シャンシャン中国に送るエキスパート集団の正体

シャンシャン

東京・上野動物園で暮らすジャイアントパンダのシャンシャン。2022年10月17日。画像は動画からの切り出し(画像:公益財団法人東京動物園協会)

「覚悟していたはずなのに、涙があふれてきます」「ショックでTwitter閉じた」「何も手につきません」「もう寂しくて仕方ないです」

東京・上野動物園で暮らすジャイアントパンダのシャンシャン(香香)が2023年2月中旬~3月上旬に中国へ旅立つ予定となった。東京都の小池百合子知事が11月18日午後の定例会見でそれを発表すると、インターネット上に悲痛な叫びが相次いだ。

翌11月19日、シャンシャンの観覧列は100分以上の待ち時間を記録した。観覧列に並べるのは通常、午後4時までだが、この日は混雑のため午後3時に締め切った。

シャンシャン中国へ旅立つ

2017年6月12日に生まれたシャンシャンは中国に所有権がある。中国行きは当初、都と中国野生動物保護協会(CWCA)の取り決めで「満24カ月齢時」となっていた。

つまり2019年6月だが、シャンシャンの日本滞在を望む声が多く、期限は2020年12月末に設定された。だがコロナ禍のため、2021年5月末、2021年12月末、2022年6月末、2022年12月末と4回にわたり延期された。

小池都知事の説明によると、今回は、日本側の専門家の渡航制限が解かれたので、中国側と協議して、シャンシャンの中国行きが実現したという。ただし「輸送にかかる手続きの期間を見込み」(小池都知事)、12月末の期限より少し遅くなった。これに伴い、期限は2023年3月末に変更された。

小池百合子都知事

シャンシャンの中国返還時期を発表する小池百合子都知事。2022年11月18日(写真:東京都)

シャンシャンが日本を出る前は上野動物園で検疫をする。検疫期間は1カ月ほどになりそうだ。検疫は室内で行われ、その間も観覧できる見通しだが、動物検疫所との調整が必要なので、現時点でははっきりしない。具体的なシャンシャンの出発日と公開終了日は今後、発表される。

シャンシャンは輸送箱に入って中国へ運ばれる。上野動物園で生まれたパンダが中国へ行くのは、ちょうど30年前の1992年11月13日に北京へ旅立ったユウユウ(悠悠)に次いで2例目。ユウユウが中国へ行ったときの体重は124kg。1972年10月28日にカンカン(康康)とランラン(蘭蘭)が中国から来日した時よりも重く、輸送箱のサイズも大きかった。シャンシャンの輸送箱も、体格に合わせたものになるだろう。

カンカンとランランが入っていた輸送箱

ちょうど50年前の10月28日に中国から来日したカンカンとランランが入っていた輸送箱。2022年10月28日(筆者撮影)

ちなみにカンカンとランランが来日時に使った輸送箱は、塗装など一部を修復して、2022年10月28日から上野動物園で展示している。この日はパンダが初めて日本に来て50年の記念日だ。

定期便かチャーター便か

シャンシャンの行き先は四川省で、候補地は都江堰(とこうえん)、臥龍(がりゅう)、雅安(があん)。都と上野動物園によると、どこになるかは決まっていない。いずれの場所でも、成都の空港に着いて、そこから車で向かうことになる。

シャンシャンが乗る中国行きの飛行機は、直行便が濃厚だ。定期便かチャーター便かは調整中。上野動物園によると、コロナ禍以降、チャーター便で日本から中国に入ることは原則不可能だったが、現在は可能になったという。

成都への定期便はコロナ禍で運休していたが、2022年8月20日から四川航空が運航を再開させた(参照:「成都便再開でパンダ中国行きに現実味も残る課題」)。

在中国日本大使館の調べによると、11月15日時点でも、成都直行便を運航しているのは四川航空だけ。全日本空輸(ANA)などは再開させていない。四川航空は、成都―成田便を週1往復、土曜日に運航している。

和歌山県・アドベンチャーワールドで生まれた3頭のパンダが2017年6月5日に中国へ旅立った際は、同じ飛行機に乗ったファンもいた。現在、中国は観光客の入国を原則認めておらず、この措置が続けばシャンシャンと同じ飛行機に乗るのは難しいが、いずれ会いに行けるだろう。

シャンシャンを中国へ送り届ける業務は、2020年10月2日の入札で阪急阪神エクスプレスが手がけると決まった。同社は50年前のパンダ初来日以来、上野動物園と神戸市立王子動物園のすべてのパンダの輸出入にかかわっているエキスパートだ。

2020年時点の業務内容は、①上野動物園から成田空港までの陸上輸送、②成田空港での通関事務、③空港貨物エリアでの動物園関係者による動物確認のアレンジ、④成田空港から成都の空港までの航空輸送手配、⑤成都の空港(もしくは上海の空港)での通関事務、⑥成都の空港でのパンダの受け渡しのアレンジ――などとなっていた。

「上海」とあるのは、成都直行便が再開されなければ、上海で乗り継ぐ予定だったためだ。これには当時、「シャンシャンのために直行便で行かせてあげて」という要望がファンから上がった。

上野動物園を運営する東京動物園協会によると、2023年2~3月のシャンシャンの中国行きも阪急阪神エクスプレスが手がける。2020年の入札における同社の落札額は181万3912円(税抜き)だったが、その後の燃油高騰などを踏まえ、金額は変更する。

上野動物園からシャンシャンに同行する専門家は飼育係か獣医師、あるいはその両者と見られるが、現時点では未定だ。中国到着後は、ワクチン接種歴に関係なく、指定施設で隔離となる。隔離期間は2020年の14日間から段階的に短縮され、現在は「5日間+自宅隔離3日間」とされる。

仮に、この条件のまま例外が適用されなければ、シャンシャンに同行した専門家は、直行便なら成都、乗り継ぎ便なら乗り継ぎ地で隔離される。シャンシャンとは離れ離れになり、飼育施設まで同行できない。その場合、上野動物園の専門家は、日本から同行する人とは別の人が、シャンシャンより早く中国に入国しておくという方法もありうる。

カタールに来たパンダは四川方言に反応

上野動物園の動画で「ちょっと繊細なところのあるパンダ」と紹介されているシャンシャン。果たして中国での新居や飼育係に馴染めるだろうか。シャンシャンは上野動物園の東園パンダ舎で暮らしているが、2022年7月4日に初めて引越しを経験した(参照:『上野の「シャンシャン」初の引越しを追ってみた』)。

このときは、人間の足で徒歩10分ほどの西園パンダ舎へ移り、7月11日に東園へ戻った。するとエサを食べる量が減った。物音に反応して食べるのをやめることもあり、落ち着かない状況が続いた。

上野動物園は、移動に加え、西園パンダ舎での慣れない生活の影響があると判断。7月20日からの公開再開を延期した。その後、移動前の生活リズムをおおむね取り戻したことから、8月2日に公開を再開した。

中国に着いたら、最初は言葉にも違和感を覚えるかもしれない。2022年10月に四川省からカタールへ来たパンダは、四川省の方言で呼ばれると、遠くにいたのに、すぐやって来た。

現在、上野動物園のジャイアントパンダの飼育係は8人、獣医師(パンダ以外も担当)は4人。人手のやり繰りが難しいかもしれないが、シャンシャンが中国に慣れるまで、しばらく現地にとどまる人もいるかもしれない。シャンシャンが落ち着けるように、上野動物園で愛用している竹筒などの遊具を中国へ一緒に持って行く可能性もある。

こうしたさまざまな手続きを経てでも、シャンシャンを中国へ行かせるのは、繁殖のためだ。パンダは絶滅の危険があるなか、近親交配を避けて、遺伝子の多様性を保ちながら繁殖する必要がある。ふさわしい相手は、血統のデータによって、ある程度絞れる。ただ、データではわからない好みや相性もあるので、パンダが多い中国へ行くほうがいいというわけだ。

パンダが繁殖できるようになる性成熟の年齢は、一般的に雌は4~5歳、雄は6~7歳とされる。シャンシャンは雌で現在5歳だ。上野動物園によると、シャンシャンが性成熟したことは、11月18日時点で確認されていない。

パンダの繁殖期は一般的に年1回、2~5月頃。1回の繁殖期に1回発情し、1~3日だけ交尾・受精できる。実際、上野動物園のシンシン(真真)は、2017年2月27日にリーリー(力力)と交尾して6月12日にシャンシャンを生み、2021年3月6日に交尾して6月23日に双子のシャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)を生んだ。

シャンシャンの弟、シャオシャオは上野動物園の西園パンダ舎にいる。2022年10月28日(筆者撮影)

シャンシャンも2023年2月以降に発情期特有の行動を示して、性成熟を確認できるかもしれない。2月中旬~3月上旬なら、ちょうど中国行きの時期と重なる可能性がある。

シャンシャンにお婿さんを迎えるアイデア

それでは、シャンシャンが中国へ行かずに繁殖できる方法はないのだろうか。上野観光連盟の二木忠男名誉会長は、2022年10月に開催された「うえのパンダフェスタ」で、上野動物園の福田豊園長らとのトークショー後、「難題だらけだとは思いますが、シャンシャンのお婿さんを見つけて、上野でお母さんになってほしいという夢を描いています」と語った。

中国からお婿さんが来たとしても、シャンシャンと相性が良いとは限らず、確かに難題だ。しかも、基本的にシャンシャンの繁殖方針を決めるのは所有権のある中国側なので、シャンシャンのお婿さんの受け入れはハードルが非常に高い。

ほかには、人工授精という方法がある。1980年代に中国から上野動物園に来たホァンホァン(歓歓)とフェイフェイ(飛飛)は相性が悪く、人工授精で3頭の子どもをもうけた。

人工授精の「相手」は、同じ動物園のパンダに限らない。アメリカやカナダの動物園は、中国やアメリカの他の動物園にいるパンダの精子を使って、人工授精をしたことがある。ただ、これら人工授精をしたパンダは、いずれも中国から来たパンダなので、中国国外で生まれたシャンシャンと条件が異なる。

しかも人工授精は麻酔を使うため、体に負担がかかり、危険も伴う。現在、上野動物園は動物本来の姿である自然交配を目指している。シャンシャンは同園において、自然交配で生まれ、順調に育った初めてのパンダだ。

オランダやマレーシアのパンダも渡航か

シャンシャンが去ったら、東園パンダ舎からパンダがいなくなる。西園にいる双子(シャンシャンの弟妹)は、親離れしても、東園に移る予定はない。東園パンダ舎は、いずれ取り壊して活用することになるだろうが、どう再整備をしていくかは今後、都が検討する。シャンシャンが愛用しているハンモックや寝台の扱いも気になるところだ。

ガラスに貼られた好物のリンゴをつかむシャンシャン。この部屋で過ごすのはあと数カ月。2022年10月17日。画像は動画からの切り出し(画像:公益財団法人東京動物園協会)

コロナ禍で中国行きが延びていると見られるパンダは、オランダやベルギー、マレーシアなどにもいる。シャンシャンが中国へ行くメドがついたことで、ほかのパンダの中国行きも動き出す可能性がある。

アドベンチャーワールドは、パンダの中国行きについて明らかにしていないが、2022年12月2日で8歳になる雌の桜浜(おうひん)と桃浜(とうひん)、9月18日で6歳になった雌の結浜(ゆいひん)は、シャンシャンより年上だ。王子動物園の雌のタンタン(旦旦)は繁殖目的ではないが、2022年12月末に中国行きの期限を迎える。タンタンは高齢で病気を患っているため、同園は今後の日程調整を含め協議中だ。

コロナ禍が世界に広まってから渡航したパンダは、2020年11月にカナダから中国へ渡った2頭と、2022年10月に中国からカタールへ渡った2頭のみで、4頭とも中国生まれ。シャンシャンは、中国国外で生まれて、コロナ禍に渡航するパンダのトップバッターになる可能性がある。旅立つシャンシャンの健やかな成長と幸せを願いたい。

(中川 美帆 : パンダジャーナリスト)

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