新大久保で「ガチ中華」が存在感を高めているワケ

新大久保のガチ中華

コリアンタウンとして名高い新大久保では、中国料理を楽しむこともできる(写真:筆者撮影)

コスメやアイドルのグッズショップが軒を連ねる、新大久保駅から大久保通り沿いのコリアンタウンエリア。週末になると若い女性を中心に多くの人々で賑わっている。

通りにあるレストランや露店に目を向けると、チーズハットグや、サムギョプサル、チキンなど、韓国ドラマで注目を集め、日本でもブームとなった食べ物が並んでいる。

そんな新大久保の街中で時折見かけるのが、中国語と韓国語が併記されている店だ。

北朝鮮と接する中国の吉林省には、少数民族である朝鮮族が多く暮らしている。中国語と韓国語を両方表記している店の多くは、朝鮮族が経営する店だ。

これらのお店では、羊肉串(羊肉の串焼き)、鍋包肉(酢豚)などの本格的な中国料理に加え、冷麺やスンデ(豚の腸詰め)などの朝鮮半島の料理も提供している。

新大久保の街並み

新大久保の街並み。中国語表記のお店も目立つ(写真:筆者撮影)

中でも羊肉串は韓国ではやったことで、日本人の若者の間でも認知度を高めつつある。

羊肉串はKPOPアイドルの発言で注目される

韓国でもBTSの発言で知名度がアップ

中国全土でよく食べられている羊肉串(写真:筆者撮影)

羊肉串を出す店は、中国全土で見られる。とくに多いのが吉林省など中国東北部や、新疆ウイグル自治区だ。では、韓国ではどう広まっていったのか。

元々は吉林省に住む朝鮮族が、出稼ぎで韓国に渡って羊肉串の店を開き、現地に住む朝鮮族向けに営業していた。それを地元のテレビ番組などが取り上げたことで、韓国人の間でも広まっていった。

筆者は韓国好きの友人から「ヤンコチ(韓国語で羊肉串)を食べに行こう」と2年前に言われ、韓国でも人気があることを知った。

韓国のアイドルグループ、BTSのメンバーが、2016年にテレビ番組の中で「ヤンコチの店をやりたい」と発言したことで、日本の若者の間でも注目されるようになったようだ。

東京でも池袋や上野など中国人が多く暮らす地域で、朝鮮族が開いている羊肉串の店をよく見かけるが、新大久保でも4店舗見つけた。

大久保通り沿いにある「金達菜」や、職安通り沿いにある「阿里香」はいずれも朝鮮族が経営する店だ。

金達菜ではサムギョプサルやチーズタッカルビなどの韓国料理から、羊肉串などの中国料理も食べられる。店の前の看板には「BTSも絶賛!!ヤンコチ羊肉串」や「韓国の人気アイドルグループも大好きな羊肉串」と書かれていた。

お店には中国人や日本人も訪れる

サムギョプサルなどとともに羊肉串も(写真:筆者撮影

「阿里香」は羊肉串が看板メニューで、卓上で串がくるくると回る自動串焼き機で羊肉串を焼くことができる。店長の金さんによればいちばん多い客層は韓国人、次いで中国人、日本人だという。筆者が訪れた際にも韓国人の客を何組か見かけた。

インスタント麺も販売されている

舌がしびれるような辛さの薬膳スープに好きな具材を入れて食べる麻辣燙(マーラータン)も、数年前に韓国ではやった中国料理の1つだ。筆者が2020年に韓国を訪れた際にソウルの街中に麻辣燙の店が多くあり、驚いた記憶がある。

実は韓国好きの日本人の間では中国料理としてではなく、「韓国ではやっている辛い食べ物」というくくりの中で麻辣燙が認知されているようだ。「韓国ではやっている麻辣燙が日本でも食べられる!」という麻辣燙紹介ブログも多数書かれている。

韓国ではインスタント麺やカップ麺の麻辣燙も販売されていて、新大久保でも一時期、麻辣燙麺という麻辣燙のインスタント麺が販売されていたようだ。今回、新大久保の韓国スーパーを何店舗かのぞいてみたところ、麻辣燙麺は見つからなかったが、少林麻辣麺を見つけた。

カップ麺なども売られている

新大久保のスーパーで売られている少林麻辣麺(写真:筆者撮影)

新大久保にも麻辣燙を出す店がいくつかある。大久保通り沿いにある「延吉香」は韓国料理店が並ぶ中で、中国語で書かれた赤い看板が異彩を放つ、中国料理店だ。

ここも朝鮮族が経営する店で、吉林省の代表的な料理のほか、麻辣燙も提供している。店の外ガラスには、写真とともに中国語に加えて麻辣燙の韓国語も併記されていた。

新大久保には専門店もいくつかある

お店で味わえる麻辣燙(写真:筆者撮影)

同店の店員によれば、メインの客層は中国人だが、韓国人や日本人が来店して麻辣燙を頼むケースも多いという。筆者も同店で麻辣燙を頼んでみたが、トマトベースの麻辣スープが特徴的で美味しかった。

新大久保にはこのほか、薬膳麻辣燙として日本人からの人気も高い「頂マーラータン」、大久保駅側には中国の麻辣燙チェーンである「楊國福」といった、麻辣燙専門店がある。

糖葫蘆(タンフール)は、北京の街中でよく見かける串刺しの山楂(サンザシ)やイチゴに飴がけしたスイーツ。糖葫蘆も数年前に韓国で一時期はやっていた食べ物だ。

韓国ではモクバンと呼ばれる食べる様子を撮影した動画や、クリスピーチキンを食べる咀嚼音など、視覚や聴覚に刺激を与えて脳に心地よく感じさせるASMRというジャンルの動画が数年前から人気を博している。糖葫蘆も現地のユーチューバーなどが、ポリポリと食べるASMRやモクバンを配信したことで話題となった。

お祭りでも見かけるりんご飴のようなかわいい見た目に、「韓国でもはやった」という箔がついたことで、糖葫蘆を扱う店も新大久保に進出している。

大久保駅近くにある「源記」はタピオカなどを売るドリンクスタンドで、サブメニューとして糖葫蘆も扱っている(夏は温度で飴が溶けてしまうため現在は販売停止中)。メニューにはカタカナで「タンフール」と書いてあり、中国語話者でなければ字面からはどんな食べ物か想像もつかなそうだが、冬の販売期間中は日本人でも購入する客がいるそうだ。

大久保通りと職安通りを結ぶイケメン通りの「Uncle Joe」は、いちごの糖葫蘆専門店。キッチンカーのようなプレハブ小屋に店を構えていて、値段はビッグサイズのいちごだと3粒で500円、小サイズのいちごだと4粒で500円。店の前には韓国アイドルのパネルや写真が展示されており、韓国好きの客を狙った店構えになっている。

いちごの糖葫蘆専門店

元々は北京で売られていた糖葫蘆。いまでは新大久保でも売られている(写真:筆者撮影)

韓国で糖葫蘆がバズってから数年経ち、韓国人の友人も「今ははやっていない」と話していたが、同じように一時期はやったチーズハットグに今でも多くの若者が並んでいるところを見ると、韓国ではやったことがあり、SNS映えする食べ物であれば、新大久保では生き残っていけるのかもしれない。

ガチ中華は新大久保でも定着するか

今回、見つけた3つの食べ物以外にも、大拉皮(ダーラーピー)という太い春雨が、韓国のユーチューバーに紹介されたことで現地でバズり、日本でも知られつつある。このように韓国経由で、日本でもバズる中国ルーツの食べ物は多い。

近年は「ガチ中華」が東京を中心にはやるなど、中国のフードカルチャーが日本人にも受け入れられつつある。麻婆豆腐や回鍋肉(ホイコーロー)などはすっかり日本の中国料理の定番として定着しているが、今回紹介したような、日本人にとっては今まで馴染みがなかった中国料理は新たなジャンルとして定着するのか、今後も注目したい。

(阿生 : ライター)

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