「保育園・幼稚園がイヤ!」で困ったときの絵本5冊
ようちえん「いや」なのはなぜ?
まずご紹介するのが、『ようちえんいやや』(長谷川義史 作・絵、童心社)です。タイトルが、どストライク。表紙の絵は大泣きしている幼稚園児。もうこれは、親御さんが「絶対、読まねば!」と心を動かされる作品です。
「ようちえん いくの いややー」と泣くたけしくん。その理由は、園長先生に「おはよう」のあいさつをするのがいやなんだそう。また、つばさくんが泣くのは、園で使う自分のイスのマークがヘビだからいやだって。
長谷川義史さんのインパクトのある絵に、親御さんは幼稚園に行きたくない、と泣く子どもの世界にどんどん引き込まれていくことと思います。
しゅうまくんも、みさちゃんも、よしきくんも、りかちゃんも、みんな「ようちえん いくの いややー」と泣いています。大人にしてみたら、「そんなことで園に行きたくないの?」とあきれそうになる理由。「そんなにいやなら、もう幼稚園に行かなくていい!」と怒りたくなるかもしれません。でも、最後まで読むと、みんなが泣く本当の理由は……。
登園前にぐずることに、親御さんは怒ったり、イライラしたりしがち。でも行きたがらない理由をこの絵本で理解できるのではないでしょうか。
読者である親御さんからはこんな声が寄せられているそうです。
「今は毎日大泣きしながら園に行っていますが、それでいいのですよね! この本のおかげで、親の私たちも安心しました」
「4月から幼稚園に通う3歳の息子に読んでみました。自分と同じ気持ちのお友だちをみて、『ようちえんいやや』と安心して言えるようになったようです。にっこりしてもう1回読んでと言います」
出版元の童心社編集部は、この作品についてコメントを寄せてくれました。「子育て経験のある人ならば、『あるある!』と思わずうなずいてしまう朝の光景。子どもの気持ちをおおらかに受けとめた、著者・長谷川義史さんの子どもたちへのエールです」。
次の作品もインパクトある書名です。かさいまり・文、ゆーちみえこ・絵の『えらいこっちゃのようちえん』(アリス館)。
幼稚園初登園の1日がテーマ。
どんな活発なお子さんも幼稚園の初日というものは緊張するでしょう。「園でみんなと仲良くできるだろうか」「泣いたりしないだろうか」と、親御さんの不安がお子さんにも伝わっているのかもしれません。兄弟がいて、先に入園経験があるならともかく、初めての経験なら親も子もドキドキのはず。
主人公の「ぼく」。園では、トイレ、お着替え、お弁当、そして遊びまで、おうちとは全然違い、とまどってしまいます。おうちなら頼れる人がいるのに……。どうしたらいいかわからなくて、泣きそうになったり、困惑したり。
そんなとき、「ぼく」が発することばが「えらいこっちゃ」。このことばで、少しずつ壁を乗り越えようとします。また、この「えらいこっちゃ」は、親御さんにとって、お子さんが困る状況を知り、備えるヒントになります。そして「えらいこっちゃ」は、お子さんには、困ったとき、不安になったとき心を落ち着かせることばになるかもしれません。
「えらいこっちゃ」――ピンチのとき、こんなキーフレーズを決めておくと、前に進む勇気がわくはずです。
ご家庭で読み聞かせするとき、お子さんといっしょに「えらいこっちゃ~」というかけ声を出しながら読んでみましょう。きっと幼稚園に行く不安も消えて、入園式が心待ちとなるはずです。
動物先生といっしょにのびのび
3冊目は『きんたろうようちえん』(やぎたみこ 作、あかね書房)。
舞台は山の上にある「きんたろうようちえん」。園児たちは、幼稚園バスではなく毎日ロープウェイで通います。そのロープウェイを引っ張りあげているのは、なんと園長のきんたろう先生。大きくて力持ち、そのうえいろんな動物の言葉が話せるのです。
この幼稚園は、きんたろう先生と給食係の先生以外は、クマやサルなどの動物が先生です。遊びもお絵描きも給食も動物先生といっしょ。自然に囲まれて、みんな自由にのびのびと過ごします。そんななか、ある事件が起こりますが……。
大人になると、他人と比べたり、競争したり、そんな社会に人はどっぷりとつかり、ときには自分を見失うこともあるでしょう。また子どもが幼い頃から習いごとやお受験などで、心のゆとりを失いがちになることも。
比較や競争はひとまず置いて、小さいときだけでも、こんなゆったりとした自然の中で、動物と触れあう体験をしてもいいのでは、いや、するべきではないかと思わせてくれる作品です。こんな楽しい幼稚園なら、子どもたちは「かえりたくない!」「もっとあそぶ~」と、ぐずるかもしれません。
お子さんに読み聞かせをするとき、動物の名前を覚えたり、遊びのお話をしてあげたりするのもいいでしょう。この作品からお子さんは、きっと幼稚園は楽しいだろうなとワクワクしてくれるはずです。
入園が待ち遠しくなる1冊
「保育園の絵本があまりなくて、やっと見つけました。親子で心の準備ができました」「園庭の遊具や、お部屋のおもちゃも細かく描かれていて、娘はディテールに夢中! 入園が待ち遠しいようです」と読者から感想が寄せられるのが、ロングセラー『ほいくえんのいちにち』(おかしゅうぞう 文、かみじょうたきこ 絵、佼成出版社)。
登園から外遊び、お散歩、お昼ごはんにお昼寝など、保育園で過ごす1日の様子がていねいに描かれています。
先生が子どもたちに接する様子などもリアル感たっぷり。親御さんにも子どもたちが園でどのように過ごし、どのように楽しんでいるのかが理解できると思います。集団生活に不安を感じているであろうお子さんに、「保育園ではこんなことをするんだね~」と絵を見ながら、いっしょに読むとよいのではないでしょうか。
各場面には、いろいろなおもちゃや生きものが描かれています。クマのぬいぐるみがいくつあるか、どんな生きものが出てくるか、などページの隅々まで見て、ゲーム感覚で読んでみるのも楽しいでしょう。
車いすの子や、親のおむかえのおそい子たちの様子も描かれています。これまで生活とは異なる園での生活が親子で学べる絵本です。
「細かな絵を見ながら、親子で会話がはずみます。お仕事に復帰するパパ・ママや入園前のお子様の不安がワクワクに変わるといいなと願っています」。出版元の佼成出版社児童書編集部からは、このようなコメントが寄せられました。
最後は、「子どもたちの優しさ、純粋さに心打たれた」と読者から声が寄せられる絵本『ゾウのともだち フンパーディンク』(ショーン・テイラー 作、クレア・アレクザンダー 絵 、青山 南 訳、マイクロマガジン社)。
舞台は保育園。ある日、新しい子が入園してきました。なんとゾウの子、名前はフンパーディンク。
子どもたちはフンパーディンクと遊ぼうとしますが、うまくいきません。なぜなら、着せ替えごっこをしようとしたら服は小さすぎるし、かくれんぼでは大きすぎて隠れる場所がないのです。あげくに、みんなのすべり台をこわしてしまい、フンパーディンクはしょんぼり。でも、みんなはいいことを思いつきます。
子どもたちは、体が大きくて、みんなとうまく遊べないフンパーディンクとどうすればいっしょに楽しく遊べるか考えます。自分たちと異なる者を排除することなく理解し、受け入れる――そんな子どもたちの柔軟さを描いています。
大人にも読んでもらいたい
この作品には大人は登場しません。保育園の先生も出てこないのです。自然に仲良く遊べるようになる子どもたちの世界には、大人のものの見方や価値観は不要なのです。
マイクロマガジン社こどものほん編集部は、本書の思いを伝えてくれました。「この絵本に出てくる子どもたちの軽やかさ、心の自由さは、われわれ大人がいちばん足りないものなのかもしれません。子どもたちが新たな環境に飛び込んでいくための優しい処方箋、のみならず、多くの大人たちにも読んでほしい絵本です」。
お子さんといっしょに読むときに、「どうしたらうまく遊べるかな」と話しながらページをめくってみてください。お子さんの素直な考えが聞けるのではないでしょうか。読みながら、こんな楽しい園を想像すると入園も楽しみになるでしょう。
子ゾウが表情豊かに、とても愛らしく描かれています。ゾウが好きな子どもは多いと思いますので、小さなお子さんにも楽しめる絵本です。
(中村 文人 : 児童書作家)
02/26 12:00
東洋経済オンライン