リスク山積、23年も「インフレ高止まり」の現実味

モニターに映るパウエルFRB議長

インフレが高止まりするリスクは米欧以外の国にも山積している

米欧を中心に歴史的な高インフレが続く世界経済。来る2023年はいよいよ景気後退へ突入するとの見方が圧倒的多数だ。

混迷を極める世界はどこへ向かうのか。12月19日発売の『週刊東洋経済』12月24-31日号では「2023年大予測」を特集。世界と日本の政治・経済から、産業・業界、スポーツ・エンタメまで108のテーマについて、今後の展開とベスト・ワーストシナリオを徹底解説する。

焦点はサービス価格と住居費

週刊東洋経済 2022年12/24-12/31【新春合併特大号】(2023年大予測 108のテーマで混沌の時代を完全解明!)

前回記事(12月19日配信)では2022年に大変化が起きた株価や金利、為替に続き、実体経済にはどんな激変が待ち受けているか、そのベスト・ワーストシナリオを解説した。

その記事の末尾では、1970年代のようなスタグフレーション(景気停滞とインフレの共存)という悪夢が再来する可能性ついても触れたが、実際、インフレが高止まりするリスクは山積している。

まず、アメリカの要因がある。現在、アメリカのインフレでは、供給制約による財価格の上昇はピークアウトし、エネルギー価格も下げに転じている。代わってインフレ要因として台頭しているのが、サービス価格と住居費だ。

とりわけ、サービス価格は人件費が大半を占める構造であることから、人手不足を背景とした賃金上昇がジワジワとサービス価格を押し上げる流れができつつある。

そして、その肝心の賃金上昇率だが、足元で前年比6%台(!)という高さだ。賃金上昇率の加速自体は止まったもようだが、アメリカでは、コロナ後に労働市場に復帰しない高齢者が少なくない。

また、若年・中年世代でもより高い賃金を求めて職を変えるケースが後を絶たない。大手IT企業の雇用リストラが相次いで発表されたが、労働需要の減退はまだ限定的とみられている。

賃金形成では、人々の予想インフレ率が大きな影響を与える。アメリカの予想インフレ率(向こう1年)は7%前後で高止まりしており、賃金上昇率が今後、低下に転じるかは予断を許さない状況だ。

資源価格やサプライチェーンも注視

FRBのパウエル議長は11月末の講演で「初期のインフレ率上昇は賃金とは無関係だったが、今後は賃金が重要となる。とくにサービス部門の賃金が重要で、いずれは2%のインフレと一致する必要がある」と強調している。

なお、もう1つの足元のインフレ要因である住居費については注意が必要だろう。利上げによってすでにアメリカの住宅価格は下落に転じた。そのため、ベストシナリオのところで説明したように、住宅価格下落が家賃などに波及する2023年春以降に住居費の上昇はピークアウトするとの見方が多い。

このほか、インフレ高止まりのリスクとしては、ロシア・ウクライナ危機の拡大で化石燃料や食料などの資源価格が再騰することが考えられる。

また、中国のロックダウン(都市封鎖)拡大で工業品など財のグローバル・サプライチェーンの制約問題が再燃するリスクもあり、アメリカ以外での動向は、2022年に引き続き重要だ。

こうした中、12月に入り中国でゼロコロナ政策に対する国民の抗議運動が高まりを見せ、習近平指導部が同政策を緩和したことは朗報だった。これは供給制約不安の緩和、さらには中国経済底上げによる米欧景気後退の下支えと、2重の意味で世界経済にとってプラス材料だ。

以上が、2023年の世界経済見通しの概要だが、最後に近年まれに見る変動を見せてきた金利と為替についても触れておこう。2022年はドル独歩高の形で急激に為替が動いた。その背景にあったのは、アメリカが先行して本格化した利上げだ。

名目長期金利から物価変動の影響を除いたアメリカの実質金利は2022年4月に約2年ぶりにマイナス圏を脱し、その後1.5%前後まで上昇。これは2000年代以来の高水準であり、世界のマネーをドルに引き寄せる原動力となった。

円安「修正基調」でも、その幅は

ただ、2022年秋からは変化の兆しが見られる。アメリカのインフレ率鈍化に端を発し、金融マーケットで利上げの減速が意識され始めたため、他国との金利差の先行き縮小予想からドル高の修正が始まったのだ。

象徴的なのはユーロだ。ドルより遅れて利上げを始めたため、ユーロのほうが物価や金利の先高感が強いほか、天然ガスを含めた資源価格の反落により、ユーロ圏の貿易収支改善も見込まれている。

そのため、足元では着実なユーロ安修正が進み、しばらくはこのトレンドが続くとみられている。

一方、日本円についても過度な円安は修正された。しかし、インバウンド(訪日外国人観光客)受け入れが再開された2022年10月でも、貿易収支は大幅な赤字が続いた。

2023年は、日米金利差の先行き縮小感から円安修正が基調となりそうだが、日本企業の国際競争力低下から、その幅は小さいものにとどまるとの見方が出ている。

(野村 明弘 : 東洋経済 解説部コラムニスト)

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