あなたに合った「要領がいい人になる」ノート・メモ術はありましたか?
要領のよさは人の数だけ存在します。
あなたの感覚でピンときたものを選び、仕事や学習の場で試してみてください!
(菅原 洋平 : 作業療法士)
04/25 15:00
東洋経済オンライン