人と同エリアに入らない「パンダ間接飼育」の意味

ひとり立ち後、元気に竹を食べる1歳の楓浜。2022年5月29日(筆者撮影)
ジャイアントパンダ、楓浜(ふうひん)のひとり立ち後の様子を紹介する後編。ひとり立ちに合わせて新設された遊具の特徴や、新居でのパンダの公開事情も伝えます。
前回:『和歌山のパンダ「ひとり立ち」と同時に引っ越す訳』

楓浜、新たなステップ

アドベンチャーワールドで生まれた1歳の雌のジャイアントパンダ、楓浜が新たなステップに進んだ。2022年6月上旬から、人が動物と同じ空間に入らないで飼育する「間接飼育」へ移行したのだ。

パンダは成長すると力が強くなり、牙や爪も鋭くなる。すると飼育スタッフがケガをする恐れがあるので、直接飼育から間接飼育に変える。その時期について、アドベンチャーワールドでは、パンダの体重が40~50kgになったときを目安にしている。

楓浜は2020年11月22日に体重157gで生まれ、2022年5月下旬時点で55kgになった(参照:『和歌山「赤ちゃんパンダ誕生」5つの異例な事情』)。赤ちゃんの頃は、母親の良浜(らうひん)だけでなく、飼育スタッフにもじゃれついて、時には掃除のじゃまをしたことも。間接飼育になったので、こうしたことはもうない。

初公開の日の楓浜。「直接飼育」なのでスタッフが抱っこできた。2021年3月12日(筆者撮影)

楓浜は2022年4月12日にひとり立ち(親離れ)を果たすと同時に引っ越した(参照:『和歌山のパンダ「ひとり立ち」と同時に引っ越す訳』)。誕生時から暮らしてきたのは、両親の永明(えいめい)と良浜もいる「ブリーディングセンター」。新居は、そこから徒歩5分ほどの場所にあり、3頭の姉がいる「パンダラブ」だ。

1頭での生活をスタートする楓浜が楽しく過ごせるように、飼育スタッフは「ブリーディングセンター」で楓浜が使っていた遊具も持っていった。飼育スタッフの中谷有伽さんは「遊ぶ、採食するといった選択肢を増やすためにも、運動場に出すおもちゃや竹の種類は、少し多めにしています」と説明する。

さらに楓浜の引っ越しに合わせ、「パンダラブ」の屋外運動場には遊具を4月27日に新設した。楓浜だけでなく、ほかのパンダも過ごしやすいように設計している。

例えば、パンダが高い場所で竹を食べたり寝たりできるように、遊具のてっぺんには、広々としたスペースを確保した。「パンダラブ」にいるパンダたちの5月下旬時点の体重は、楓浜の55kgに対し、桜浜と桃浜は約110kg、結浜は約105kgで、楓浜のほぼ倍。大きな体つきになっている。新しい遊具は、こうしたパンダたちも、ゆったり過ごせるつくりにしている。

4月27日に新設された遊具の上でくつろぐ桃浜。この遊具から、右の木に渡れるよう橋渡ししている。2022年5月29日(筆者撮影)

遊具や木の高さを決めるポイントは?

一方で、子どものパンダは高い木に登るのが好きだ。これは、野生の子パンダが外敵から身を守る習性のためとされる。筆者は中国・四川省の広大なパンダの飼育施設で、のけぞるほど高い木に登った子パンダたちを見た。「パンダラブ」には、そこまで高い木はない。

中谷さんによると「遊具も含め、さまざまな検討をしていますが、なによりもパンダたちが安全に暮らすエリアであることと、ご覧いただくお客様にも危なくないようにすることを重視しています。例えば、大きな木を植えて、それが倒れて橋になり、パンダたちが運動場から出てしまうこともリスクとしては考えられます。そういったことを避けるためにも、いろいろ考慮しながら、遊具や木の高さを決めています」とのことだ。

楓浜といちばん年齢が近い姉の彩浜(さいひん、3歳)が「パンダラブ」にいた頃は、比較的高い3mほどの木によく登っていた。今回、新設した遊具からこの木に渡れるように、1本の大きな木で橋渡ししている。ただ、楓浜は最近、竹を食べる時間が増えているので、遊具のてっぺんに竹を持っていって食べることが多いという。遊具が気に入ったようだ。

「パンダラブ」にいた頃、木登りしていた彩浜。2021年3月14日(筆者撮影)

つねに1頭が公開休止

現在、「パンダラブ」ではつねに1頭が公開休止となっている。「パンダラブ」には屋内運動場が2カ所、屋外運動場が1カ所の計3カ所の公開エリアがある。対してパンダは、楓浜が引っ越してきて4頭に増えた。また、パンダは暑さが苦手な動物なので、暑ければ屋外運動場を使わず、冷房の効いた屋内運動場の2カ所のみを使い、交代で公開する。この場合は2頭が公開休止となる。

4頭をいつ、どの公開エリアに出すかは、どうやって決めるのだろう。

「最終的には、全頭がすべての運動場に出られるようにしていきます。ただ、新しい場所に移動してきてすぐの頃は、環境に慣れるためにも、ある程度、同じ運動場に解放して、様子を見ます。

それぞれの運動場の遊具は、パンダたちの成長度合いに応じて設計しています。幼いうちは、安全な高い木の上で過ごす習性があるので、高い遊具がある運動場に多く解放します」(中谷さん)

楓浜は「パンダラブ」に来て日が浅いので、同じ運動場にいる時間が長いということだろう。筆者が訪れた5月29日もそうだった。開園直後は、桃浜が外、結浜と楓浜が室内にいて、桜浜は公開休止。

気温が上がった午後に再訪すると、外はパンダ不在になり、桜浜と楓浜は室内、桃浜と結浜は公開休止となった。同じ時間に4頭を見ることはできないが、このように時間をずらせば、全頭を観覧できる可能性は高い。

パンダ7頭は10年前の9頭に次ぐ多さ

アドベンチャーワールドでは現在、「パンダラブ」に4頭、「ブリーディングセンター」に3頭の計7頭のパンダが暮らしている。これまでに17頭のパンダが無事に生まれ育ち、このうち11頭が繁殖のため中国へ渡った。

7頭のパンダがいる状況は、同園として2番目に多い。最多は9頭。10年前の2012年8月10日に優浜(ゆうひん)が生まれ、双子の愛浜(あいひん)と明浜(めいひん)が同年12月14日に中国へ旅立つまでの期間だ。筆者も同年11月末に訪れた。当時は「パンダラブ」が2013年に完成する前なので、公開休止のパンダは現在よりも多かった。

2012年8月に生まれ、2017年6月に4歳で中国へ旅立った優浜。優浜の誕生により、当時のアドベンチャーワールドのパンダは史上最多の9頭になった。2012年11月(筆者撮影)

アドベンチャーワールドで生まれ育ったパンダとして17頭目になる楓浜。これまですくすくと育ってきた。最初に食べたものはリンゴで、2021年5月11日に食べた。1歳1カ月頃には、乳歯のほとんどが永久歯に生え変わり、糞に竹が混ざり始めた。竹を食べられるようになったということだ。2021年11月22日の1歳の誕生日会には、大阪にある中国総領事館の薛剣(せつ・けん)総領事が来て、リンゴをプレゼントした。

6月下旬時点では、1日に約10㎏の竹のほか、リンゴ、ニンジン、動物用ビスケットを食べている。春はタケノコも入荷するので、楓浜は2022年5月下旬時点でタケノコも少し食べている。タケノコは柔らかくて栄養豊富なため、野性の赤ちゃんパンダの離乳食になることもある。楓浜にとっても食べやすそうに思えるが、中谷さんはこう指摘する。

「タケノコは竹に比べ水分量が多く、カロリーも高いので、与えすぎるとお腹を壊しかねません。子どものパンダに限らず、大人のパンダもタケノコを食べすぎると、お腹を壊すまではいきませんが、ウンチが柔らかくなり、普段のラグビーボール状ではなくなることもあります。ウンチの状態も見ながら与える量を決めています」

1歳の誕生日に「直接飼育」でスタッフからリンゴをもらう楓浜。2021年11月22日(筆者撮影)

2歳をメドにミルクは終わり

ミルクについては、楓浜が2022年4月12日にひとり立ちするまでは母乳を中心に育ち、補助的に人工乳「PANDA MILK-10」(パンダミルク-10)を与えていた。ひとり立ちしてからは人工乳だけだ。

人工乳を飲む量は、2022年1月中旬時点で1日に400mlだった(参照:『世界初パンダ専用ミルク「日本」で開発の深い事情』)。だが5月下旬時点では、1日に1500mlほどを数回に分けて飲んでいる。

アドベンチャーワールドでは、基本的にどのパンダも2歳の誕生日をメドに、人工乳を与えるのをやめている。「楓浜が竹をたくさん食べられていると判断したら、ミルクの量を減らしていき、2歳のときにゼロになるようにします」(中谷さん)。

楓浜はどんな性格なのだろう。月齢や飼育スタッフの捉え方によっても異なるが、現在は好奇心旺盛な性格がいちばん強く、運動場や遊具に興味を持っているそうだ。

このほかの性格としては、比較的おとなしい点が挙げられる。「桜浜ほどマイペースで、のんびりした感じではありませんが、同じ月齢の頃で比べると、結浜と彩浜のほうが活発でした。楓浜は、ゆったりと竹を食べる時間が長く、ほかのきょうだいと比べると、おとなしいほうかなと思います」(中谷さん)。

ひとり立ちと間接飼育を経験しながら、着実に大人への歩みを進めている楓浜。これからも成長が楽しみだ。

(中川 美帆 : パンダジャーナリスト)

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