育休中の保育園はダメ?「在園可否」自治体リスト

育休中に子どもを預けるのは、親のわがままなのでしょうか(写真:Ushico/PIXTA)

「育休退園」とは、下の子の育児休業を取得すると、上の子が保育園を退園になってしまうルール。年明け早々、岐阜新聞が『「育休退園」上の子も追い出される…なぜ?家で終日2人育児「つらい」 理由は保育士不足』という記事の配信があり、話題になりました。「育休退園」の規定を設ける自治体は減ってはいるものの、岐阜県では16市町村で「育休退園」が行われていました。

記事では、「育休退園」の理不尽さを訴える親の声が紹介されていましたが、コメント欄には「親が家にいるなら家庭で保育するのが当たり前」という意見も多く見られました。

育休中に子どもを預けるのは親のわがままなのでしょうか。

「育休退園」は子育て家庭の大問題

「育休退園」は、主に次の3つの面で子育て家庭に打撃を与えます。

①上の子と生後間もない下の子の面倒を見る負担が大きい。
②育休終了時に2人の子どもを同時入園させることができるかという不安をかかえる。
③上の子が保育者や友だちとの関係から離れ、それまで得ていた遊びの場や機会を失う。

「保育園を考える親の会」は、このような問題点を挙げて、2002年に「育休退園」を問題とする意見を厚生労働省に提出し、2013年に内閣府から意見聴取された際も下の子の育休中の上の子の在園資格を認めるように要望しました。現在、法令には、育児休業取得中にすでに保育を利用している子どもがいて継続利用が必要である場合には、「保育の必要性」を認めると明記されています。

ところが、この「継続利用が必要である場合」という意味があいまいなため、自治体によって運用にバラツキがあるのです。

保育園を考える親の会が、首都圏の主要市区や政令市の100の市区を対象に実施している調査「100都市保育力充実度チェック」によると、2022年4月1日現在での回答自治体の運用は次のようになっていました(区は東京23区)。

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所沢市は過去に保護者から訴訟を起こされている

所沢市は2015年にこの問題で保護者から訴訟を起こされていますが、相変わらず100市区の中で一番厳しい対応をとっています。

表の下に行くほど子育てにやさしい対応になっており、首都圏や大都市部ではいきなり「育休退園」になるケースは少ないことがわかります。

ここでは詳細を割愛していますが、下の子の育休期間にかかわらず2歳以上児クラスは在園可とする朝霞市など、一定年齢クラス以上であれば期間にかかわらず在園可としている自治体も多くあります。また、期間の終了月の入園選考に落ちて待機となった場合には、一定期間延長ができる自治体もあり、さまざまな配慮がされています。

期間や年齢にかかわらず無条件に上の子の在園を認める自治体も100市区中23市区に上っており、全体に条件は緩和される傾向にあるのです。

ただし、「育休退園」はないものと思って安心していたら、思いがけない規定に泣いた人もいるので、注意が必要です。例えば、入園後1年以内に次子の育児休業に入ると退園になる、両親で育休をとった場合は上の子の在園可能期間は1カ月に短縮する、などです。

これらのルールはとても複雑で、特に大きく告知されているわけではないので、知らないうちに落とし穴にはまってしまう人もいます。心配な場合は、入園時に窓口で確認しておくとよいでしょう。

育休中に保育を利用するのは「わがまま」か?

働く親が第2子、第3子を産むことを抑制する「育休退園」などの制度は、少子化対策と矛盾していると思うのですが、世間には「家にいるなら親が見るべき」と考える人も少なくないのも事実です。

それらの意見の中には、時代錯誤や勘違いも多いのではないかと考えます。

① 昔はきょうだいが多くても親が育てていたという時代錯誤

今のように便利ではない時代、きょうだいが多くても、親がすべて面倒見ていたのに、今どきの親は甘えているという意見があります。しかし、時代は大きく変わっています。かつては大家族で家事・子育てを分担していたり、地域で支えあったりできていました。幼児も親の目から離れて外で子どもの群れに混じって遊んでいた時代もありました。

でも今は核家族で、ともすれば「母子カプセル」と言われる孤立した子育てになりがち。地域とのつながりも希薄です。子育て事情はまったく違っています。その窮状が理解されるようになって、今はこれだけ子育て支援が行われるようになっているのです。

② 親が働いていない家庭は自分で見ているという不公平感

専業主婦(夫)家庭からの不公平感はあるでしょう。乳児と年が近い上の子を、核家族で育てるのは本当にたいへんだと思います。現在、一時預かりなどのサービスも普及してきましたが、公平にというのであれば低くそろえるのではなく、専業主婦(夫)家庭の子育て支援を充実させるほうが重要です。

③ 保育士はたいへんなのにという苛立ち

保育士の負担が過重になっていることは確かに問題ですが、それとこれとはまったくの別問題です。「保育士がたいへんなのに、親が家でラクしているのはけしからん」というのは、歪められた敵対関係です。

保育士の仕事は、子ども一人ひとりの人格を尊重し、心身の発達によい環境を提供してその発達を促すことです。社会は、子どもに育つ環境を提供するために、保育園やこども園、幼稚園などを設けて税金を投入しています。そこで保育士の負担が過重になっているとすれば、保育士配置などへの公費投入が不足していることを問題にすべきです。

仮に、親が子どもと十分に向き合えていないのではないかという懸念があったとしても、それは「育休退園」では解決しません。むしろ通園してもらって子育てを支援したほうが子どもの利益になります。ちなみに、育休中の家庭の子どもはお迎えが4時ごろに設定されていますので、保育士にとってはむしろ「助かる利用者」であるはずです。

「待っている方に席を譲ってください」は問題のすり替え

④ 待機児童対策として必要というごまかし

「育休退園」で一時的に空きをつくっても待機児童対策にはなりません。ニーズを把握して保育の枠をふやす責任を負う自治体が「待っている方に席を譲ってください」と言って保護者同士を競合させるのは、問題のすり替えです。いずれにしても待機児童数は減少しているので、今後、このような理由は挙げにくくなるはずです。

こういった意見が出てくる背景に、「子育ては母親の仕事」という母性神話がいまだに息づいていることを感じます。

私たちの生活は、技術の力で便利になっていますが、子育てには、「原始的」(であるが重要)な部分があって、現代社会では負担感の大きい営みになっています。それを育てる親だけに背負わせるのではなく、社会全体で支えていこうというのが、世界的な潮流です。

その有効な手立てが保育です。待機児童が解消してくるのであれば、保育の間口をもっと思い切って広げてよいと思います。多胎児や年子を育てる専業主婦(夫)家庭にも「保育の必要性」を認めてもよいでしょう。育休中の家庭が心おきなく保育を受けられれば、親は安心して下の子のケアができ、上の子は園で発達に必要な環境を得ることができるのです。

こういったことは「異次元」ではありませんが、地道な子育て支援・少子化対策につながると思います。

(普光院 亜紀 : 「保育園を考える親の会」アドバイザー)

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