ザッカーバーグでも話題「メタバース建築」の課題

左・フランスとスペインでメタバースサービスをローンチしたことを伝える投稿。右・解像度はもっと高いということをアピールする投稿(画像:マーク・ザッカーバーグのFacebook投稿をキャプチャー)

8月16日、Metaのマーク・ザッカーバーグのFacebook投稿が話題となった。

「今日フランスとスペインでHorizon Worldsを開始します!」

Horizon Worldsとは、2021年の1年間に100億ドル(約1兆4400億円)を投資して公開されたザッカーバーグ肝いりのメタバース。仮想空間内で他のユーザーとアバター姿で会って話し、肩を並べてスポーツの試合や音楽ライブが見られるソーシャルVRサービスだ。テキストベースのFacebookやTwitter、写真ベースのInstagram、動画ベースのTikTokの次世代を担うSNSとして注目されている。

高解像なアバターの姿を公開

しかし多くの資金を投入しながらもその見栄えは拙いもの。うっすらと笑みをたたえたザッカーバーグのアバターの後ろにエッフェル塔とサグラダ・ファミリアらしき建物がぽつんと置かれているだけ。3D CGを習いたての練習作品といえるかのようなビジュアルに、世界中の人々が失笑した。100億ドルをかけて作られてきたメタバースがこのクオリティなのか、と。

そういった声にザッカーバーグは対応。「Horizonのグラフィックはもっとハイクオリティです」といったコメントと共に、クオリティの高い石造りのテラスと、高解像なアバターの姿を公開した。

Horizon Worldsはレゴブロックやマインクラフトのように、誰もが手軽に自分の部屋や家、街などの空間を作るクラフト機能を備えている。8月16日にザッカーバーグが投稿した3D CGモデルを置いただけの画像は、工夫がなくあまりにもシンプルな見栄えから、そのクラフト機能の存在をアピールしたものだと考えられる(もしかしたらザッカーバーグ本人の習作だったのかもしれない)が、SNSの悪ノリも相って悪目立ちしてしまった。

そんなメタバース界隈で、最近1つのムーブメントが起きている。メタバース内の建物や街並み、イベント会場の設計・建築や、現実にある建物を再現する企業が増えているのだ。

サイバーエージェントは建築家・デザイナーの隈研吾氏を顧問とするMetaverse Architecture Lab(メタバースアーキテクチャラボ)を設立。3Dデジタルアーカイブプロジェクトは、昭和時代から銀座のランドマークといえた中銀カプセルタワービル(現在解体中)をメタバース内に再現。他にも仮想住宅展示場を開設した建築会社や、メタバース時代の都市設計をテーマとしたカンファレンスが開催されている。

バーチャル空間内に再現された中銀カプセルタワービル(藤原龍さん制作)。ソーシャルVRサービスのVRChat/clusterから入ることができる(筆者撮影)

建材の不足や高騰も関係ない

建築デザイナーは3D CGを用いて、建築物の外観や内観をさまざまな方角から見て確認できる建築パースを制作する。建売住宅やマンションなど一般販売される建築物は、3D CGの建築パースをチラシに掲載するなど宣伝目的で使うこともあり、美しい見た目はそのまま建物という商品の訴求力となる。また一部のメタバースは3D CGソフトとUnityなどのゲーム制作ツールを用いて仮想空間を作り上げるが、ゲーム制作ツールの知識を持てば、建築デザイナーはすぐにでもメタバース建築を手掛けられるようになる。なかには特定のメタバース向けのデータが作りやすい、建築設計用の3D CGソフトもある。

建築のプロフェッショナルが関わっているからこそ、メタバース内でも完成度の高い建物や、街並みが設計できる。しかも重力や建材の強度など物理法則に囚われる現実世界と異なり、自分が想像した理想の形状や機能性をもった建物を仮想空間内に構築することが可能だ。建材の不足や高騰も関係ない。デジタルの技術力次第で、ザハ・ハディド氏が考案した新国立競技場を超える規模・デザインの建築物が作れる。

しかし実際のところ、現実世界における建築のプロフェッショナルが作ったメタバース建築は、美しいけれども居心地がいいと思える空間になるのか、という疑問がある。

大人と子どもでは目の高さが違う。手の届く範囲が違う。大人が調理をするために作られたキッチンは子どもの身体では高すぎて、ステップスツールなどがなければ水を出すことすら困難だ。日本の家庭のキッチンの高さと、アメリカの家庭のキッチンの高さも異なる。身長が高い人が多いアメリカのほうが、日本よりも高くなっている。

身長差による使いやすさ、使いにくさはメタバースの中でも起きうる問題だ。実際にとある建築会社がメタバース内に作った建物に訪れたが、見た目は綺麗なものの圧迫感があるし同行した友人たちと話しにくいという印象を受けた。

世界中のユーザーにとって快適な環境とは

国産メタバースのclusterは基準となるアバターがある。そのアバターの身長はだいたい160cmくらいだ。日本人の平均身長と大きくかけ離れてはいないため、cluster内に建物を設置するなら日本人向けのリアルな建築物と同じ感覚で設計しても大丈夫。しかし、アメリカの企業が開発し、VRメタバースとしては一廉の存在となっているVRChatの場合は話が変わる。初期段階から選べるアバターからして子どもサイズから海外の大人サイズまで揃っており平均身長というのが見極めにくく、グローバルユーザーにとって快適な環境を作るのが難しい。

日本人のVRChatユーザーに使ってもらうという目的であれば、ある程度は基準化が可能だ。というのも120cm前後の、身長が低いアバターを好むユーザーが多いためだ。そのためリアルなスケール感の建築物なり乗り物だと周囲が見渡しにくいし、機能的な部分も使いにくい。

問題となるのはアバターの身長に合わせた建物のスケール感だけではない。日産自動車のバーチャルショールームの設計・モデリングや、兵庫県養父市の明延鉱山の坑道跡をメタバースで再現した株式会社タナベ代表取締役のVR蕎麦屋タナベさんによれば、リアリティを追求するとメタバースのなかでは使いにくくなるケースもあるとのことだ。

例えばメタバースの中にVRヘッドセットを用いて入り込むと、手前に引くドアを開けて移動するときにスムースにいかないことがある。現実世界でドアを開けるときは腕だけではなく自然と身体が横に動いてスッと入ることができるが、視界の狭いVRヘッドセットではどれくらいドアが開いたかを把握しにくいし、ドアが自分に向かって飛んできたように見えるので強い圧迫感を覚える。

「ドアを開くといったギミックの部分はゲーム的というか、操作して気持ち良いと感じるようにディフォルメしたほうがいいと考えています」(VR蕎麦屋タナベさん)

VRChat内で開催されたイベントで乗ることができたハローキティ関空特急はるか(281系)。身長175cm相当の左の男性アバターだと乗車口などで頭がつかえる(実際にはすり抜ける)が、身長の低いアバターでも流れる車窓が見やすい縮尺で作られていた(筆者撮影)

リアルとは違うことを知るのが重要

また既存のメタバースは、同席している他のアバターの声が聞き取りやすいような音響設計がされている。10人くらいが輪になって会話をしていても全員の声が聴き取りやすい反面、少し離れた位置にいるアバターの喋り声も聴こえてくる。そのため、狭い場所では雑談がしにくいというウィークポイントがある。

VRChatにて、ディスコとして使えるライブスペースを作った3DワールドクリエイターのMazzn1987さんによれば、会話をしやすい環境とするには広いスペースが必要とのことだ。広い空間のなかにぽつん、ぽつんと会話の輪がある状態は一見すると閑散とした印象を受けるかもしれないが、その場を楽しんでいるアバターにとっては話しやすいと感じる空間になる。

「私がワールドを制作するときはBGMがバランス良く聞こえる場所、BGMの高音を控えめにして会話しやすくなる場所など、空間音響を意識して設計します」(Mazzn1987さん)

メタバースにおける建築は、現実の物理現象にとらわれずに済むゆえに自由な設計ができる、と記したが、メタバース内における状況を加味したうえでドアの動き方や音の伝わり方なども追求することで、居心地良い仮想空間を作り上げることができる。作品展示だけが目的ではなく、数多くのユーザーにリピーターになってもらうという目的があるならば、仮想空間内でのコミュニケーションのしやすさを理解する必要がある、というわけだ。

(武者 良太 : フリーライター)

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