米国株を左右するFRBの利下げはいつになるのか

株式市場にとっての今後の大きな好材料は、アメリカの金融当局の利下げ。今後、利上げ幅縮小→利上げ終了→利下げはどんな形になるのだろうか(写真:ブルームバーグ)

日本株の足かせとなってきたアメリカ株の下落圧力はなお強い。しかしながら、ここへ来てFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の政策態度がハト派方向に傾斜する兆しが見えてきたことは安心材料だ。むろん、景気の先行きについては下振れリスクが大きく、企業業績に慎重な見方は崩せないが、大きく見れば今後、金融引き締めに対する恐怖感は和らいでいくと期待される。

利上げは5%で終了、利下げは2023年秋以降か

そうした政策態度の変化が明らかになったのは、11月23日に発表された11月FOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)議事要旨(1~2日開催分)だ。

11月FOMC自体は、ジェローム・パウエル議長が記者会見で「ターミナルレート(政策金利の最終到達点)は従来想定していた水準よりも高くなる」と強調したほか、政策金利がターミナルレートで「長く」留まることを強調したことでタカ派的なイベントになった。だが、今回発表された議事要旨を見る限り、FOMC内部のコンセンサスはハト派方向に傾斜しているとみられる。

ここで政策金利の見通しについて結論を先取りすると、次回12月FOMC(13~14日)において利上げ幅は過去4会合の0.75%から0.50%へと縮小する公算が大きい。その後は2023年2月と3月のFOMCにおいてそれぞれ0.25%の利上げが実施され、FF金利(誘導目標レンジ上限)が5.00%に達したところで利上げは終了するだろう。

その頃にFRBは景気減速あるいは景気後退を示すデータに取り囲まれている可能性が高い。もっとも、インフレ率が十分に下がらない中で、利下げに踏み切る可能性は低いとみられ、少なくとも2023年秋頃まで利下げは持ち越しとなるだろう。

11月議事要旨を見る限り、FRBは実体経済の落ち込みを懸念している。議事要旨には、既往の金融引き締めが金利に敏感な住宅市場を直撃しているなどの理由から、広範な経済活動が鈍化していることを懸念する言及があったほか、先行きについても下振れリスクが高まっているとの認識が多く示された。

また、FRBスタッフが提示した景気見通しによれば、来年中にリセッション(景気後退)に陥る可能性は五分五分であるとの記載もあった。アメリカ経済の約7割を占める個人消費については、家計のバランスシートは2020~21年に積み上げられた貯蓄によって、全体としてみれば健全性を維持しているものの、高インフレを受けて低所得層を中心に選択的支出(嗜好品や娯楽など)が減少しているとの指摘があり、先行きに慎重な姿勢が示された。

他方、そうした景気減速にもかかわらず、労働市場は依然として著しく引き締まっているとの認識が示された。最近は離職率の低下(転職活動が鈍化し賃金上昇圧力が低下する兆候)や名目賃金の上昇率鈍化など、労働市場の需給改善を示す兆候がみられているとの言及があったが、一方でヘルスケア、対面型サービス業(飲食・宿泊)、建設業などの人手不足は依然として深刻で賃金上昇圧力がなお強く残存しているとの指摘があった。

そのうえで、失業率は現在の極めて低い水準から小幅に上昇し、人手不足感は緩和していくとの見通しが示された。ちなみにここでいう「失業率の小幅な上昇」がどの程度を念頭に置いているかと言えば、それはFRBが9月FOMCで示した失業率見通しの4.4%程度であると推察される。つまり失業率4.4%までは想定の範囲内ということになり、換言すれば、そこに達するまでは金融政策の引き締めが正当化されるということだろう。

次にインフレ動向については、コモディティー価格の落ち着きとサプライチェーン問題の緩和を受けた財価格の低下がインフレ全体を下押しするとの認識が示されたほか、直近の住宅価格上昇ペースが減速していることに対する言及があった。現在インフレの牽引役となっている「家賃」については、速報性に優れたケース・シラー住宅価格やZillow住宅価格指数などが明確に減速しているため、政府統計(消費者物価指数やPCEデフレータ)における「家賃」が低下するのは時間の問題であるとの認識だ。

また、議事要旨に具体的な記載こそなかったが、これまでインフレ率を押し上げてきた中古車の価格も低下する公算が大きい。先行指標として注目されるマンハイム中古車価格指数は直近値が前年比マイナス10.6%へと落ち込んでおり、これを踏まえると今後のインフレ指標は鈍化していく公算が大きい。

2023年中の利下げ開始の足かせとなる阻害要因とは?

そうした認識の下で、大多数のFOMC参加者は「利上げペース鈍化が間もなく適切になる」との見解を示した。

また「金融引き締めが経済活動や物価に影響を及ぼすタイムラグを考慮する必要がある」「利上げペースの減速は金融システムの不安定化リスクを軽減することになる」といった記載があり、金融引き締めが行きすぎてしまい経済に悪影響を及ぼすことを懸念する言及もあった。

こうしたFOMC議事要旨を見る限り、12月FOMCにおける利上げ幅縮小(0.75%→0.50%)の可能性は高いと判断される。

そうなると市場参加者の焦点は、2023年中に利下げがあるか否かに移行していくだろう。早くも金融緩和を意識している投資家も少なくなさそうだが、その点が、FRBを悩ませ続けている、賃金の異常値的上昇とその背景にある労働参加率の停滞についてその改善が遅々としていることを再認識しておく必要がある。

上述のようにエネルギー価格高騰、サプライチェーン寸断、家賃高騰といったインフレ圧力はかなり低減している一方で、最も厄介な「賃金インフレ」は明確に収まっておらず、長期化する可能性がある。

その主因は人手不足だ。当初、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に労働市場から退出した多くの人は、政府からの手厚い給付が途切れ、資産価格(株式)が下落し、インフレが高止まりすればやむなく復職を選択すると予想されていた。だが、パンデミックを契機に早期退職を決めた55歳以上の人々は現在も頑なに労働市場への復帰を拒んでおり人手不足解消の阻害要因となっている。

労働供給の回復なくして賃金の異常値的上昇が解消するとは考えにくいことから、賃金の異常値的上昇が続く下でサービス物価の上昇圧力が残存し、インフレ率が高止まりする可能性は否定できない。政策金利の終着点は徐々に見えてきたとはいえ、利下げを見込む根拠は現在のところ乏しい。政策金利が高止まりするとの予想が支配的になれば、株式市場の空気は再び悲観的になるだろう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(藤代 宏一 : 第一生命経済研究所 主任エコノミスト)

ジャンルで探す