2023年の米国株価は22年安値を下回る懸念がある

日銀が金融政策の変更を決定。2023年に向けて日米の株価はどうなるのか(写真:ブルームバーグ)

12月14日に行われたFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)における利上げ幅は、予想どおり0.5%となった。だが、2023年の地区連銀総裁を含めた参加者の政策金利の想定は、9月時点から0.5%分引き上げられた。

19名中17名のメンバーが5%を上回るまで、つまり少なくとも0.75%政策金利を引き上げることを見込んでいる。「来年の利上げ到達点は5%以下」との事前の見方もかなり多かったが、ほとんどのFOMCメンバーが5%超の利上げを想定していた。

「高インフレ終了」でもFRBはタカ派姿勢を緩めず

政策金利予想の引き上げ幅は大きかったが、金利上昇の反応は一瞬で、当日金利水準はほとんど動かなかった。FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長は質疑応答で、次の利上げ幅については明言しなかったが、「遅い利上げ」が望ましいことを匂わす発言で、市場には「いよいよ利上げは打ち止めが近い」との期待が高まった。メンバーが強調する利上げ継続や利下げを行わないとの方針を、「ポーズ」とみなしているとみられる。

これは10月の消費者物価コア指数(変動の大きい食品とエネルギーを除いて算出)が前月比で0.3%上昇、11月は同0.2%上昇となり、2カ月連続で前月比での伸びが鈍化、インフレが落ち着く兆しが出てきたことが大きい。筆者も、最近2カ月のインフレの落ち着きはポジティブに評価している。とくに財インフレの価格上昇は、ほぼ止まった可能性が高い。

ただ、2022年央まで過熱しすぎた労働市場において、賃金低下が明確になるにはまだ時間がかかりそうだ。つまり、高インフレが終わっても、賃金が高止まる可能性が残る。

FRBは今後も難しい政策判断に直面するとみられ、5%超までの利上げが実現する可能性は高そうだ。FRBの早期の政策転換を相当織り込んだとみられる最近の長期金利の低下は、やや行きすぎかもしれない。

FRBのタカ派姿勢が確認されたあとに、日本銀行は12月20日の金融政策決定会合で予想外に金融政策を修正した。長短金利の政策目標はそれぞれ維持したが、YCC(イールドカーブコントロール)の運営見直の一環として、ゼロ%をターゲットにした10年国債金利の変動幅を、従来の±0.25%から±0.5%に拡大させた。筆者を含めた多くの市場関係者にとって、予想外の政策見直しだった。

政策変更後に10年物国債金利は0.4%台に上昇しており、「事実上の利上げ」の側面もある。一方、声明文などによれば、今回の措置は「金融緩和の持続性を高める」ことが目的であるとされている。

海外長期金利が大きく上昇する中で、10年金利を0.25%に抑制したためイールドカーブの形状が歪んでいた。「長期金利の価格形成機能が損なわれ、企業の社債発行などに影響する弊害が軽視できなくなった」と判断したとみられる。

つまり、「緩和政策の持続性を高める」ために、イールドカーブの歪みを是正する金利操作の見直しである。この意味では、金融緩和が保たれるということになる。黒田東彦総裁の発言からも「2%インフレの安定的な実現には、まだ時間を要する」との判断は変わっていない。

黒田総裁体制の任期が迫る中で、現行政策の負の部分を是正する意味合いもあったのだろう。これらの説明には、これまでの説明との一貫性が失われた部分もあるが、筆者はある程度筋が通った政策対応だと考えている。サプライズの政策対応ではあるが、それが引締め政策への転換であるかは、別問題だろう。

日銀「マイナス金利解除」のハードルは高い

黒田総裁は記者会見で、「今回の運営見直しは、金融緩和の出口につながらない」と趣旨の発言を述べた。日銀による次の手段は金融引き締めを始める対応で、マイナス金利解除など短期金利の引き上げになるだろう。それには「賃金上昇を伴う2%インフレの安定的な実現が見通せるようになる」が条件になるとみられる。だが筆者は、2023年に世界経済の大幅減速が見込まれる中で、実現するハードルは高いとみている。

もちろん、次期執行部になって政策姿勢が変わる可能性は相応にある。だが、日銀が現在想定する「利上げの条件」が変わらないなら、今回の政策見直しが「金融引き締め・金融緩和の出口」に直結する可能性は高くないように思われる。

ただ、今回のYCC見直しが早期引き締めにつながるとの期待が短期的には高まりやすい。また、執行部交代の思惑で金融政策と政治の関係が注目されてしまうので、さまざまな観測も浮上するだろう。

ドル円市場では、FRBのタカ派姿勢が確認されたことが短期的なドル高の要因になる。だが、今回の日銀の金融政策の修正で、今後の政策対応への不確実性がより高まった、との思惑が揺れ動きそうである。このため、短期的には、円高ドル安圧力が強まるかもしれない。

さて話を、もう一度アメリカ株に転じたい。同国株の代表的なS&P500種指数は2022年初から約19%下落した(12月16日時点)。

2022年を振り返ると、「アメリカ株は『懸念すべき投資先』になりつつある」(1月23日配信)では、同国株について慎重な姿勢を筆者は示した。インフレ警戒姿勢を強めるFRBの政策への懸念が高まるとみたからである。

実際には、FRBによる利上げは歴史的な急ピッチで進んだ。これは、年初時点でのほとんどのエコノミストの想定を超えるペースで、筆者が想定していた利上げペースも同様に甘かったのだが、FRBの政策が引き起こす金利上昇が株式市場の調整要因になる、との相場観は間違っていなかったようだ。

その後、2月以降のウクライナ危機の混乱を経て、同指数は6月中旬までに年初来下落率が約24%までに達した。かなりの調整となったことで、「年末までに底入れを探る」と若干ながら前向きに考えた(「アメリカ株の底入れ時期がようやく見えてきた」、6月26日配信)。

ただ、その判断は時期尚早だった。インフレが鎮静化しないことから慎重な姿勢を再度強め、8月に株価が大きく反発した時点では、下落リスクを再び指摘した(「アメリカの『夏の楽観相場』はいつまで続くのか」、8月19日配信)。同指数は、その後再び年初来安値を下回る水準まで調整した。

FRBの政策対応とインフレへの思惑で株価が下落した1年だったが、アメリカ株は長期金利の変動に沿って動いてきた。先に紹介したように、インフレがやや落ち着く兆しが見られているのはグッドニュースであり、10月中旬から株価が戻しているのは妥当だろう。

とはいえ、短期的には先述のとおり、FRBの政策転換への期待が再び揺らぐ可能性が残っている。今後、債券市場が再び不安定化するリスクは軽視できず、当面の株安要因になりうる。

業績下方修正で2023年の米国株は2022年安値更新も

一方、2023年央には、FRBは利上げ打ち止めに転じるとみられる。利上げの終着点が見えてくれば、株式市場に好意的に受け止められる可能性もある。

それでも、利上げ打ち止めへの期待だけでは、同国株がすぐさま上昇しない可能性がある。金融引き締めの効果はタイムラグを持って、実体経済に悪影響が及ぶためである。利上げの効果が今後、2023年央にかけて強まるリスクがある。

すでに同国の経済成長率は減速している。だが、株式市場で想定されている企業業績は下方修正されているものの今のところ限定的で、足元で起きている景気減速も十分反映していないとみられる。そして、2023年に予想される、経済の大幅な下振れがもたらす企業業績の下方修正が懸念される過程で、2022年10月の年初来安値をうかがいながら再度下落してもおかしくないのではないか。

FRBによる利上げ打ち止め後に、株式市場がどのような推移するかはさまざまな経緯がある。過去を振り返ると、金融引き締めによって景気後退が始まった場合は、景気後退が始まってから株価下落がさらに進むケースが多い。早くても景気後退がはっきりするまで、アメリカ株への投資には引き続き慎重に臨みたいと考えている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(村上 尚己 : エコノミスト)

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