カタールW杯、仏で「観戦イベント不開催」相次ぐ訳

アル・トゥマーマ・スタジアム

カタールW杯で使用されるアル・トゥマーマ・スタジアム(写真:ブルームバーグ)

中東カタールで11月20日から開催されるサッカーのワールドカップ(W杯)に対して、フランスが批判の声を上げている。街頭などに設置された大型スクリーンで観戦するパブリックビューイングを行わないことを決めた都市が相次いでいるのだ。

パリ市は今回、公園や広場にパブリックビューイングのために巨大スクリーンと音響設備、さらに仮設の観客席を設置しないことを明らかにした。これまではパリ4区にあるセーヌ川に面したパリ市庁舎前の広場やエッフェル塔の横にあるシャン・ド・マルス公園に設置されていた。

リヨンやマルセイユ、ボルドーなども見送り

フランス第2の都市リヨンも10月5日朝、パブリックビューイング会場の設置を市として行わないことを発表。リヨン市のグレゴリー・デュセ市長は、W杯が世界的イベントとして重要なことは認めつつも、カタールのW杯のために「1ユーロも市の予算は使わない」(デュセ市長)と言明した。

またマルセイユ、ボルドー、ストラスブール、ランスなどもパブリックビューイングの会場設置を見送ることを決めた。ニース、カンヌ、ペルピニャンなどの都市は、フランスチームの結果に応じて決定するとしている。

パブリックビューイングを行わない都市が相次ぐ理由の1つは、人権問題だ。カタールではW杯会場や宿泊施設、交通インフラなどの建設で、アジア地域からの多数の労働者が過酷な環境での労働を強いられ、死者も出ていることが報じられ、問題視されている。

カタールで死亡が伝えられたネパール人のカシラム・ベルバシさんは、W杯のための日系企業も関与する地下鉄整備工事で出稼ぎに来て死亡した。ベラシムさんは窓のない暗い部屋で労働者8人が詰め込まれ、部屋で呼吸不全のため亡くなった。死因は明らかにされていないが、少なくとも朝4時半に起床し、朝6時から夕方6時まで働き、過酷な労働環境、劣悪な生活環境が死につながったとみられる。

今年8月時点のイギリスのガーディアン紙の情報によると、カタールが2010年にW杯の招致を勝ち取って以来、2021年2月時点でインド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカから来ていた出稼ぎ労働者のうち6500人もがカタールで死亡したという。

これに対し、カタール政府は、W杯関連の工事での死亡者かどうか判別できないと反論し、長年カタールに住む外国人の高齢死亡も含まれるとしている。政府が運営する医療機関への独自調査によると、W杯建設プロジェクトで2021年の1年間で50人の外国人労働者が死亡し、500人以上が重傷を負い、3万7600人が軽度から中程度のけがをしたという。

ただ、イギリスBBCアラビア語放送は、カタール政府が外国人労働者の死亡を過少報告している証拠を持っていると報じている。

いずれにしても、W杯のメインスタジアム建設だけで3万人の外国人が雇用され、劣悪な環境で過重労働を強いられているという。数週間前には、建設を手がける首都ドーハにあるアル・バンダリー・インターナショナル・グループの本社前で給与未払いなどに抗議してデモが行われた。政府当局は、治安を不安定化させたとして暴動鎮圧を理由に抗議への参加者数人を逮捕している。

人権問題には非常に敏感なフランス

そもそもフランスは人権問題、とくに平等意識には非常に敏感だ。過去には植民地の人々を奴隷化した反省から、アジアの貧困国から出稼ぎに来た労働者を酷使することには嫌悪感を抱いている。

この問題では政治的に右派から左派まで同じ問題意識を共有しており、最初にカタールW杯のパブリックビューイングの中止を表明したのは、左派の大物政治家であるフランス北西部リール市のオブリ市長だったが、右派の市長たちもオブリ氏に続いた形となった。

フランスがカタールを問題視する点はほかにもある。カタールは、イスラム教の国としてはリベラルなほうとはいえ、公衆の面前でのアルコール類の飲酒が禁じられているほか、同性愛は違法であり、厳格な反LGBTQ+も存在する。

今年7月に開催された世界経済フォーラム(WEF)が発表した2022年の男女平等度を示す「ジェンダーギャップ指数」でカタールの総合ランキングは146カ国中137位。カタールのW杯開催を嫌悪するフランス人からは、「男女平等などで人権問題を抱える国で、改善の意思もないままに開催を認めたことが問題だ。私は観戦しない」という批判の声も上がっている。

なおカタール政府は、どんな性的嗜好があっても入国でき、観戦もできるとしている。試合中に同性愛者を表すレインボーフラッグの使用もFIFAの規定に従うという。反LGBTQ+法の廃止を主張する過激な抗議行動を警戒しており、社会秩序を乱すことを極力避けたい意向だ。

スタジアムの冷房による膨大なエネルギー消費も懸念

人権問題やジェンダー問題だけでなく、地球温暖化対策でも中東でのW杯開催は問題視されている。そもそもカタールW杯は異例だ。W杯は従来、夏に開催されていたが、酷暑を避けるために今回は冬に開催される。さらに暑さ対策のために、各スタジアムには冷房システムを導入しているが、それが膨大なエネルギーを消費すると指摘されている。

W杯を主催するFIFAは、カタールW杯を史上初となるカーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量の相殺)を目指す大会としている。

だが、欧州の非営利団体(NGO)カーボン・マーケット・ウォッチ(CMW)によると、主催者の計算からは温室効果ガスの排出量が省略されていると指摘した。また、脱炭素化を達成できない場合に適応される、他の温室効果ガス活動に投資するカーボン・オフセットの仕組みも脆弱だと懸念を表明した。

カタールに行かないことを決めているサッカー元選手は少なくない。

現役時代にドイツ代表の主将を務め、ワールドカップ優勝に導いたフィリップ・ラーム氏は、カタール入りをボイコットすることを明らかにした。その理由について、フランスのスポーツ紙『レキップ』のインタビューで「小さな国の小さな空間に8つもの最先端のスタジアムが存在するなんて、サステイナブルであるわけがない。それに、フットボールの雰囲気もあるはずがない」と述べた。

フランスだけでなく、世界中からさまざまな批判があるカタールW杯。ただ、主催国であるカタールはオイルマネーを背景に、そうした批判を物ともしない勢いで、開催に突き進んでいる。

(安部 雅延 : 国際ジャーナリスト(フランス在住))

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