マンション節税、これ以上はアウトかセーフか

タワーマンション含め、はやりのマンション節税は、雲行きが一転して危うくなった(写真と本文は関係ありません)(写真:たっきー / PIXTA)

2022年4月19日。多くの人に注目されていた、ある不動産評価に関わる訴訟で最高裁判所が判決を下した。

争われたのは被相続人(親)が亡くなる数年前に、賃貸マンションを購入した相続税申告の案件だ。相続人(子)による一般的な手法である路線価などに基づく評価を「低過ぎる」とし、国税当局は伝家の宝刀とされる”例外規定”によって覆し、相続人に対して約3億3000万円の追徴課税を課したのである。この処分の取り消しを求めた訴訟において、最高裁は、国税当局の処分が「適法」との判決を下したのである。

対象となったのは、東京都杉並区と神奈川県川崎市にある、2棟の賃貸マンション。結果的に、相続財産であるマンションの評価額について、路線価などに基づく財産評価基本通達の評価額(以下、「通達評価」)が否認され、国税当局による独自の不動産鑑定の評価額(以下、「鑑定評価」)に基づく処分が認められた。この事実に関係者が衝撃を受けたのは言うまでもない。

8月8日に発売された『週刊東洋経済』8月13日-20号では「変わる相続」を特集。マンション節税の個別事例や生前贈与の行方、相続登記で気を付けるべき点などについて取り上げている。

90歳でマンションを購入、94歳で死亡・相続

ここで今回の案件における骨格や経緯を整理しておきたい。

①2009年に90歳の被相続人(親)は、賃貸マンション2棟を、合計13億8700万円で購入。購入資金の大部分は大手信託銀行からの借入金で10億0800万円を調達した。

②2012年に被相続人が94歳で死亡後、相続人(子)が申告した不動産評価は、2物件で3億3370万円、その他の財産は6億円超である。

③借入金残高は10億円弱で、相続した資産を債務と相殺。相続税をゼロ円と申告したのである。

なぜ、死亡(相続)の数年前に13億円強で購入した不動産に対し、相続後、申告上の評価額が3億円強と、購入金額の4分の1程度に下がったか。

土地の価格は主に、路線価(国税庁)、公示地価(国)、基準地価(都道府県)などに分かれている。いずれも実際に取引された実勢価格(時価)とは異なる。

相続税法上、財産の価額は時価(第三者間取引で成立する価格)で評価すると規定されているが、実際に時価を把握するのは困難だ。ゆえに国税庁は財産評価の一般的な基準を「財産評価基本通達」で定めている。この通達評価は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額をベースに、評価することが定められている。

土地の通達評価の基となる路線価は、時価の80%をメドに設定され、賃貸建物の敷地は借家人の権利分としてさらに20%程度控除される。つまり賃貸建物の敷地は、おおむね時価の65%程度と考えればよい。また建物の通達評価の基となる固定資産税評価額は、一般的には建築価格の50~70%程度の水準。賃貸建物はさらに30%減とされるので、建築価格の30~50%程度の金額となる。

ちなみにタワーマンションでは、1戸当たりの土地面積が小さく、建物の割合が大きいため、通達評価が購入金額の20~30%程度となる物件が多い。近年のタワマン投資による相続税の節税は、この購入金額と通達評価の乖離を利用したものだ。

今回の相続人による通達評価は、相続発生時の時価に近い鑑定評価の26%程度の水準だったが、特別に乖離率が大きい物件ではない。

だが、国税当局は、国税庁の定めた路線価などに基づく通達評価を覆した。4倍の水準である鑑定評価であるべきとして、相続税を再計算し、追徴課税をしたのだ。財産評価基本通達の総則第6項には例外規定が設けられており、「通達評価が著しく不適当」と認められるとき、例外的な評価をできる扱いとなっているためである。

目的が「相続対策」、結果が「税負担大幅減」

それならどのような場合、通達評価が著しく不適当とされるのか。

判決では税負担の公平性による説明がなされた。税法には平等原則があり、同様の状況にあるものは同様に取り扱われるべき、というものだ。

確かに、特定の納税者だけに通達評価と異なる評価を適用することは、平等原則に反する。しかし、「相続税の軽減を意図した行為」によって「税負担が著しく軽減」する場合はどうか。そこでは、形式的に通達評価をするほうが、納税者間の税負担の公平性に反するために通達評価が著しく不適当と判断され、例外規定の適用が認められるという考え方なのだ。

判決では以下の理由から、通達評価が著しく不適当と判断され、例外規定の適用が認められた。

・証拠として提出された銀行借入の貸出稟議書に「相続対策のため不動産購入を計画」と記載されており、90代の父による賃貸マンションの取得が近い将来発生する「相続税の軽減を意図して行ったもの」である。

・本来、相続財産が6億円超で相続税は3億円弱であったはずのものが、この2棟を購入したことによって相続税はゼロとなり、「税負担は著しく軽減」されている。

なお今回の判決では、通達評価と鑑定評価に大きな乖離があるが、それだけで例外規定は認められない、とも指摘された。税負担の著しい軽減に加え、相続税対策という意図も併せ、両方が必要とされるからだ。

この例外規定が適用される条件に対しては、抽象的であり、明確な基準はまだ示されていない。そこで今後の不動産投資で疑問になる点について、私見ではあるが、問答形式で説明しておきたい。

質問1:判決で決め手になった「相続税対策が目的」とはどんなときに当てはまるのか。

答1:ダメなのは「相続税の軽減を主たる目的で行っている」ことだ。裏返せば、不動産の取得が、自宅としての利用や不動産賃貸を含む事業での利用など、経済合理性があり、副次的に相続税の軽減につながるケースは、原則として該当しないと考えられる。

質問2:不動産の購入金額の大小は影響してくるか。

答2:不動産の購入金額は直接関係ない。ただし、購入金額と通達評価の乖離は、一般的に購入金額に比例して大きくなる。被相続人の資産に比べて不相当に大きな金額の投資は、「相続税対策が目的」とみなされやすくなる恐れがあり、注意が必要だ。

質問3:不動産投資をする被相続人の年齢は関係するか。

答3:例えば、高齢者が賃貸収益を得る目的のために、不動産投資をした後で、不幸にも短期間で死亡したとしよう。結果的に、その人は賃貸収益を十分に得られないまま、亡くなったことになる。そのため「相続税対策」を目的としていたのではないか、と税務署にみなされやすくなる可能性がある。

質問4: 銀行借入で不動産投資する際に気をつけるべき点はあるか。

答4:不動産の購入資金は自己資金でも銀行借入でも、不動産の通達評価に与える影響は同じだ。ただし、全額借入など借入金の割合が大きいと、当初は不動産の「通達評価-借入額」がマイナスで、相続税計算上、固有の財産額から控除される。ケース次第では、「税負担の著しい軽減」とみなされやすかったり、高齢者の借入期間が平均余命より明らかに長かったりする場合、購入目的に経済合理性は認めづらい。

過度な不動産節税に警鐘を鳴らした司法

最後に、財産を所有している高齢者が事業の拡大や将来の遺産分割を視野に、不動産の売買で資産の組み替えを行うことはある。その際、相続税のことを考慮に入れて検討を行うのは、一般的なことだ。

最高裁の判決は、過度な不動産節税に警鐘を鳴らしたもの。今後、特に高齢者が相続税の軽減を考慮に入れて不動産投資を行う場合、より慎重な判断が必要である。

(清三津 裕三 : 税理士法人山田&パートナーズ パートナー、税理士)

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